yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百五十一話 孤独から逃げない -【鎌倉篇】俳優 鶴田浩二-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百五十一話孤独から逃げない

鎌倉のお墓に眠る、昭和を代表する俳優がいます。
鶴田浩二。
墓石には、本名の小野榮一という名前と同じくらいの大きさで、鶴田浩二と刻んであります。
初期こそ、その甘いマスクでアイドル的な位置づけでしたが、のちに出演した任侠映画のイメージが鮮烈です。
また、独特の歌い方、哀愁に満ちた声で、歌手としても人気を博しました。
大ヒット曲、『傷だらけの人生』。
加えて、戦争での特攻隊の翳り。
硬派で無骨。
若者を敵対視する印象派、亡くなる10年前に出演した、山田太一の『男たちの旅路』に集約されました。
「オレは、若いやつが嫌いだっ!」
特攻隊の生き残りで、たくさんの戦友を見送ってきた主人公は、自分が生きている意味について深く内省します。
鶴田浩二の顔の皺ひとつひとつが苦渋に満ち、セリフの重さに、観たひとは居住まいを正します。
観るひとをひきつける力。
その凄さに、もしかしたら、彼自身がいちばん驚いていたのかもしれません。
現場では不遜、傲慢と揶揄されることもあったと言いますが、その一方で情にあつく、後輩の面倒見がよかったという逸話も残されています。
なにより、さみしがり屋。
自分の誕生日には、多くのひとを招き、自ら歌を披露しました。
「何から何まで、真っ暗闇よ 筋の通らぬことばかり」
鶴田浩二の人生は、まさに「傷だらけの人生」だったのかもしれません。
でも、彼は聴こえない左耳に手をあてがいながら、歌い続けました。
マイクと一緒に持ったハンカチは、次の歌手への気遣い。
汗をつけぬ心配りでした。
常に強気でありながら、優しさを忘れなかったからこそ、彼は伝説になったのです。
俳優・鶴田浩二が、62年の生涯でつかんだ明日へのyes!とは?

俳優・鶴田浩二は、1924年、兵庫県西宮市に生まれた。
両親は、結婚していなかった。
鶴田の父の実家が、結婚に反対していたからだ。
母は仕方なく、鶴田を連れて浜松に移り住み、別の男性と籍を入れた。
博打好きの義理の父は、働かない。
生計を立てるため、母は遊郭で働くしかなかった。
鶴田の面倒をみることはできない。祖母に預ける。
祖母は母を産んだときの栄養失調で、目が見えなかった。
祖母との暮らしは、貧しかった。
食べるものはごくわずか。
祖母の目の代わりになろうと、幼い鶴田は必死になってかばい、守った。
たらいで米をとぐ。友人に馬鹿にされた。
悔しい。でも、どうにもならない。
それでも歯をくいしばった。
やがて、祖母が亡くなる。
家に、たったのひとりきり。
さびしい。来てはいけないと言われていたのに、遊郭に足が向いた。
母に会いたかった。
…追い返される。
泣きながら、砂利道を歩いた。
自分の気持ちとは裏腹に、世界は夏で、太陽輝き、あらゆる生き物は生きることを謳歌していた。

俳優・鶴田浩二は、幼心に思った。
「何も、信じない。何も、期待しない。この世は無情で、救いなどない」
祖母が生きているとき、ごくたまに、母が訪ねてくることがあった。
お土産にお菓子を持ってきてくれる。
お菓子よりも、母がそこにいることがうれしい。
でも、どう甘えていいか、わからない。
絵本を読むふりをして、母の様子を見る。
母は、自分の肌着のつくろいをしていた。
ひと針、ひと針、丁寧に縫っていく。その背中を見ていた。
時間はあっという間に過ぎて、母が身支度を始める。
その瞬間が、怖かった。嫌だった。
「じゃあ、そろそろ」母が言う。
そこで初めて母にむしゃぶりついた。
「いかないで、お母さん、いかないで」
つかんだ母の肩が、細かく震えていた。
「じゃあ、かくれんぼしようか」
母が言う。鶴田はうれしくて、飛びあがる。
「やった!」
でも…かくれているうちに…母はいなくなる。
はだしで母を追いかけても、その姿は、どこにもなかった。
夕暮れだけが、そこにあった。
後年、鶴田浩二は、こう振り返っている。
「もしかしたら…母は泣きながら追いかける私の姿を、電信柱の影から見ていたかもしれない、涙を流しながら」。

鶴田浩二は、14歳のとき、俳優に憧れた。
「役者は、すごい。誰にだってなれる」
その事実は、孤独な少年には救いだった。

劇団に入りながら、関西大学の専門部に入る。
本が好きだった。
ツルゲーネフ、ゲーテ、ロマン・ロラン。むさぼるように、読んだ。
本の中に自分を探す。自分の孤独を癒す言葉を探す。
もっともっと勉強して、いい役者になってみせる!
そう意気込んでいたが…戦争の嵐が世界を襲った。
横須賀第二海兵団に二等水兵として入団。
大切だった本は、焼かれてしまった。
戦争終結まで、海軍航空隊に所属。
多くの戦友の最期を見届けた。
亡くなっていくものと、生き残るもの。
その差に、何の意味があるのか?虚無感がつのった。

22歳のとき、薬の副作用で左耳がほとんど聴こえなくなる。
それでも、生きることをやめるわけにはいかない。
無念で死んでいった仲間への思い…。それだけではなかった。
自分がこの世に生まれてきた意味を、つかめないでいた。
自暴自棄になるとき、いつも母の震える肩を思い出す。
少なくとも、自分にできることは、命をかけてやる。
傲慢だと非難を受けた。
大スター気取りだと批判された。
自分でもバランスがわからない。
強い自信と、激しい自己嫌悪。
ただひとつ、わかっていたのは、誰も助けてくれないということ。

「孤独から、逃げない。私は、その一点で闘ってきました」。


【ON AIR LIST】
THE SUN IS SETTING ON THE WEST / GODIEGO
THE SUN AIN’T GONNA SHINE ANY MORE / THE WALKER BROTHERS
THE SHADOW OF YOUR SMILE / 小野リサ
傷だらけの人生 / 鶴田浩二

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと筍、小松菜の煮びたし

今回は、鶴田浩二の生まれ故郷、兵庫県西宮市で盛んに栽培されている野菜、小松菜を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと筍、小松菜の煮びたし
カロリー
151kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 小松菜
  • 1束
  • 筍(水煮)
  • 1/2
  • 油揚げ
  • 1枚
  • 鶏もも肉
  • 1/2枚
  • 【合わせ出汁】
  • 出汁
  • 400cc
  • みりん
  • 大さじ2
  • しょう油
  • 大さじ2
  • 大さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、小松菜は3~4cmに切り、鶏肉は一口大に切る。
  • 2.
  • 油揚げは油抜きをして1cm幅に切り、筍は薄切りにする。
  • 3.
  • 鍋に【合わせ出汁】と筍、油揚げ、鶏肉を入れ、中火にかけて5~10分煮る。
  • 4.
  • 最後に霜降りひらたけ、小松菜を入れ、さっと煮る。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、「ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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