yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百二話 天国に座席はいらない -【長野篇】小説家 平林たい子-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百二話天国に座席はいらない

波乱万丈な人生をたくましく生き抜いた、長野県出身のプロレタリア作家がいます。
平林たい子(ひらばやし・たいこ)。
女流文学会会長だった彼女は、姐御的な存在として後進の女性作家を育てる一方で、女傑と呼ばれ、男の論理が幅をきかす文壇に一石を投じました。
歯に衣着せぬ発言。エネルギッシュな創作欲。
さぞかし怖いイメージかと思いきや、会ったひとの脳裏に残っている彼女の印象は、皆一様に、美しい笑顔でした。
貧しい少女時代、アナーキストととの同棲、検挙。
朝鮮や満州への逃避行や病。
人生を翻弄するさまざまな出来事を、彼女は、小説にすることで前へ前へと進み続けました。
思うがままにならない人生や社会の理不尽から、目をそらさずに。
彼女の出身地、長野県諏訪市にある「平林たい子記念館」。
「郷里のために役に立つことをしたい」という遺志を継いで建てられました。
「地元の特徴のある建材を使った、出来るだけ質素なものを」という平林の願いどおり、屋根には諏訪特産の鉄平石を張りました。
展示室には使っていた居間の建具を利用し、遺品を展示しています。
開館は、基本日曜日だけ。
ただし予約をすれば、管理人さんが鍵を開けてくれて、中に入ることができます。
そんなどこか素朴なスタイルが、彼女の人格に重なるように思えます。
「記念館を建てるのなら、とにかく質素なものを」と願い、自らの私財を文学賞創設に捧げ、「文学に身を染めながら、なかなか日の目をみることがなかったひと」を、賞で讃えました。
記念館の前の石碑に刻まれた文字は、彼女の口癖だった言葉です。
「私は生きる」。
生前、彼女は言っていました。
「私は生きた、そしてなしとげた。だから、神様の右でも左でも、天国に座席はいらない」
来年没後50年を迎える小説家・平林たい子が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

小説家・平林たい子は、1905年、長野県諏訪郡中洲村、現在の諏訪市に生まれた。
本名は、カタカナで「タイ」。
どうしてその名にしたのか、大人になって父に尋ねると、「ときの総理大臣のお妾さんの名前が『お鯛』と言ったからだ。女が政治の世界に入るには、政治家の妻か妾になるしかないからなあ」と真面目な顔で答えた。
たい子は、あまりの言い草に、怒りを通り越し、笑ってしまったという。
たい子の祖父は、諏訪で製糸工場を営んでいた。
当時、長野は、生糸の生産が盛んだった。
しかし、あえなく経営破綻。
裕福な暮らしは、一気に暗転。
祖父は、芸者を連れて東京に逃げてしまう。
貧しい家を切りもりしたのが、祖母だった。
たい子は、この勇猛果敢な祖母の血を受け継いだ。
父は、婿養子。
祖父の後始末に奔走した。
さらに出稼ぎでほとんど家にいない。
たい子は、母の影響を受けた。
母は、まだ羽振りのよかった頃の名残を受け、地元では珍しく英語を学び、洋書を読む、インテリだった。
なけなしの財産で「よろづや」を開店するが、借金は募るばかり。
母は、その教養を生かすこともなく、商いと子育て、農作業の手伝いに追われた。
でも、母は、愚痴ひとつ言わなかった。
たい子は、そんな母の背中を見て育つ。
そして、自分の人生に起こる出来事を、全て請け負う覚悟を持つことを知った。

