ギャップが生み出す日本社会の歪み
──原発と共に生きていく人たち

迷惑施設である原発。家の近くにあったらいやだよねっていう感覚を持っているはずだと多くの人は思うんだけど、実はその立地地域に行くと、それとうまく共生しているんです。
なんならその地域にとって原発は幸せの象徴になっている。それはゆがんだ意味も含んでいるわけなんですけども…。
最初は私も偏見を持って内情を調べに行くんです。例えばタクシーに乗って運転手さんに話を聞くと、原発が出来る前は家の地域は寒いし仕事もない。そういう所に原発の建設が始まったころから家族全員で暮らせるようになったと。
リスクもあるという話も聞いているけれど、原発と共に生きていくんだという言葉を聞くわけなんです。それはマスメディアとか、都市部では聞かないような言葉で、このギャップがある面では日本社会の歪みを作っているし、一方で戦後社会を作ってきた何かであるという事も言えるんですよね。

──立地地域内部の人に感じるギャップとは

原発っていうものへの見方ですね。圧倒的に悪であるとか、怖いっていうレッテルを貼ることによって、その内実を細かく見ていこうという事を止めてしまうような感覚と、内部に行ったらそういう話も全部踏まえたうえで、より豊かなとらえ方があると。
良いとか悪いとかは別にして、内情を知らないことには問題は解決していかないんです。細かく見ていかないと、とにかく否定するっていうところじゃ見えてこないことがあるんです。

青森行った時の話なんですけど、原発関連施設が出来て雇用もすごく増えて子供たちも働けるようになって、次に何が欲しいですか?ってなった時に「マクドナルドやスターバックスが欲しい!」という声があったんです。この感覚っていうのは私も田舎で育ってきたし、同じように地方で育ってきた人とも共有できると思うんですけど、ただ東京育ちの人だとなかなか伝わらないかなぁと思います。
自分の周りには無いのに、テレビの中にはそれがきらびやかにある。その便利さ。未来がそこにあるような感じ。というものが遠いかもしれないけど、原発とか迷惑施設と呼ばれるものを貧しい地域に呼んできているのかもしれないです。

これは今に始まったことではなくて、戦後社会ずっとそうだったんですよね。1960年代に原発が日本各地に出来ていますけど、その時にテレビの中では東京オリンピックをやっていて、高速道路がどんどん走っている。でも、自分の家の外を見ると茅葺き屋根の家があるっていうのが日本全国であったわけです。
そういうものを直視して、今でもそういうギャップがあるんだ、そこで起こっている事ってなんなんだろうと見ていかないとダメだと思っていますね。

福島の食の現在
──お米の安全対策「全量全袋検査」

「全量全袋検査」というものを福島のお米ではやっているんです。その名の通り、福島でとれた米は全部袋詰めした状態で計りますよ。という検査で、年間1000万袋くらいずつ検査してきているんですけど、2012年から始まって国の基準値は1キロあたり100ベクレルなんです。
この基準値を超えているものが1000万袋のうち何袋でしょうか?って聞くと世間のイメージでは、1万袋とか、1%の10万袋くらいあるんじゃないの?っていう方も結構いらっしゃるんですけど、2012年、71袋。2013年が28袋。2014年が2袋。2015年が0だったんです。
こんなに激減したのは理由があって、ひとつは徹底的に計るということだったんです。お金の話をしちゃうと、この「全量全袋検査」は50億円くらいかけています。お店に並ぶような袋詰めのようなものはもちろんなんですけど、田舎だと自分のところで取れたものは自分の家で食べたり、配ったりするじゃないですか。そういうものも含めて計っているんですね。
それだけじゃなくて土壌とか水を徹底的に検査をしてきたという事がこういう結果になったことの理由のひとつだと思います。

――農家の命、土を守るために出来る事

放射性物質を処理するような地検っていうのは、核保有国にはあって、一番日本の土壌と天候にあうのが「カリウム散布」という方法だったんです。今、基本的には福島の原発事故以降に出てきた放射性物質で対応するべきものは放射性セシウムというものなんです。
これが土に降り積もってしまって今でもあるんですけど、このセシウムというものを削り取る除染という作業もアリではあるんですけど、農家的にはそれは結構きついんです。なぜかというと、土は何十年もかけて育ててきた農家の命なんです。

土を削らないでもやれる方法が無いのかっていうのを模索していく中で、カリウムを撒くということに至ったんですね。放射性セシウムとカリウムって科学的には似た挙動を植物の中でするんです。セシウムが多そうな土地だっていうのが事前に分かったら、それ以上にカリウムを撒くんです。カリウム過多にすることで作物はセシウムの代わりにカリウムを吸い込んでセシウムは吸わないというのが分かったんです。

――海産物の現状は

福島の海産物は、2011年にサンプリング調査として場所と魚の種類を変えて2000くらいサンプルを取ったんです。その時は800くらい引っかかっていました。それが今どうなっているかというと、2015年に8500くらいサンプルを取って、引っかかったのは4匹だけだったんです。
場所は富岡といわきだったんですけど、富岡は原発に一番近い所のサンプリングだったんです。なぜそんなに減ったかというと、原発から汚染水が出てきているというイメージがあると思いますが、汚染水も確かに出てはいるんですけど原発に一番近い所の海で1リットルあたり1ベクレル前後なんです。これは、飲料水としての基準をクリアしてしまうくらいの量なんです。
でも、汚染水はすごく出ていました。出ていたのは初期の数か月なんですね。魚の話に戻しますと、その汚染水がすごく出ていた初期の数か月に生きていた魚は体の中に大量に放射性物質があるんです。魚って世代交代早いですから、だいたい1年くらいで子供を産んでいきます。今はもう5年も経っていますから、最初は8割が体の中に放射性物質が入っていたけど、その8割もほぼ死んでいるわけなんです。
そして、先ほど4匹の魚が基準に引っかかったと言ったんですけど、その魚がどれも寿命が長い魚だよねということが分かったんです。
ただ、農作物よりもイメージはなかなか改善しないなぁと思いますね。漁師さんたちもそれを分かっているので、市場に出回るようなものを汚染された状態にはしないぞ。という事で、慎重に週に1回か2回くらいしか漁に出ないっていう事を続けていますね。


開沼博 オフィシャルサイト | Kainuma,Hiroshi Official Site
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