NAGOMI Setouchi

2019
09/21

瀬戸内国際芸術祭 edition
Setouchi Triennale 2019
「夏の終わりの小豆島。前編」

もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」

瀬戸内国際芸術祭2019の秋会期が間もなく始まります。瀬戸芸スペシャル・ナビゲーターの前田エマさんは、瀬戸芸の舞台となる島や町、集落を訪れ、取材を続けています。今週は、小豆島へ。ここは香川県の高松港。小豆島の池田港行きフェリーが、港に入ってきました。
「瀬戸内国際芸術祭2019」

高松港から出航するフェリーや船は、必ずこの「赤い灯台」のすぐ横を通ります。何度も瀬戸内を旅し、高松から島々への船に乗っていると、この赤い灯台が、とても身近なものに、そして特別な存在に、感じられるようになってきます。赤い灯台の後ろには、高松のシンボル、屋島。

アメリカの有名雑誌で、「今、世界で一番訪れるべき場所」の堂々ナンバーワンに選ばれた、「SETOUCHI 瀬戸内」。1年を通じて、世界中からたくさんの旅人、外国からの観光客を迎え入れています。静かな内海、青い瀬戸内海。この多島海の風景は、きっとあらゆる人にとって独特な風景に見えるはず。忘れがたい景色を見せてくれる瀬戸内、瀬戸内海国立公園は、日本で最初のナショナルパークです。

小豆島に着きました。海の色はこんな感じ。海の色の美しさ、浜辺の白さは、ハワイにもタヒチにもモルジブにも負けていません! ザ・セトウチ・ブルーです。

前田エマさんがやって来たのは、そんな青い海から山へと上がった森の中。小豆島は山や森も魅力的な大きな島(瀬戸内海で2番目に大きな島です)。小豆島町の中山という地区にある、「うすけはれ」にやって来ました。

森に囲まれた小径を上がると、奥に古民家があり、そのさらに奥に、古い倉庫のような建物がありました。蝉の鳴き声、鳥のさえずりが響く場所。「うすけはれ」とは、変わった名前……どんな意味なんでしょうか。

「うすけはれ」は、セレクトショップとギャラリーとカフェがひとつになった空間です。オーナーご夫妻が愛するものたち、自分たちが着たい衣服や身につけたいアクセサリー、持っていたい置物、日々使いたい皿や茶碗……、つまり、「自分たちが好きなもの」を集め、売っている場所。作家の展示会や個展が開かれ、店内奥にはカフェ・スペースもあります。

「うすけはれ」

埼玉県出身の上杉新さんと、小豆島で生まれ育った道代さんのご夫妻が、2017年5月に開いた、小豆島の山の中、森の中にあるギャラリーショップ、「うすけはれ」。前田エマさんが訪れたのは9月のはじめ頃。この頃、道代さんのお腹は大きく、臨月でした。今ごろ、元気な赤ちゃんが産まれているはず……

いろんなものがあって、ただ愛でているだけでも楽しい空間です。

ここはかつて、「宇助」という名の手延べ素麺の工場だったそうです。写真の、天井についているファンは、この室内で素麺を乾燥させるために廻していた扇風機。そう、小豆島は素麺で有名な島。今も各地に素麺屋さん、素麺工場があります。上杉新さん、道代さんがこの場所を知ったとき、この辺りに暮らす地元の人たちはみんなここを「宇助」と呼んでいました。新さんと道代さんは、「地元の人たちに長年親しまれた宇助という名前を残したい」と思ったそうです。

「うすけはれ」には2つの意味があります。手延べ素麺の工場だった頃の思い出を懐かしむ「うすけ」と、日本古来の言葉、「ケ=日常」と、「ハレ=非日常」、その3つの単語をひとつに結び、「うすけはれ」。その名の通り、ここへ来ると、日常と非日常の狭間で揺れるような、小豆島の森の中なのにどこか別の場所にやって来たような、そんな感じを抱きます。世界中の何処でもない、小豆島の中山集落の森のこの場所にしかない、そんな「うすけはれ」です。小杉新さん、道代さん、穏やかな時間をありがとうございました。また来ます!(そしてそのときには、3人になっていますね)

「うすけはれ」がある中山地区は、「農村歌舞伎」や「虫送り」といった伝統行事が今に伝わっている場所。前田エマさん、「うすけはれ」からすぐのところにある、農村歌舞伎場に立ち寄ってみました。歌舞伎場は、神社の境内にあります。

農村歌舞伎とは、農村に暮らしている人たち、つまり住人が、役者となって演じる歌舞伎。昔、歌舞伎はこのようにして地域に根ざし、人々に楽しまれ、受け継がれていたんですね。エマさんが座っている地面が、観客席。こちら側に舞台があるのです。この夏も、農村歌舞伎がおこなわれました。

神社を出ると、陽が傾いていました。すぐ目の前は谷間になっていて、棚田が広がっています。中山地区は、棚田でも有名な場所。

秋の棚田の風景がそこにありました。夕陽を浴びて黄金色に輝いていました。

棚田の中に溶け込むアートは、第一回目の瀬戸内国際芸術祭参加作品、中国のワン・ウェンチーによる、「小豆島の恋」
「小豆島の恋」

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