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だから日本はズレている (新潮新書)
古市 憲寿 (著)
税込価格:799円
出版社:新潮社
ISBN:978-4-10-610566-1


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私はあまりTVの討論番組の類を見ないせいもあって、著者の名前は聞いたことがある程度でそれ以上は知らなかった。そんな私のような者でも日本はズレているとずーっと思っていたので、著者の見方が気になって本書を読んでみた。「はじめに」で29歳の著者は次のようなことを書いている。「よく若者代表として発言を求められる。大人は『若者のことがわからない』と知りたがる。しかし『大人たちの世界』のほうがずっと謎に包まれたものだ。国や企業の偉い人たち(本書では「おじさん」と書かれる。但し、条件つき)の考え方は往々にしてピントがズレていたり大切な何かが欠けていたりする」。
ここまでで単純に「若い学者が偉そうに…」などと思ってはいけない。著者は日本のズレを真剣に考え、しかも「僕の方がズレている可能性もある」と一回り大きい視点をきちんと見据えた上で書いているのだ。昨今のちょっとビジネスが当たって得意げな若手経営者などとは明確に違う。私自身は著者が言うズレた日本を作ってきた「おじさん」の世代なのだが、良い意味で裏切られたというか、著者の指摘・分析、考え方・見方の根底は同感だったのである。

著者は、最近の日本で求められる「強いリーダー」を現代組織に求める風潮自体が既にズレていると指摘する。強いリーダーに任せるだけではだめで、むしろ周辺にサポートする優秀なフォロワーの存在こそが重要なのだと。確かに著者がいうようにステーィーブ・ジョブズは凄い功績を遺したが、彼がいなくても何らかの似た商品は出てきたであろうし、ジョブズは失敗もしている。成功面だけみて救世主のように考えるのは本質を見ていない。ジョブズは「技術を革命のように見せた優れた宗教家だったと思う」という点は冷静な洞察だと思う。他にも「クールジャパン」を明確にしないまま議論している識者、道徳教育で「心」に期待しすぎる人々と警戒しすぎる人々、憲法草案…など日本には「ポエム」が氾濫しているだけでJ-POPのようだという見方も私は賛同である。また、テクノロジーから生まれた誰も欲しがらない変な新製品に関して書かれたパートは、思わず笑ってしまった(笑ってる場合じゃないんだろうが)。

実際の企業に入れば、おじさんたちが潰してしまっているのに、若者に期待を表明する経営者。そう、著者のいうように今の日本は若者だけで社会を変えることはできないのである。若者の本当の活用法を考えられずに「おじさん世界の一員」にさせているだけなのだ。だから、今社会を変えられるのは経験も人脈もお金もある実は「おじさん」だという指摘は否定できないだろう。
著者が2040年の日本を予測した部分は、おそらく「現在の危機感から見たらこうなっていくよ」という感じを含めて示したのだろう。他の内容と同じように比較すると違和感だけを覚えてしまう読者がいることだろう(もっとも著者は反論も承知の上)。

本書の最後で著者は「おじさんは中年男性に限った特徴ではない」「今いる場所を疑わなくなった瞬間が性別年齢に関係なく『おじさん』である」という。そして、おじさんたちも「自分たちの世界の崩壊に気づいているが、その解決策がまたおじさん流」であり「今ここにないものに期待し、今ここにあるものの可能性を見過ごしている」と記している。この一文、日本語だから意味は分かるだろうが、本当に真剣に変わるべきはやっぱり「おじさん」なのである。
本書は全体に本欄では紹介しきれない個性がある。他に取り上げたテーマも面白いし、特に著者の文章の中で、ある個人や企業などを批判する箇所が出てくるのだが、ニヤッとさせてしまうセンスがある。著者の年齢はもっと上なのではないかと勘違いしてしまいそうだ。

私がおじさん世代なのに、何で共感できる部分が多かったのか? おそらく著者の指摘するような経験をまさにしてきたのだろう。そして幸いに疑問を持ち続けていたからなのかな〜?


(評者:TOKYO FM 報道・情報センター 総合デスク 横山 茂)


(2014/5/31 UPDATE)

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