yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百八十八話 ひとに優しく -【岩手篇】小説家 野村胡堂-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第二百八十八話ひとに優しく

『銭形平次捕物控』で流行作家になり、さらに「あらえびす」というペンネームで音楽評論家としても名を成した、小説家がいます。
野村胡堂(のむら・こどう)。
彼の生まれ故郷、岩手県紫波町にある「野村胡堂・あらえびす記念館」には、彼の著作や原稿、蒐集したレコードが数多く展示されています。
記念館の屋根は、岩手県の代表的な建築様式「南部曲がり家」。
丘の上に立つ壮麗な建物の北には、岩手山が悠然とそびえています。
彼の名を一躍有名にした『銭形平次捕物控』は、27年にもわたり書き続けられ、383編もの物語が産み出されました。
なぜ、それほどまでに銭形平次が愛されたのか。
そこには、作者・胡堂の心を投影した平次の優しさがあったのです。
「罪を憎んで、ひとを憎まず」
「行為を罰しても、動機は罰しない」。
平次はわけありの罪びとの多くを、許してしまいます。
反対に、罪を犯していなくても、偽善者や、義に反するものには厳しい。
それがたとえ体制側の役人であっても容赦ありません。
常に庶民の味方でした。
吉田茂や司馬遼太郎など、多くの著名人が、愛読書に『銭形平次捕物控』をあげました。
胡堂が平次を書き始めたのは、49歳のとき。
新聞社に勤めながら、二足の草鞋を履いていました。
この作品でようやく作家だけで食べていけるようになっても、会社を辞めず、結局、退社したのは60歳になってからでした。
生活は質素を貫き、ひとに借金を頼まれれば、決して断らない。
学費が払えず、東京帝国大学を中退せざるをえなかった経験ゆえ、亡くなる直前、一億円を基金に財団を設立、学資援助の奨学金を交付することを目的に掲げました。
「ひとに優しく」。
口に出すのは容易いが、行動に移すのは容易ではないその精神を、生涯守り抜いたのです。
岩手が生んだ稀代の偉人、野村胡堂が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

銭形平次を世に送り出した時代小説家・野村胡堂は、1882年10月15日、岩手県紫波郡彦部村、現在の紫波町に生まれた。
汽車も通っていない、電気もない農村。
父は、村長で、村の顔役だった。
当時では珍しく、読書家、蔵書家で、蔵にたくさんの書物があった。
どこかぼんやりといつも夢を見ているような少年。
それが幼い頃の胡堂だった。
9歳のとき、彼の後の人生を変える、大きな出来事が起こる。
「火事だ!」
夜中、大きな声で目が覚めた。
あたりは、炎で包まれている。
昼間でも見えない家の隅々が、くっきり見える。
父は、「逃げろ!逃げろ!」と言いながら、水をかけていた。
火の手を食い止めることはできない。
やがて、バリバリと納屋が崩れ、母屋も音を立てて沈んだ。
蔵は残ったが、木造部分は全て焼け落ちてしまった。
胡堂少年が、すすで黒くなった顔であたりを見渡すと、驚くほど多くの村人が集まってきてくれていた。
住み込みの奉公人が、泣きながら残り火を消している。
父と母は茫然と立ち尽くし、煙が立ち上る天を仰いだ。
空が、白み始めてきた。

9歳の野村胡堂が、体験した火事。
そのときの一部始終を、彼は脳裏に刻んだ。
49歳で書き始めた『銭形平次捕物控』には、火事の場面が多い。
その臨場感は、読者の心を大いに揺さぶった。
胡堂少年が驚いたのは、焼け落ちた家の再建に関してだった。
村人たちが、毎日やってくる。
自宅の庭にある大切な樹齢何百年もの木を切って、運んでくる。
大工の棟梁は寝る間も惜しんで、屋敷を再現しようと頑張ってくれる。
みんな貧しいはずなのに、家財道具を分けてくれるひと、米や野菜を持ち運んでくれるひと、お金やものを出せないひとは、片付けや子どもたちの世話を買って出た。
子ども心に、胡堂は思う。
「どうしてここまでしてくれるんだろう」
何人かに尋ねると、みんな同じ答え。
「お父さんにねえ、世話になったんだ。お父さんがいなかったら、いま、どうなっていたか…。せめてもの、恩返しなんだよ」
火事の原因は、住み込みの奉公人の煙草の火の不始末だと思われた。
奉公人は、火が消えるのと同時に、姿も消した。
でも、父も母も、いっさい奉公人を悪く言わなかった。
悪く言わないどころか、彼を哀れみ、「可哀そうなことをした」と涙を流した。
そんな両親を見て、胡堂は思った。
「ひとに優しくすることは、とても清々しく、綺麗なことだ」

