yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百三十九話 不安と寄り添って生きる -【東京篇④台東区竜泉】作家 樋口一葉-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百三十九話不安と寄り添って生きる

小説『たけくらべ』で有名な女流作家・樋口一葉の記念館は、台東区竜泉にあります。
「台東区立一葉記念館」。
彼女が居を構え、名作を産みだした、ゆかりの場所に立つ建物は、外見は現代風なデザインですが、中に入ると一転、町屋の板壁を模した造りで、あっという間に時間をさかのぼります。
名作『たけくらべ』の舞台は、まさしく竜泉あたりです。
吉原の廓(くるわ)に住む14歳の美登利と、僧侶の信如(しんにょ)の、淡い恋を描いたこの作品は、当時の子どもたちの様子や街の風情が色濃く映し出されています。
17歳で父を亡くした一葉は、家計を担う一家の大黒柱になりました。
小説家だけの収入では足りずに、この地で、荒物、雑貨、駄菓子を売る店を始めたのです。
しかし、商売はうまくいかず、結局引っ越してしまいますが、台東区竜泉での暮らしが、彼女の創作の原点でした。
彼女の小説からは、町の匂いが漂ってきます。
彼女の小説の登場人物たちは、本当にそこに生きているように命が吹き込まれています。
森鴎外、菊池寛、島崎藤村らは、一葉の作品を高く評価し、絶賛しました。
人気のすごさは、彼女の日記にしるされた言葉でもわかります。
「雑誌の編集者は、今や競争で私に執筆を依頼する。夜にまぎれて、私が書いた表札を盗むものもある。雑誌は飛ぶように売れた。すでに三万部売り尽くし、大阪だけで、一日で七百部売れた」。
それでも、一葉の心には、いつも不安がありました。
「しばし机にほおづえをついて考える。誠に私は女なのだ。つまらない作品を当代の傑作と言われるということは、明日はおそらく、ののしりの言葉が並ぶかもしれないということ。このような世界に身を置き、まわりには友人も、自分をわかってくれるひとなどいない。私はまるで全くひとりだ」。
不安と闘いながら、わずか24年間の人生を駆け抜けた、樋口一葉がつかんだ、明日へのyes!とは?

小説家・樋口一葉は、1872年5月2日、現在の東京都千代田区に生まれた。
本名は、樋口奈津。のちに夏子とも呼ばれた。
家は、お金に困ることはなく、教養あふれる祖父と父がいた。
幼い頃から、並外れた素質で周囲を驚かせる。
兄が読みあげる新聞の文章を、3歳にして、正確に暗記して復唱できた。
しかし、勉学に秀でることは、両親にとって喜ばしいことではなかった。
初等教育の義務化がすすんでも、いまだ女性に学があることをよしとしない風潮が残っていた。
「女は、勉強なんてできなくていいんだよ、本なんて読んでどうする。それより、お裁縫をしなさい、お料理を覚えなさい」
母がそう言った。一葉は、本が大好きだった。
暇さえあれば、本を読んで両親に怒られた。
負けず嫌いで反抗心が強い。一度こうだと決めたら絶対ひかない。
そんな一葉の性格を叩き直そうと、父は幼い一葉を蔵に閉じ込めた。
泣くだろう、わめいて助けを乞うだろう。
そう思っていたが、いつまで経っても静かだった。
蔵の重い扉を開けて、父は驚いた。
彼女は、蔵の奥にしまってあった書物を片っ端から読んでいた。あまりに集中して、戸を開けたことに気づかぬほどだったという。
彼女は日記に書いた。
「私は、八歳のときには、大人になったら、普通とは違う人生をおくることを望んだ」。

作家・樋口一葉は、幼い頃から、誰よりも抜きん出ることを望み、それができる自分を感じていた。
でも、最初の挫折が彼女を襲う。
12歳のとき、母が言った。
「学校、やめなさい。女が学校に長く通っても、ろくなことにはならないから」。
むしろ父のほうが一葉に教育を受けてほしかったが、母の意志は強く激しかった。
悔しい。勉強を続けたい。やれば私は誰よりもすごいひとになれるのに…。
泣いた。泣いてお願いした。
「お願いします、お母さん、学校を続けさせてください!」
母は許さなかった。
樋口一葉が学校に通えたのは、わずか6年。
以来彼女は、母の目を盗み、独学で学んだ。ひとに書物を借り、書き写した。
きっと自分は母が考えるような普通の人生などおくれない。
そんな漠然とした不安と恍惚(こうこつ)が、彼女の胸にあった。
ある冬の寒空の下、一心不乱に本を読む一葉。
手は真っ赤に腫れ上がっている。それでもページをめくる。
立ったまま、読み続ける。その姿を偶然、父が見た。感動した。
「この子は、本気だ」。
それ以来、父は母に黙り、一葉にこっそり本を与えた。
和歌や漢詩の書物も渡した。父は言った。
「結局人間には、二種類しかいないんだ。夢中になれるものに出会えたひとと、出会えなかったひと」。

樋口一葉は、歌人・中島歌子の門下生になった。
才能はすぐに開花。抑えられていた学問や芸術への欲求が、彼女を傲慢にした。自分より一生懸命でないひとを軽蔑する。
生意気だった。先輩だろうが、つまらないものはこき下ろし、蔑(さげす)んだ。私利私欲に生きる俗人を何より憎んだ。
「物語を最初に考えるひとは、生半可な努力じゃだめなの。血を吐くような思いをして初めて、ひとの心に届くものができる。お金のため?名誉のため?そんな汚れた心でいい歌は、詠めない!」
しかし、17歳で、父が突然この世を去る。唯一の理解者を失った。
しかも一家の家計は彼女の肩にのしかかる。
お金のためというのを最も嫌っていた彼女が、お金のために小説を書いた。慣れない商人もやった。うまくいかない。
この先、どうする…不安に押しつぶされそうになる。
書いても書いても納得のいくものができない。
原稿をやぶる。自分を罵倒する。そうしてようやく、気づいた。
不安が心の中にあるなら、それと向き合うしかない。寄り添うしかない。
消そう、逃げようと思っても、追いかけてくるのなら、真っ直ぐ対峙するしかない。わずか24年の人生だった。
でも、樋口一葉は、不安と向き合い、寄り添うことで、後世に語り継がれる作品を生み出した。
彼女は言う。
「断崖と荒野を越えて、大河は流れなくてはならない」。

【ON AIR LIST】
誰かの願いが叶うころ / 宇多田ヒカル
Royals / Lorde
Beautiful / Christina Aguilera
ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ / 松任谷由実

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと鶏肉、大根の蒸煮スープ

今回は、江戸東京野菜として都内各地で栽培されている、大根を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと鶏肉、大根の蒸煮スープ
カロリー
119kcal (1人分)
調理時間
75分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 鶏もも肉
  • 120g
  • 大根
  • 120g
  • 白菜
  • 1枚
  • 【A】干し海老
  • 10g
  • 【A】塩
  • 小さじ1弱
  • 【A】水
  • 400cc
  • 【A】葱油(市販品)
  • 小さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすい大きさにほぐす。
  • 2.
  • 白菜は一口大にちぎる。大根は皮をむき、食べやすい大きさに切り、白菜とともに湯掻く。
  • 3.
  • 鶏もも肉は一口大に切り、湯通しする。
  • 4.
  • 器に(1)-(3)、【A】を入れ、蒸し器で約1時間蒸し煮する。
  • ※白菜はちぎることにより甘みが出ます。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、「ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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