yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

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第450話 生活に芸術を!
-【今年メモリアルなレジェンド篇】テキスタイル・デザイナー ウィリアム・モリス-

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©BTEU/KUGH/Alamy/amanaimages 今年、生誕190年を迎える、世界的に有名なテキスタイル・デザイナーのレジェンドがいます。 ウィリアム・モリス。 その名を知らなくても、彼がデザインした「いちご泥棒」を一度は目にしたことがあるかもしれません。 木々が生い茂る深い森を背景に描かれる、鳥といちご。 日本人にも大人気のこの作品には、モリスの思いが色濃く、凝縮されています。 彼が活動した19世紀のイギリスは、産業革命以後の華々しい技術革新と、工場の乱立。 大量生産、大量消費に経済はうるおい、人々は、表面上、便利で快適な暮らしを手に入れました。 しかし、内面はどうでしょう。 あふれかえる物質にスペースを奪われ、深く息をすることすら忘れる毎日をおくっていたのです。 モリスは、幼い頃見た風景を思い出しました。 神秘的な森。 そこには、解き明かされない秘密があり、ロマンがあり、未知への探求心がありました。 煌々と照らされる電気により、全てが明らかに映し出される生活の中にこそ、「不思議な世界」が必要であると彼は説いたのです。 大量生産による質の低下を恐れたモリスは、手仕事の刺繍や、手作りの椅子や調度品の復興を願いました。 「生活の中にこそ、芸術は必要だ」 そんな強い信念のもと、デザイナーに留まらず、詩を書き、社会主義活動に尽力し、世界をより豊かにするために、一生を捧げたのです。 迷ったときは、いつも幼い頃愛した森を想起しました。 ひとは、幼少期に見た原風景に癒され、守られる、そう信じていたのです。 モダンデザインの父、ウィリアム・モリスが人生でつかんだ、明日へのyes!とは? ©lm_photography /Alamy/amanaimages テキスタイルの神様、ウィリアム・モリスは、1834年3月24日、イギリス・ロンドン北部の街、ウォルサムストウで生まれた。 モリス家は、代々、ウェールズ出身の富裕層。 ウィリアムの父は金融の世界で成功し、母は教会と音楽に関わりが深い、由緒正しい家柄だった。 父が証券仲買人として巨万の富を得て、一家は、ウッドフォード・ホールに大邸宅を構える。 家のすぐ脇には、エピングという名の森があった。 モリスは、物心ついた頃から、すぐ近くに森があるという生活をおくる。 風にそよぐ木々。奇妙な声で鳴く鳥。 うさぎが顔を出し、リスが木によじのぼる。 緑にも、さまざまな色があることを知り、やがて、絵を画くようになった。 13歳で父が亡くなった朝、霧のような雨が降っていた。 モリスは、森に入った。 湿った緑の匂い。 奇妙な鳥が、何かにおびえるように鳴いた。 クチバシの赤さが心に焼き付く。 欲しいものならなんでも手に入るくらいに稼いでいた父も、一瞬でいなくなる。 神秘の森は彼を包み込み、気がつくとモリスは泣いていた。 「いちご泥棒」の壁紙で有名なウィリアム・モリスは、父の喪失感を埋めるかのように、19世紀イギリスのロマン派の大作家・ウォルター・スコットの歴史小説にのめりこむ。 フィクションの世界には、冒険があり、ロマンがあり、ミステリアスな事件があった。 現実と空想の世界。 リアルが厳しければ、フィクションの世界に逃げればいい。 そして、想像の世界は、心を伸びやかに広げてくれる。 「目に見えないものにこそ、大切なものが潜んでいる」 そんな考えが、彼の中で育ち始めた。 オックスフォード大学に進学したモリスは、当初、牧師になろうと思っていた。 実業の世界に、自分は不向きだ。 父のように、生き馬の目を抜く生活は送れない。 大学で、運命的な出会いが待っていた。 生涯の親友となる、エドワード・バーン=ジョーンズ。 エドワードもまた、幼い頃に母を亡くし、無慈悲な家政婦に育てられ、孤独な少年時代を送った。 同じく聖職者を志し大学に入ったが、二人の共通の話題は全て絵画や文学、芸術に関することだった。 特に二人が感銘を受けたのは、美術批評家・ジョン・ラスキンのこんな言葉だった。 「芸術というのは人間が労働から感じた喜びを表現したものである」 大学で意気投合した、ウィリアム・モリスと、エドワード・バーン=ジョーンズ。 中世芸術をより深く知るために、二人でフランスを旅する。 旅の最中、セーヌ川を見下ろす橋の上で、エドワードは、「ボクは、決めたよ。画家になる」と言った。 ほんとうは、モリスも画家になりたいと思っていたが、エドワードの才能の前に、気おくれしてしまう。 モリスは言った。 「僕は、建築家になる」 一度は本格的に画家の修行をしたが、ウィリアム・モリスは、芸術家になろうとは思わなくなっていった。 「生活の中に、労働の中に、デザインという名の芸術を持ち込めば、必ず生きることが楽しくなるはずだ。 僕は、生涯をデザインに捧げよう…」 当時、芸術は富裕層のものだった。 でも、モリスは、たった一枚、壁に面白い紋様の壁紙を貼るだけで、生活に彩りが加わるのではないか、そう考えた。 印刷技術や翻訳も学び、世界中のひとに、自分のインテリア装飾を広める努力をした。 今、日本の100円ショップで、自らデザインした「いちご泥棒」が買えることを、彼が知ったらどう思うだろう。 きっと、微笑むに違いない。 彼が幼い頃、大好きだった森を案内しているかのように。 「豊かさと神秘こそが、すべての模様作品のなかで一番大切なものである」 ウィリアム・モリス ©lm_photography /Alamy/amanaimages 【ON AIR LIST】 ◆BLACKBIRD / The Beatles ◆いちご協奏曲~フルート、オーボエ、ファゴットと吹奏楽のための 第2楽章 Andantino / 酒井格(作曲)、東京佼成ウインドオーケストラ、大井剛史(指揮) ◆SOLSBURY HILL / Peter Gabriel ◆MY HONEY'S LOVIN' ARMS / Bing Crosby
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RECIPE

レシピ

霜降りひらたけと春キャベツのマリネ

今回は、旬の春キャベツを使った、こちらの料理をご紹介します。

材料 (2人分)
  • 霜降りひらたけ 1パック
  • キャベツ 300g
  • ハム 4枚
  • 【A】オリーブオイル 大さじ2
  • 【A】レモン汁 大さじ1
  • 【A】おろしにんにく 小さじ1
  • 【A】塩 小さじ1/2
写真 カロリー / 194kcal(1人分)
調理時間 / 10分
使用したきのこ / 霜降りひらたけ
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。キャベツはざく切りにし、ハムは4等分に切る。
  • 2.
  • 耐熱ボウルに(1)を入れ、ふんわりラップをし、電子レンジ(600W)で3分ほど加熱する。
  • 3.
  • 【A】を加えて、混ぜ合わせる。

yesとは?

番組概要

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』今週あなたは、自分を褒めてあげましたか? 古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。あなたの「yes!」のために。

語り:長塚圭史 脚本:北阪 昌人 ▸ Profile

放送時間
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
  • TOKYO FM…SAT 18:00-18:30
  • FM大阪…SAT 18:30-19:00
  • FM長野…SAT 18:30-19:00
  • FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
長塚 圭史

PROFILE

長塚 圭史
語り: 長塚 圭史
1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。 また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。
北阪 昌人
脚本: 北阪 昌人
1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。 TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。 『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。 主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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