yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百七十四話 古いものは全て捨て去る -【鳥取篇】女優 乙羽信子-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百七十四話古いものは全て捨て去る

鳥取県米子市に生まれた、昭和を代表する名女優がいます。
乙羽信子(おとわ・のぶこ)。
テレビドラマでは『おしん』で晩年の主人公を演じ切り、映画では『愛妻物語』『裸の島』など、世界的にも評価の高い名画に主演。
映画監督、新藤兼人(しんどう・かねと)との二人三脚で、彼女は本格的な女優への道を突き進みました。
遺作となった作品は『午後の遺言状』。
乙羽は、末期の肝臓がんで、余命1年と宣告されていました。
それでも、映画に出たい。
夫でもある新藤監督は、乙羽に言いました。
「たとえ映画に出ることで寿命が1か月縮まっても、やりたいことをやったほうがいいよ。同志として、最後の作品を誠心誠意つくるから」
彼女がこの世を去ったのは、撮影を終えて3か月後のことでした。
乙羽は、この映画で、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞します。
そんな彼女の人生は、決して平たんではありませんでした。
私生児として生まれ、養父母に育てられた幼少期。
暗い影を引きずりながら、無口でひ弱な女の子でしたが、負けん気、根性だけは人一倍だったと言います。
宝塚に入団すると、ついたあだ名が「日陰の花」。
同時期には、そこにいるだけでひとを笑顔にできる天才、越路吹雪や淡島千景がいました。
「私は、彼女たちのようにはなれない…」
容姿や才能への激しいコンプレックス。
でも、乙羽はあるとき、思うのです。
平凡な自分に残された道は、ただひとつ。
ひとの何十倍も努力すること。
いつも、闘い。
そして…自分の古いものを捨て、いかに新しいものを出すか。
彼女の出演作品は、戦の幟(のぼり)のように、血と汗で染まっています。
最期まで女優を貫いた昭和のレジェンド、乙羽信子が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

女優・乙羽信子は、1924年10月1日、鳥取県米子市に生まれた。
母は大阪・花柳界で芸者になり、魚問屋の息子との間に子どもを授かる。
添い遂げることのできない関係。
母はひとり故郷・米子に戻り、乙羽を産んだ。
やがて大阪に引き取られ、養父母に育てられる。
無口で人見知りする子どもだった。
体も弱く、外で遊ぶより、家でおてだまやおはじきをしていた。
小学1年生か、2年生の頃、学校の校門のあたりで「ノブちゃん!」と言いながら、おいでおいでをする女性がいた。
奇妙な感覚にとらわれる。
怖くなって、家まで走った。
のちにわかったことだが、それが実の母親との最初で最後の出会いだった。
自分の親がほんとうの親ではないことに、薄々、気づいていた。
あからさまに教えてくれる近所のひともいたが、どこかで冷めていて「そんなもんか」と思っていた。
養父は小さな饅頭屋さんを営んでいた。
乙羽の原風景は、暗く汚れた工場街と長屋。
行き交う工員たちが歩く路地は、いつもぬかるんでいた。
のちに映画スターになると雑誌にこう書かれた。
「乙羽信子は、大きな和菓子店に生まれ、何不自由ない少女時代をおくった」
恥ずかしかった。
彼女は歳を重ねても鮮明に思い出した。
あのくすんだ町の、湿った空気。

乙羽信子は、幼い頃から意地っ張り。
一度言い出したら手がつけられない子どもだった。
言うことをきかない乙羽を、父親が押し入れに閉じ込める。
家の押し入れは襖(ふすま)ではなくガラス戸だったが、「出して!」と叫ぶ乙羽は、そのガラス戸を叩き割った。
手から血が出て、着物は真っ赤に染まる…。
ふだんは、おとなしく引っ込み思案なのに、一度火がつくと何をするかわからない。
養父母は、手を焼いた。
叔母に連れられて初めて宝塚を見たとき、乙羽はこう思ったという。
「この世界は、自分に合うな」
舞台上でいっせいに足をあげるラインダンス。
その思い切りの良さに興味を持った。
今の自分になくて、でも今の自分にほしいもの。
それを取りにいくには、何かを捨てなくてはいけない。
天然パーマで目が大きかった乙羽は、親戚や近所のひとに「宝塚に入ればいいのに」と言われた。
体の弱さが気になったけれど、気持ちが固まる。
競争率は30倍以上。
簡単に受かるわけもない。
暗いお饅頭屋さんでお店番をする将来の自分を想像する。
なんとしても、受かりたい。
あの晴れやかな明るい方にいきたい。
手編みのセーターにジャンパースカート、運動靴をはいて試験会場に行く。
驚いた。
そんな女子は、ひとりもいない。
みんな大人びた洋装に、頬紅や口紅をつけていた。
場違い…。
隣に立つ養父もみすぼらしく見えて、全てが恥ずかしかった。
でも…乙羽は、合格した。
宝塚名物の八重桜が、満開だった。

乙羽信子は、宝塚に入って思い知る。
この世には、最初から華のある子とそうでない子、才能を生まれ持っているひとと持っていないひとがいる。
何も持っていないのであれば、努力しかない。
ひ弱な体にムチうって、ひとの何倍も練習した。
越路吹雪が楽々とできる歌やダンスを、何日もかけて練習しないとマスターできなかった。
でも、負けない。
あの暗い世界は捨てたのだから、もう戻るところはない。
「日陰の花」と言われても、かまわなかった。
日陰の花は、ひょろひょろしていても、しぶとい。
どんな雨でも日照りでも、負けない。
そうして、乙羽は、宝塚のスターになった。
娘役に限界を感じる頃、映画へのオファーがあった。
大映に入社。
「百万ドルのえくぼ」というキャッチフレーズがついた。
でも、乙羽は浮かれることはない。
常に乾いた心を持っていた。
映画女優は、乙羽の性格に合っていた。
一作ごとに、がらっと役柄を変えることができる。
宝塚トップの娘役というレッテルなど、あっさり捨て去った。
強烈で泥臭いリアリズムもいとわない。
彼女の演技は海外からも高い評価を受け、映画史にその名を刻んだ。
乙羽信子は、いつも闘っていた。
古いものに頼ろうとする自分と。
怖いのは他人ではない。
惰性で仕事をしてしまう、自分の弱さだ。

【ON AIR LIST】
TRUST YOUR VOICE / 中島美嘉
裸の島(映画『裸の島』より) / 川畠成道(ヴァイオリン)
すみれの花咲く頃 / 姿月あさと
KEEP ON WALKIN’ / Emily Maguire

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけのみぞれ鍋

今回も、米子市の特産でもある野菜、ネギを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのみぞれ鍋
カロリー
489kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 大根
  • 300g
  • 白菜
  • 200g
  • 長ねぎ
  • 1本
  • 水菜
  • 1/2袋
  • 豆腐
  • 1丁(300g)
  • 豚ばら肉(塊)
  • 150g
  • 800ml
  • 小さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、白菜と豆腐は食べやすい大きさに切る。長ねぎは長さ5cmに水菜は長さ3cmに切り、豚肉は厚さ1cmに切る。大根はおろしておく。
  • 2.
  • フライパンに豚肉と長ねぎを入れ、こんがりと焼き色がつくまで焼く。
  • 3.
  • 鍋に白菜、豆腐、霜降りひらたけ、半量の水菜、水、塩を入れてひと煮立ちさせる。
  • 4.
  • (2)と水気を軽く切った大根おろしを加え、ひと煮立ちしたら残りの水菜を加える。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、「ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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