yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百二十八話 逆転を諦めない -【東京篇】ボクサー 大場政夫-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百二十八話逆転を諦めない

東京の下町に生まれ、極貧から這い上がり、世界チャンピオンになったボクサーがいます。
大場政夫(おおば・まさお)。
大場は、WBA世界フライ級チャンピオンとして5度の防衛に成功したおよそ3週間後の1973年1月25日午前11時22分、首都高速でカーブを曲がり切れず、反対車線のトラックに突っ込み、この世を去りました。
享年23歳。
現役世界王者のままの死去、ということから「永遠のチャンプ」と呼ばれています。
大場のボクシングスタイルは、とにかくアグレッシブ。
先にダウンを許した試合でも、決して前に出ることを恐れず、攻めて攻めて攻め続ける。
「奇跡の逆転」は彼の代名詞になり、日本中が大場の戦う姿に勇気をもらったと言います。
その代表的な試合が、最後の防衛戦。
日本ボクシング史上の名勝負と謳われる、タイのチャチャイ・チオノイとの激闘です。
第1ラウンド、大場はいきなり右フックをまともに受け、ダウン。
その際、右足首をねんざしてしまいます。
足を引きずりながら彼は一歩も引きません。
フツウであれば、立って歩くことさえままならないほどの激痛。
でも、大場は、強気に前へ前へ進みます。
相手から目を離さず、ロープに追い詰める。
攻めの姿勢を崩さなかったことで、中盤、形勢は逆転します。
そうして迎えた第12ラウンド。
大場はチャチャイから3度、ダウンを奪い、ノックアウト勝ちをおさめるのです。
途中から、彼は足を引きずるのをやめました。
むしろ軽快なフットワークを見せるのです。
いちばん苦しいときに、後ろに引かない。
最も大変なときこそ、一歩前に出る。
彼の原点は、貧しい少年時代にありました。
スポーツライター石塚紀久雄(いしづか・きくお)著『大場政夫の生涯』には、少年時代のエピソードが鮮やかな筆致で描かれています。
なぜ、彼は、奇跡を起こすことができたのでしょうか。
短い人生を駆け抜けたファイター・大場政夫が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

伝説のボクサー・大場政夫は、1949年10月21日、東京に生まれた。
足立区本木町、荒川の近くで育つ。
父は腕のある鉄鋼職人で、自転車の車体をつくる工場に勤務していた。
贅沢はできないまでも、一家がフツウに暮らせる収入はあった。
大場の母は、父親の酒癖の悪さを見て育つ。
だから、お酒を一滴も飲めない大場の父と結婚。
しかし、彼は博打にのめり込んだ。
会社からあてがわれていた一軒家も追われてしまう。
一家は、底なし沼の貧しさに落ちていく。
食卓には、たくわんだけが並び、白い飯も満足に食べられない。
育ち盛りの子どもが5人。
大場は、いつも母のことを気づかった。
「母ちゃん、ちゃんと食べた?」
母が自分の分も子どもたちに分け与え、痩せ細っていくのを、子どもの中で唯一知っていた。
でも、母は言う。
「母ちゃんは、あとで食べるから大丈夫だよ」
冬の寒さはこたえた。
隙間風が吹き抜ける長屋。
小さな七輪をみんなでとりあい、喧嘩になる。
ぶつかった拍子に七輪が倒れ、大場は背中に大やけどを負う。
その傷は、一生治らなかった。
母と一緒に、かつて住んでいた一軒家の前を通った。
母が言う。
「昔ねえ、ここに住んでたのよ、政夫もここで生まれたのよ」
今は違うひとの表札がかかる。
小学生の大場は、言った。
「でもさ母ちゃん、昔よくてもさ、今ダメならしょうがないよ」。
そのときの母の悲しい顔を、大場は忘れなかった。

