柔らかな光に包まれる夕暮れから、夜の世界へと表情を変える特別な時間に素敵なお客様をお迎えするこの番組、
今回は、作家の上村裕香さんをお迎えしました。
2000年、佐賀県佐賀市生まれ。第21回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞し、今年4月に初の著書「救われてんじゃねえよ!」を出版した期待の新人作家、上村裕香さん。京都芸術大学大学院に在学中の上村さんですが、現代社会に潜む「ヤングケアラー」という、若者が家族の介護を担う現実を描き出し、多くの読者に衝撃と共感を与えています。
◆実体験から紡がれる「嘘」の中の「真実」
「救われてんじゃねえよ!」では、高校生の主人公・さっちゃんが病気の両親を介護する日常が描かれていますが、上村さん自身も、ヤングケアラーとしての経験があるそう。「特に表題作のラストシーンのその母を介護しようとして起き上がらせようとして、一緒に倒れ込んでしまうって、なんか笑ってしまうっていうそのシーンとかは、自分の実体験に基づいてるものですね」 と、作品にリアリティが込められているそう。
作品全体を覆う閉塞感と、それでもタフに生きる主人公の姿・・・上村さんは、「沙智(さっちゃん)の感情だったりとか、沙智の視点っていうのは、自分に近いものがすごくある」 と語ります。
◆小説との出会いと「書く人生」
上村さんの「書く人生」の始まりは、意外にも早く、小学校4年生の国語の授業でした。わずか原稿用紙4枚のSF小説。「子供だけの世界に突然なってしまって、大人がいなくなったので、世界が制御効かなくなって、すごいあちこちで火事が起きたりしてるっていう」 と、当時の瑞々しい発想を振り返ります。このSF小説が、彼女が小説にハマる決定的なきっかけとなったそう。
ただ、当初は「書く」よりも「読む」ことに没頭したという上村さん。新人賞への応募を始めたのは大学に入ってからで、それまでは「いつか小説家になりたいなって気持ちだったんですけど、すごく遠い将来の夢みたいな気持ち」 で、人にはあまり言わない夢だったと言います。「宇宙飛行士になるみたいなのと一緒」 と表現するほど、現実離れした夢だったよう。
◆「仕事になった」小説家としての今
念願叶って小説家となった今、自身の職業を「不思議な職業だなと思っています」 と感じていルソウ。「あの時の憧れの気持ちと今、小説を書いて編集さんとかと打ち合わせをして、文芸誌に載って本が出てみたいなのは、あんまり地続きにないような感じがしていて」 と、憧れと現実のギャップがあるよう。ですが、「仕事になったなという感覚はあります」 と、作家としての覚悟と手応えも感じているようです。
「合ってるなと思います。どんなところがって聞かれると、めちゃくちゃ嘘ついていいじゃないですか、何でもありですからね」 と笑顔を見せる上村さん。出版社の編集者との打ち合わせで、自身の頭の中にしかない「嘘の話」を真剣に聞いてもらえることに喜びを感じているのだとか。
「自分は嘘を書いているんですけど、その中にすごい本当を書いていると思っている」 と話す上村さん。物語を紡ぐこと自体が楽しく、それを読者や編集者と共有し、面白がってもらえることに喜びを感じていて、まさに「天職」と感じているのだとか。
京都芸術大学大学院での「メディアコンテンツ研究」 と小説家という二足のわらじを履きこなす上村裕香さん。
来週はそのプライベートの姿に迫ります。
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