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ゼロ・アワー
中山 可穂 (著)
税込価格:1,944円
出版社:朝日新聞出版
ISBN:978-4-02-251454-7

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「ノワールを書きたいんです。少し狂った美しい女の殺し屋が主人公の」。
著者がインタビューで、そう話しているのを読んだのは約2年前のことだ。楽しみに待っているうちにかなり期待値が上昇してしまったが、それを超えた読み応えある傑作が誕生した。
家族も友人もなく、タンゴだけを愛する冷徹な殺し屋。家族の命を残酷に奪われ、ただ一人生き残ってしまった美しい少女。殺し屋は1匹の猫のせいで運命を狂わせ、家族を失った理由を知った少女は、復讐のためだけに生きることを誓う。殺人者と被害者遺族として東京ですれ違った二人は、10年の時を経て、ブエノスアイレスで出会う。共に殺し屋という宿命を背負って…。
二人の主人公の孤独な魂が、究極の緊張感の中で、どうしようもなく響き合ってしまう。その繊細な心理描写が虚構を超えて胸に迫ってきた。情熱的な恋愛小説の書き手として知られる著者が、恋愛要素を封印して挑んだ作品であるが、読者を惹きつける美しさと激しさは、さらに研ぎ澄まされ迫力を増しているように思う。アルゼンチンの過酷な歴史、世代を超えた因縁、容赦ない殺人描写…。スピード感のある展開と緊迫感に助けられ一気に読み進んでしまうが、重厚で壮大な物語である。
新境地に立った著者が、次に生み出すのはどんな物語なのだろう? 次回作(続編切望!)への期待で胸が苦しい。まずは、ピアソラの名曲「タンゴ・ゼロ・アワー」を聞きながら再読しなければ…。


(評者:丸善丸の内本店 文芸書担当 高頭佐和子)


(2017/5/4 UPDATE)

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