yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百三十八話 全ての基準を善に置く -【山形篇】写真家 土門拳-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百三十八話全ての基準を善に置く

山形県酒田市に生まれた、昭和を代表する写真家がいます。
土門拳。
酒田市飯森山公園にある土門拳記念館は、日本で最初の写真美術館。
白鳥が飛来する清廉な湖のほとりにあります。
1974年、酒田市名誉市民第一号になった土門は、自らの作品を全て故郷に贈りたいと願いました。
記念館の設立には、彼の友人たちがその才能を結集。
設計は、ニューヨーク近代美術館の改装を手掛けた谷口吉生。
中庭の彫刻は、イサム・ノグチ。
庭園は、草月流第三代家元・勅使河原 宏が手がけました。
さらに、入口近くに置かれた石に「拳湖」、こぶしに湖という文字を刻んだのは、詩人の草野心平です。
土門拳という圧倒的な求心力が、この記念館を造ったのです。
彼が主張したのは「絶対非演出の絶対スナップ」。
徹底的にリアリズムを追求し、『ヒロシマ』に代表される報道写真や、閉山した炭鉱に暮らす子どもたちを追ったスナップなど、市井のひとびとの暮らしに寄り添いました。
一方で、文豪や政治家など著名人のポートレートにもこだわり、川端康成や志賀直哉、棟方志功など、被写体の人格までもあぶりだす力強い写真は、今も、見るひとの心をわしづかみにします。
写真に命や思想、写す人間の魂までも焼き付ける作業は、ときに周りとの軋轢を生みました。
日本画の大家、梅原龍三郎を撮影したときは、あまりに土門が粘るので、梅原が激怒。
座っていた籐椅子を床に叩きつけましたが、土門は眉一つ動かさず、撮影に没頭。
結局、梅原は折れ、生涯で最高の一枚の写真が誕生したのです。
どこまでも自然光にこだわった土門は、東大寺、二月堂のお水取りの写真でも、真夜中にも関わらず、一切、人工照明を使いませんでした。
何度失敗を繰り返しても、信念を曲げない。
たいまつに照らされる表情は、まさしく「鬼」の形相だったと言います。
なぜ彼はそこまで強くなれたのでしょうか?
なぜ彼はそこまで揺るぎない自分を手に入れることができたのでしょうか?
リアリズム写真の巨匠・土門拳が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

土門拳は、1909年10月25日、山形県飽海郡坂田町、現在の酒田市に生まれた。
父は会社員、母は看護師。
貧しかった。
両親は出稼ぎに行くことが多くなり、土門は祖父母の家で育てられることになる。
6歳のときの記憶。
借金取りがやってきて、祖母を責め立てる。
ひとを蔑んだ口調、荒々しい足音が怖くて炬燵にもぐりこむ。
祖母が泣いていた。優しい祖母が、おいおいと泣いていた。
悔しかった。
布団を噛んで、土門も泣いた。
「貧乏だからだ、貧乏だからだ」
この悔しさ、哀しさは、彼の心の中心に、いつまでも居座り続けた。
でも、外に出れば、町一番のガキ大将。
彼が「みんな、あつまれ~」と大声を張り上げると、年上の子どもまでぞろぞろと姿を現した。
家の物干しざおを持ち出して、チャンバラごっこ。
夕方、家に持って帰るのを忘れ、祖父にひどく叱られる。
小学校にあがるとき、東京の両親に引き取られることになった。
酒田から、伯父と夜行列車に乗る。
不器用な伯父は、夜中になっても汽車の窓を閉めることができない。
土門は、ぶるぶる震えながら窓の外を見る。
底知れぬ暗闇が、どこまでも拡がっていた。

写真家・土門拳は、幼い頃、画家になりたいという夢を抱いた。
物心ついたときから感じていた孤独。
寂しさと哀しみが、彼に繊細な観察眼を与えた。
彼が画く絵の大人びた視点に先生は驚いたが、土門は、ただ見たままを描いただけだった。
十五号の薔薇の絵は、横浜美術展覧会で入選。
非凡な描写力は、すでに花開いていた。
授業料が払えず、中学校を辞めようと思うが、成績優秀で学費は免除。なんとか卒業できた。
本当は進学して美術を学びたかったが、やはり貧しさのため断念。
日雇いの仕事を続ける。
絵のことは忘れることにした。
絵をやっても食べていけるわけがない。
まずは、働くこと。
働いて、お金を稼ぐこと。
ただ、虚しさがつきまとい、ひとつの職場で長続きしない。
夜学の法科に通うが、それも辞めてしまう。
何か、夢中になれるものが欲しかった。
食べていくためだけではなく、情熱を傾けられるもの。
24歳で、遠縁の写真家の弟子になる。
絵心があるということで採用された。
初めて、カメラに触れた。
冷たい感触。それはただの機械。ただの道具。
でも、ときに写真が肉眼を越えるときがある。
その瞬間が、面白かった。
彼は思った。
「いい写真というのは、写したんじゃなく、ただ撮ったものをいうんだ。そこには計算はない」

それは土門拳が、26歳のときのこと。
師匠のお使いで電車に乗った。
午後の夏の陽射しが降り注ぐ車内。
向かいの席の白い帽子をかぶった女の子が、大きな口をあけて、あくびをした。
愛らしい倦怠感。
そこには、かつて自分が味わうことができなかった、幸せで退屈な日常が凝縮されていた。
彼は少女を、妬みや卑屈ではなく、善なる気持ちで眺めた。
柔らかな愛で見つめた。
パシャ。
土門はその瞬間を写し、「アーアー」というタイトルでアサヒカメラという雑誌に投稿。
入選した。
その写真が入選したことで、写真家の大家、名取洋之助の日本工房に入ることが許され、土門の世界が拡がった。
土門拳は、のちに言った。
「写真はあくまで善意のもので、従って写真家はこの世の最も善意の人である、というのがぼくの信念だ。人を傷つけるために、人を陥れるために、悪意をもってカメラを向けることがあってはならない」
自らの出自に恨みを抱くことなく、ただ善意で世界を眺め続けた土門の写真は、戦後、失意のどん底にあった日本人を励まし、癒し、やがて彼は、世界一優しい「鬼」になった。

【ON AIR LIST】
THE CAMERA NEVER LIES / Michael Franks
MIDNIGHT TRAIN TO GEORGIA / Gladys Knight & The Pips
PHOTOGRAPH / Diane Birch
BE THANKFUL / The Notations

【撮影協力】
土門拳記念館
http://www.domonken-kinenkan.jp/
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと枝豆の胡麻和え

今回は、酒田市で多く生産されている野菜、枝豆を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと枝豆の胡麻和え
カロリー
150kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 枝豆(さやつき)
  • 100g
  • 新玉ねぎ
  • 1/4個
  • 【A】塩
  • 小さじ1/3
  • 【A】すりごま
  • 大さじ3
  • 【A】ごま油
  • 小さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、新玉ねぎは薄切りにする。
  • 2.
  • 水2カップを沸騰させ、霜降りひらたけを1分程茹でザルにあげる。
  • 3.
  • 枝豆に大さじ1と1/2弱の塩をすりこみ、(2)の熱湯に水を1カップ加え、沸騰したら枝豆を4分茹でザルにあげ、粗熱がとれたら、さやからはずす。
  • 4.
  • ボウルに(2)、(3)、新玉ねぎ、【A】を入れざっくり和える。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、「ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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