「永遠のチャンプ」、ボクサーの大場政夫は、小学生のときに思った。
「いつか、母親のために一軒家を建ててあげたい」。
ただ、そのときはまだ、いったい何で稼ぎ、母を楽にさせてあげたいか、わからなかった。
過去の話ばかりするひとが嫌いだった。
「大事なのは、今だろ? 今、幸せかどうかじゃないのか?」
父は、博打で家族を苦しめたが、子どもたちには寛容だった。
家の中で暴れまわり、襖に穴を開けようが障子を破ろうが、ニコニコ見ていた。
大場は小学生のとき、体が小さく、気も弱かった。
近所のガキ大将にいじめられる。
泣きながら家に帰ると、父に怒られた。
「泣くなら喧嘩するな!」
泣き止むまで、家に入れてもらえない。
そんな父が当時はまっていたのが、ボクシングだった。
一緒にボクシング会場に行く。
すごかった。
選手たちの鬼気迫る雰囲気に、わけもわからず興奮した。
ボクシングは、巨額の富をもたらすことも知った。
たった二つの拳だけで。
学校の休み時間、いつもボクシングごっこをやった。
運動神経のいい大場は、いつも相手を負かす。
そこにはもう、いじめられっ子の大場政夫はいなかった。
「なんだ、簡単なことだ。相手の目を見て、前に出ればいい。そうすれば、必ず勝つチャンスがめぐってくる」

幼い大場政夫のボクシング熱は、加速した。
荒川の河川敷を朝晩走る。
縄跳びも欠かさない。
バケツ二つにコンクリートを詰め、そこに棒を通し、ダンベルを作った。
持前の俊敏さ、運動神経の良さの上に、筋トレに走り込み。
どんどん強くなる。
強くなると喧嘩の回数も増えていった。
地元の悪いやつに目をつけられ、また喧嘩。
やがて、中学に入る頃には、地元で恐れられるようになっていた。
一方で、家計を助けるため、新聞配達。
貧しさから抜け出すことはできない。
父は、一度は博打をやめたが、また戻ってしまう。
同級生の家の近くに、ボクシングジムがあった。
表の階段につるされた、沁みだらけの赤黒いサンド・バッグ。
それにパンチを繰り出すボクサーを見た。
ドス、ドス、ドス!
鈍く、重苦しい音が響く。
大場の体中の血が騒いだ。
ボクサーは、ひたすら打ち続ける。
「なんだ、これは…どうして休まず打つことができるんだ?」
家に帰って、枕を打つ。
あっという間に、枕はボロボロになった。
父は、怒らない。
やがて、大場が「父ちゃん、ボクシングジムに通いたいんだ」と言ったとき、父は何も驚かず、帝拳ジムをすすめた。
まだ世界チャンピオンを出していなかったが、父には、あそこしかないという確信があった。
「ただ、やるんだったら、ぜったいやめるな。とにかく前を向け。チャンピオンになるまで、やめちゃいかん」
泣き止むまで家に入れてもらえなかった少年は、その日以来、二度と涙を流さなかった。
人生は、逆転できる。
大場政夫は、身をもって証明した。

【ON AIR LIST】
あしたのジョー / 尾藤イサオ
SPINNING WHEEL / Blood, Sweat & Tears
NEVER GIVE UP / Kool & The Gang

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけの豆乳鍋

寒い日におすすめの、こちらの料理をご紹介します。

霜降りひらたけの豆乳鍋
カロリー
285kcal (1人分)
調理時間
30分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 白菜
  • 200g
  • かぶ
  • 200g
  • 小松菜
  • 1/2束
  • にんじん(飾り)
  • 3cm
  • 豚バラ肉
  • 200g
  • 出汁
  • 500ml
  • 豆乳
  • 300ml
  • 味噌
  • 大さじ3
  • 白ごま
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。白菜とかぶは一口大に切って下茹でし、小松菜、豚肉は食べやすい大きさに切っておく。にんじんは食べやすい大きさ、または飾り切りにする。
  • 2.
  • 鍋に出汁、豆乳、味噌、ごまを入れ、混ぜ合わせる。
  • 3.
  • (2)に(1)を入れ、火にかける。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、「ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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