yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百九十五話 悔しさを信念に変える -【福島篇】第九代若松市長 松江豊寿-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第百九十五話悔しさを信念に変える

松江豊寿(まつえ・とよひさ)。
彼は、福島県若松市、現在の会津若松市の第九代市長として、上水道の敷設に尽力し、白虎隊の墓がある飯盛山の整備にも力を注ぎました。
いわば、会津若松市の土台を築いた偉人です。
しかし、彼を崇めてやまない、もうひとつの場所があります。松江が陸軍の軍人だった頃、俘虜収容所の所長を勤めた赴任先。徳島県鳴門市です。
鳴門市の坂東俘虜収容所には、千人にも及ぶドイツ人が収容されていました。
松江は、当時ではおよそ考えられないことをやり遂げました。
彼等ドイツ人に人道的な対応をしたのです。
彼はある収容所を見学した際、ひもでつながれ、同じ粗末な服を着せられた俘虜たちを見て、心を痛めました。
「いまは、ただ、このような立場であるが、いつなんどき、その立場が入れ替わるやもしれん。そのとき、どう思うか。常に相手の立場になって考え、己の義に背くようなことはしないこと。それこそ、会津藩の魂である」
彼が俘虜たちに自由を与えた結果、ベートーヴェンの交響曲第九番合唱付き、いわゆる『第九(だいく)』が、日本で初めてフル演奏されるという歴史をつくったのです。
昨年、その演奏会から、ちょうど100年でした。
その記念コンサート。『よみがえる「第九」演奏会』では、ドイツ人と日本人が一緒に『歓喜の歌』を歌いました。
その中には、当時俘虜だったドイツ人のお孫さんもいたのです。
俘虜たちは、松江のことを忘れませんでした。
100年の間、交流は途絶えることなく、続いたのです。
今、もし松江がその演奏会を見たら…。
涙を流し、『歓喜の歌』を歌うひとたちを見たら、どう思うでしょうか。
数々の悔しさを信念に変えた会津の偉人、松江豊寿が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

日本で最初の『第九』演奏を鳴門市にもたらした松江豊寿は、1872年、明治5年、会津に生まれた。
戊辰戦争から、4年後。
会津藩は幕末、旧幕府軍につき、新政府軍と戦ったため、賊軍の汚名をきせられる。
会津藩の武士だった松江の父は、北へ送られた。
いわゆる「島流し」。
極寒の場所が、流刑地だった。
飢えと寒さ。
厳しい現実に耐え、父は戻った。
幼少の頃、ときどき、父が豹変することがあった。
夜中にうなされる。
ふだん穏やかな父が、何かにおびえるように、何かから逃げるように、暗闇に泣き叫んだ。
松江は、そんな父が怖かった。
ポツリと、母が言った。
「お父さんはね、地獄から帰ってきたから、仕方ないんだよ」
地獄という響きが、恐ろしい。
「そこは、どんなところなの?」
聞くと、母が答えた。
「ほんとうに恐ろしいのはね、場所でも施設でもない。人間なんだよ。人間はね、つつしみを忘れると、とんでもないケダモノになるんだよ。おまえにはまだ難しいかもしれないけれど、己を律するのは、己しかいない。人生にいちばん大切なのは、義。相手の立場に立てる、信念なんだよ」
うすぼんやりとした灯りに照らされた母の顔は、般若のようだった。
会津藩は、負けたかもしれない。
でも、人間性を辱められるほど、父が自分の人生に負けたわけではない。
父はよくつぶやいた。
「悔しい…悔しい」