長野県出身の反骨の作家・平林たい子は、小学校に入ると、「文学」を知った。
赴任してきた、まだ20歳の川上先生は、「既存の概念や体制に対抗できるのは芸術、なかでも文学しかない」という考えの教師。
ずば抜けて成績優秀だったたい子を、たいそう可愛がった。
「平林、この小説、読んでみろ。『貧しき人々の群れ』。18歳の女性が書いたんだ。すごいぞ、でもなあ、きっとおまえにだって書ける」。
天才少女と呼ばれたその18歳の小説家こそ、後にたい子の永遠のライバルになる、宮本百合子だった。
学校での川上先生との時間だけが、たい子にとっての幸せなひとときだった。
家に帰れば、「よろづや」の店番。
貧しさにどっぷりつかりながら、ひとびとのお金に対する執着を観察した。
「お金から自由になれないひとは、心も自由になれないのかな」
一方で、貧しくてもお金にとらわれていないひともいた。
同じ条件、同じ環境でも、醜いひともいれば、清らかなひともいる。
その違いはどこから来るのだろう…。
川上先生に尋ねると、それは「教養」だと言った。
「教養を高めるには、文学がいちばんなんだ。たくさんの人生を追体験しておけば、訪れる困難が初めてのものではなくなるからな」。
たい子は、夢中で小説を読んだ。
大地主の家にあがりこみ、ロシア文学の翻訳本を読み漁った。
ドストエフスキー、トルストイ、ツルゲーネフ。
そこに、人生があった。
そこに、自分より過酷な運命の主人公がいた。
たい子の心に、小さな火がともる。
「私、小説家になりたい」

小説家・平林たい子は、小学校を出たら、近所の製紙工場に就職するものだと思っていた。
姉たちもそうしたし、母もそれを望んでいた。
家は火の車。
女学校に進むことは許されない。
でも、川上先生は、何度も何度も平林家に通う。
「たい子さんは、進学すべきです。こんなに優秀な娘さんを、今すぐ働かせるのはもったいない!」
あふれる教養を持ちながら、それを生かすことができずに、生活に疲れている母は、思った。
「女性が生きる道には、もっと可能性があるのかもしれない」。
父が出した条件は、一発でパスすればいいだろう。
たい子は見事、一番で諏訪高等女学校に合格する。
せっかく入った女学校だったが、たい子はいつも浮いていた。
授業をさぼって裏山に行き、ただひたすら本を読む。
諏訪図書館まで行って、閉館まで本をよみふけることもあった。
特に、志賀直哉の文章に魅了された。
小説を書くようになるが、文体は、いっさいの湿気を排する。
当時は、こんなふうに批評された。
「女性が書く文章とは思えないくらい、乾いている」
たい子は、鼻で笑った。
「文章に、女性も男性もない。あるのは、いい文章か、悪い文章かだけなのに…」
とにかく書いた。
書いて書いて、書き続けた。
自分に起こった出来事。
哀しいことが多かったが、書いた。
書くうちに、生きていることと書くことが一緒になっていった。
こうして、作家・平林たい子は、真の作家になっていった。
「全て出し切った、だから、天国に座席はいらない」

【ON AIR LIST】
SHOW ME / The Pretenders
わが母の教え給いし歌 / ドボルザーク(作曲)、ヨーヨー・マ(チェロ)
REASON TO BELIEVE / Aimee Mann and Michael Penn
moment~今を生きる~ / KOKIA

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今週のRECIPE

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きのこのオープンオムレツ パン・ペルデュと一緒に

今回は、長野で多く生産されている、パセリを使った料理をご紹介します。

きのこのオープンオムレツ パン・ペルデュと一緒に
カロリー
460kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
一番採り 生どんこ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 一番採り 生どんこ
  • L2個
  • パセリ
  • 少々
  • 全卵
  • 4個
  • 生クリーム
  • 15ml
  • 塩、こしょう、サラダ油
  • 各適量
  • メープルシロップ
  • 適量
  • パルメザンチーズ
  • 適量
  • ≪パン・ペルデュ≫
  • 【A】全卵
  • 1個
  • 【A】牛乳
  • 50ml
  • 【A】生クリーム
  • 50ml
  • 食パン(8枚切り)
    (ブリオッシュでも可)
  • 1/2枚
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。生どんこは軸を切り、6等分に切る。フライパンにサラダ油を熱し、塩、こしょうをしてソテーする。仕上げにパセリを加え和える。
  • 2.
  • 溶き卵に生クリームを加え混ぜ、塩、こしょうをする。サラダ油を熱したフライパンに流し入れ、かき混ぜながら半熟になるまで火を入れる。
  • 3.
  • パン・ペルデュは、【A】を混ぜ合わせ、パンを浸してフライパンで焼き色がつくまで焼く。
  • 4.
  • 皿に(3)を置いて(2)を盛り、(1)をのせる。メープルシロップをかけ、パルメザンチーズを添える。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、「ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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