野村胡堂は、小学校から帰ると、焼け残った蔵に閉じこもり、父の蔵書を読み漁った。
『水滸伝』、『三国志』、『鉄仮面』。
さらに家を建て直してくれる大工のひとりが、昔話を面白おかしく語るのが上手だった。
お話の世界に引き込まれる。
ワクワクした。
想像する世界で遊んでいると、時間を忘れた。
小学校までの道のりは、一里半。
胡堂はぼんやりと物語の世界に心をゆだねる。
そんな姿に、いじめっ子がやってきて、いたずらをした。
胡堂は抵抗することもなく、頭の中に浮かんだ世界を話し始める。
いじめっ子たちは、つい話に聞き入ってしまった。
先がもっと聴きたくなる。
いつの間にか、胡堂はいじめられなくなり、座談の中心にいた。
ラジオもテレビもない時代。
胡堂が語る話に、同級生は釘付けになった。
自分の話に、笑い、興奮する友だちの顔を見て、彼は思った。
「物語は、ひとを幸せにするのかもしれない」。
銭形平次は、決して弱いものを追い詰めない。
どんな罪にも動機がある。
その動機に同情すれば、知らぬふりをして逃がしてやる。
父や母が、奉公人を責めなかったように。
晩年、野村胡堂は、ソニーを創業した井深大(いぶか・まさる)にお金を用立てた。
胡堂の妻と井深の母が同じ日本女子大の同窓生という縁で、父を早くに亡くした井深は、胡堂を父のように慕っていた。
井深を支援する思いで買ったソニーの株。
亡くなる直前それを売り、財団を作った。
持っていたレコードや、時代小説を書くための資料本は、全て東京都や東京大学に寄贈。
胡堂亡きあと、胡堂の妻は、ひとまえで語ることは一切なかったが、ある学生が「財団の奨学金のおかげで無事に大学が卒業できました。ありがとうございました!」と涙ながらに話すのを受けて、こう答えた。
「いいえ、何をおっしゃるんですか、ありがとうを言うのはこちらのほうです。草葉の陰で、野村も喜んでおります」

【ON AIR LIST】
銭形平次 / 舟木一夫
無伴奏チェロ組曲 第1番ト長調BWV.1007 第一楽章 / J.S.バッハ(作曲)、パブロ・カザルス(チェロ)
弦楽四重奏曲 ヘ長調「セレナード」より第二楽章 / ハイドン(作曲)、レナー四重奏団
野ばら / シューベルト(作曲)、エリー・アーメリング(ソプラノ)

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけと鶏ひき肉のごまみそ炒め

今回は、岩手で多く収穫されている野菜、ピーマンを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと鶏ひき肉のごまみそ炒め
カロリー
273kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • なす
  • 2個
  • ピーマン
  • 2個
  • サラダ油
  • 大さじ2
  • 【A】長ねぎ
  • 5g
  • 【A】しょうが
  • 5g
  • 【A】鶏ひき肉
  • 80g
  • 【A】味噌
  • 大さじ2
  • 【A】酒
  • 大さじ1
  • 【A】砂糖
  • 小さじ1/4
  • 【A】ごま
  • 小さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。なすは乱切りに、ピーマンはヘタと種をとり、2cm角に切る。【A】は混ぜ合わせる。
  • 2.
  • フライパンに油を熱し、食材全てを炒める。全体がしんなりしたら【A】を加え、鶏肉に火が通るまで炒める。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、「ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる