Sparkle Life

Sparkle Life

Article -Sparkle Life-

16 May.2026

Vol.380 小川洋子さん



柔らかな光に包まれる夕暮れから、夜の世界へと表情を変える特別な時間に素敵なお客様をお迎えするこの番組、
今週は先週に引き続き、作家の小川洋子さんをお迎えしました。


◆玉露を一杯——書き始める前の、祈りに似た時間
毎回ゲストのお好みのお飲み物でお迎えするこの番組。小川さんのリクエストは「玉露」でした。
「心をゆっくり沈めたいときにいただくようにしています」と話す小川さん。一度沸騰させたお湯を少し冷ましてからゆっくり注ぐ——その丁寧な所作が、書くことへの向き合い方そのものを表しているよう。
特に玉露を淹れるのは、「一行目を書き始めるとき」「第一章が終わって第二章に入るとき」「いよいよラストの着地というとき」。「焦っちゃ駄目だぞ、と自分に言い聞かせたいときですね」とお話しくださいました。

◆原稿用紙5枚、カレンダーに記録——遅筆を支える小さな達成感
毎朝できるだけ早く起きて、さっさと机の前に座るという小川さん。1日のノルマは原稿用紙5枚で、書き終えた枚数をカレンダーに記録していくのが習慣なのだとか。「昨日6枚書けたから、今日4枚でもトータルでいいと自分を慰められる」と笑います。
実は、書くのはすごく遅いという小川さん。キャリアを重ねるほど「本当にそれでいいのか」という迷いが増し、一語一語を選んでは組み合わせ直す作業なのだとか。「若い頃は怖いもの知らずで書けたけど、だんだん決断できなくなってきて」。それでも「別に急いで書く必要はない」と、自分のペースを大切にされているようです。
また、10年以上続けているという手書きの日誌も執筆を支える存在。ちょっとした一行が、後から読み返すとその日の情景をまるごと蘇らせてくれるといいます。「ふと読み返して、相変わらず小説ばかり書く人生だなと思って——でもそれが幸せだな、と」と笑います。

◆小川さんの一生物は・・・アムステルダムで出会ったピンブローチ
その日も胸につけていた小さなピンブローチが一生物なのだとか。アンネ・フランクの隠れ家を訪れた際、近くのアンティークショップで目に留まったものなのだとか。
「箱を開けたとき、黄緑色のフカフカしたクッションの上にブローチが置かれていて、アンネ・フランクの棺のように見えたんです。ベルゲン・ベルゼン強制収容所で15歳のまま亡くなったアンネには、遺体も残っていない。でもこんな居心地のよさそうな棺の中で眠っているんじゃないかと思えて。アンネが書きたかったけど書けなかった言葉を、作家として受け取って物語に置き換えていけたら——そういう思いで、常にこのブローチを大切にしています」と話します。
「アンネは一種の天才だと思うんです。13歳から15歳という思春期の真っ只中で、自分のことをあれほど客観的に、豊かな言葉で表現できた。言葉を持つということは自由を与えてくれる——隠れ家に閉じ込められていても、言葉さえあれば人は自由に世界へ飛び出していける、ということを教えてくれた恩人です」。

◆37年間、書きたいことを書いてきた——表現の自由という当たり前
「37年間、こういう小説が書きたいけれど社会に受け入れられません、と言われて諦めたことは一度もない」という小川さん。自分の書きたいことを書いて発表できるのは当然のことのように思えるけれど、そうできない社会が今も世界には確かにある。「表現したいことを誰にも邪魔されずに自由にできるのは、才能や努力だけではダメなんだということを、アンネを思うたびに気づかされます」。

◆これからの夢
「これからやりたいことはずっと同じ。小説を書ければ、それだけで幸せです」と微笑む小川さん。そして少し表情を明るくしながら、「もうひとつだけ——阪神が日本一になって、優勝パレードに行きたいです!」と教えてくださいました。

小川洋子さんの最新刊『劇場という名の星座』は集英社から発売中です!
Sparkle Life

Message―メッセージ―

番組では皆様からの感想・メッセージをお待ちしております。

MORE

Listen―シェアラジオ―

聴き逃した放送を家族や友人でシェアしよう!ラジオ番組放送後、過去1週間に限り、いつでも、後から聴取できます。

LISTEN NOW

  • Facebook
  • twitter