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脳はどこまでコントロールできるか?(ベスト新書)
中野 信子 (著)
税込価格:840円
出版社:ベストセラーズ
ISBN:978-4-584-12447-5

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「脳」に興味を持つ人々は多いことだと思う。こう書いたこと自体、既に私の脳がそう考えて妄想しているってことなんだなと、本書を読むと自然に無理なく認識できる。ヒトの脳に関する本は多々出ているが、脳の機能を単に説明した内容だったり、昨今はポジティブシンキングやスピリチュアル系なものも目立つ。ポジティブ思考がマイナスに作用すれば、はた迷惑な人種(意味を取り違えて単なる無反省な人間。私は勝手ながらポジティブバカと呼んでいる)を生んでしまう。

そんな状況の中、本書が登場した。脳科学者である著者が専門家知識を踏まえ、実験結果などを用いながら分かりやすく日常生活に当てはまる視点で、脳が持つ構造や特質を説明してくれている点が本書の最大の特長である。
人間の脳はすぐに錯覚に騙されやすく、勝手に妄想するものだと著者はいう。だから、妄想の力は使いようで大きく変わってくる。脳とはそういうものなのだ。例えばキャバクラに通う人はエッチな下心があったとしても、報酬系という回路が働き、オネエサンに褒められる言語によって「社会的報酬」という快感(仮にお世辞だとしても)が原動力になるとか、成功者を真似る自己暗示もミラーニューロンという神経細胞が働いて行動に反映される(「もらい泣き」も一例だそうだ)。つまり脳が行う妄想を理解した上で活用すれば個人に大きなプラスを生むことが出来るのである。

脳には「速い」「遅い」の二重の意思決定回路があって、現代社会では速いシステムが必要とされているが、その結果、目先に動かされて長期的視野に働く「遅いシステム」が見逃されがちになっているという指摘は、説得力がある。しかも脳は「正確さよりも確信を好む」のでリーダーは優秀な人がなるとは限らないという。思わず納得という方も多いだろう。

また、根拠のない思い込みから正しくない先入観や偏見を生じる『認知バイアス』の説明はとても興味深かった。先日の台風で多くの避難勧告が出たが「大したことはないだろう」と勝手に解釈する“正常バイアス”や「みんな普通にしている」という“同調バイアス”などは、普通に起きているわけである。更に、根拠ない先入観が都合のいい情報を集め、そこからある人の性質を決めつけてしまう“確証バイアス”、そして個々人では違うのに集団になると一定方向に進んでしまう“集団性バイアス”といった『認知バイアス』は、企業内や国家レベルまで起きるのである。

上記以外にも努力するほど空回りになるエミール・クーエの法則(意思と妄想が相反して妄想が勝っている)や「バンドワゴン効果」(周囲の評判に乗る)、どっちが得か冷静に判断できなくなる「サンクコストの錯覚」といった解説から、ドーパミンやセロトニン、食べ物、脳の男女差…と全編を通じて脳の理解が深まる。それだけでなく対処法が示されている箇所まであり、参考になる内容が満載だ。
「脳は環境でも変わる」「大人になっても育つ」。精神的領域や心理学にも及ぶ人間の脳の世界。本書を読めば脳にワクワク感が生まれてくだろう。


(評者:TOKYO FM 報道・情報センター 総合デスク 横山 茂)


(2014/10/25 UPDATE)

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