松江豊寿は、仙台陸軍地方幼年学校に入校。
20歳のとき、陸軍士官学校に入隊した。
日清・日露戦争に出征。
軍人になる運命を信じて疑わなかった。
赴任先の植民地政策に反対。
しかし、民衆の蜂起を鎮圧する立場にいた。
彼らの声が聴こえるようだった。
「戦争に負けたら、人間ではなくなるのか? 我々に人権はないのか? 悔しい…悔しい」
父の影が重なる。
松江は、昇進を捨て去り、日本に戻った。
伊藤博文は、そんな彼を可愛がる。
自分の側近として重宝するが、松江は、やはり昇進より自らの信念に生きる道を選んだ。
俘虜収容所の所長の任を受け、徳島の鳴門におもむく。
坂東俘虜収容所。
そこには、第一次世界大戦のチンタオで敗れたドイツ兵たちがいた。
初めてみる彼らは、おびえていた。
「ここで、どんな仕打ちを受けるのだろう。生きて、ドイツに帰れるだろうか」
その瞳は青かったけれど、不安げな陰影は、どこか父に似ていた。
松江は言った。
「私の考えは、博愛と人道の精神、武士道の心です。みなさん、どうか心配しないでください。みなさんの悔しさ、少しだけ、理解できると思います。どうか、私のことを信じてください」

松江豊寿は、有言実行。
朝晩の点呼の時以外は、俘虜たちが敷地内で自由にふるまうことを許した。
外出も許可したので、当初、近隣の住民は怖がった。
でも、松江は粘り強く説得。
やがてドイツ人たちは、パン作りや機械修理の技術を住民に教えるようになった。

俘虜の中に、演奏ができるものが多いと見るや、楽器を手配。
当時では考えられないことだが、収容所にクラシックが流れた。
ドイツ人が通訳を通じて、恐縮しつつ提案した。
「私たちにとって、第九は特別な音楽です。みんなで集まって、練習してもいいでしょうか?」
松江は、もちろん許可した。
ある日、こっそりと練習を見に行く。
初めて聴く、第九。
感動した。
異国の音楽であるにも関わらず、そこには、悔しさがあり、信念があった。
夜中にうなだれる父の背中を思い出した。
この音楽をちゃんと演奏できるようにしてあげたい。
心から思った。

松江豊寿は、高邁な思想のもと、行動したのではない。
父の、そして自らの悔しさを信念に変えることで、全うに生きようとしただけだった。
今も鳴門の街には、常に、第九が鳴り響いている。

【ON AIR LIST】
JOYFUL JOYFUL / 尾崎亜美
THIS NIGHT / Billy Joel
EVERYTHING'S GONNA BE ALRIGHT / Sweetbox
交響曲第9番ニ短調作品125(合唱)第4楽章 / ベートーヴェン(作曲)、サイトウ・キネン・オーケストラ、小澤征爾(指揮)

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけの本格豚汁

今回は、会津若松の特産でもある、味噌を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけの本格豚汁
カロリー
312kcal (1人分)
調理時間
25分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 大根
  • 長さ5cm(150g)
  • にんじん
  • 1/3本(50g)
  • 長ねぎ
  • 1/2本(50g)
  • 豚バラ肉
  • 100g
  • 3カップ
  • 味噌
  • 大さじ4
  • みりん
  • 小さじ1
  • 七味唐辛子
  • 適宜
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。大根は皮つきのまま厚さ1cmいちょう切り、にんじんは皮つきのまま厚さ7mmの半月切りにする。長ねぎは1cm幅の輪切りにし、豚バラ肉は3cm幅に切る。
  • 2.
  • 鍋に大根とにんじん、豚肉を入れ豚肉の油でさっと炒める。
  • 3.
  • 水(1カップ)と霜降りひらたけを加え、沸騰後アクをとってフタをし、7~8分弱火にかける。
  • 4.
  • 大根が透き通り、にんじんにも火が通ったら味噌(大さじ3)を溶き入れ5分程したらフタをし火を止め、粗熱をとり味を染み込ませる。再び火にかけ残りの水を加え、ひと煮立ちさせたら、残りの味噌とみりん、長ねぎを加えさっと火を通す。
  • 5.
  • 器に盛り、お好みで七味唐辛子を振る。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、「ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる