yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百四十九話 人生は落丁の多い本に似ている -【山口篇】小説家 芥川龍之介-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百四十九話人生は落丁の多い本に似ている

今年、生誕130年、没後95年を迎える文豪がいます。
芥川龍之介(あくたがわ・りゅうのすけ)。
彼の実の父・新原敏三(にいはら・としぞう)は、現在の山口県岩国市美和町の出身です。
龍之介は、母の病気にともない、幼くして芥川家に養子に出されるのですが、幼名は、新原龍之介でした。
美和町の山間にある父の菩提寺には、文学碑があります。
碑文に書かれている言葉は、「本是山中人」。
山の中の人、と書いて、山中人。
龍之介が、岩国を訪れた記憶を懐かしんで、自分自身のことを称した言葉だと言われています。
隣にある副碑文には、こんな一節が刻まれています。

「人生は落丁の多い本に似てゐる。
一部を成してゐるとは称し難い。
しかし兎に角一部を成してゐる。 芥川龍之介」

この言葉には、もともと人生に失敗やトラブルはつきもので、むしろその失敗こそ、楽しみ受け入れなくては、一冊の書物にならないのだ、という芥川の思いが読み取れます。
奇しくも、岩国の文学碑にある、この二つの言葉は、芥川の一生を象徴する言葉に思えてきます。
実の父・新原敏三と、育ての父・芥川道章は、あらゆる点で正反対な人間でした。
敏三は、渋沢栄一の耕牧舎に勤めていた実業家。
粗野で癇癪持ち。
教養に欠けるが行動的で、商売の才覚に長けていました。
反対に道章は、俳句や南画をたしなむ繊細な人格者。
礼儀正しく、作法にうるさい都会人だったのです。
母が心を病むことによって、実の親から引き離され、まったく真逆の環境に放り込まれた龍之介。
彼の内なる分裂は、やがて、たぐいまれなる観察眼を育んでいったのです。
35年の生涯を文学に捧げた小説家・芥川龍之介が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

芥川龍之介は、1892年3月1日、東京市京橋区、現在の東京都中央区明石町に生まれた。
辰年、辰の月、辰の日、辰の刻に生まれたので、龍之介と名付けられる。
父・敏三は、牛乳販売会社を営む経営者。
山口県美和町から裸一貫で上京。一代で財をなした。
長男だった龍之介は、父の事業の跡継ぎとして期待されたが、生まれながらに暗い影を背負う。
彼が生まれたとき、父は42歳の厄年、母も33歳で女の大厄。
両親がともに厄年の場合、生まれた子を、一時、捨て子として扱う風習があった。
友人に一時預け、つまり、捨て、それを拾って、拾い子として育てる。
親にたたりを及ぼす子になりませんように。
そんな願いも虚しく、龍之介が生まれて数か月後、母が心を病む。
甘えたい盛りに親から引き離され、両国にある母の実家の芥川家に預けられた。
さびしさと不安。
母をあんなふうにしてしまったのは、自分が生まれたからだ。
自分を責める。
唯一の救いは、橋の上から見る隅田川だった。
ゆったりと優しく流れる大河は、彼にいっときの安らぎをもたらした。
「ボクは、どうして生まれてきたんだろう。ボクなんか、ここにいなければよかったのに」
川に語りかけても、返事は返ってこなかった。

芥川龍之介は、幼くして芥川家に預けられた。
ときどき、実家に行って母に会う。
母は、二階の窓際にもたれ、いつも煙草をスパスパ吸っていた。
「何か絵を画いてよ」とねだると、くわえ煙草でさらさらと画いた。
人物の顔は全て、キツネだった。
実家の新原家とは違い、芥川家は、芸術や文化に重きを置いていた。
2歳から歌舞伎に連れていってもらう。
家の誰もが書を読み、絵画を愛でた。
龍之介は、9歳で俳句を詠んだ。
小学校で、先生が「可愛いと思うもの」「美しいと思うもの」を書きなさいと、わら半紙を配った。
龍之介は、象は可愛い、空に浮かぶ雲は美しい、と書いた。
先生は、「象が可愛い? 冗談じゃない、ただバカでかいだけだ、雲が美しい? どこが美しいんだ!」と、龍之介の答えに、赤い筆で大きくバツを書いた。
ショックだった。
自分がダメな人間に思える。
ある日、自宅で本を読んでいたら、明らかにページが落ちているのを見つけた。
育ての父に持っていくと、父・道章は言った。
「ははは、これは落丁というんだ。明日、取り換えてもらいにいくとしよう。でもな、龍之介、落丁は、欠けている部分を探す、またとない幸運だと、思うようにしなさい」

芥川龍之介は、10歳のとき、実の母を亡くす。
12歳で、正式に芥川家の養子になった。
実の親と、育ての親。
自分の中で、理解できない理不尽さを抱えながら、文学にのめりこんでいく。
小説には、うまくいかないこと、自分の存在を肯定できないことが、赤裸々に描かれていた。
居心地がいい。
ここなら、自分も生きることができるかもしれない。
体が弱かった龍之介は、水泳教室に通うことになる。
泳ぐ場所は、隅田川だった。
物心ついてすぐに憩いの風景になった、あの大河。
まさかその流れに、おのれの身体を浸すときがくるとは思わなかった。
川に入って、思う。
心地いい。なじむ。
まるで母に抱かれているようだった。
全てを受け止め、包んでくれる存在。
生まれとは違う、真逆な環境で生きて来た自分を、初めて認めることができた。
出来損ないの落丁本でいいじゃないか。
欠けているから、面白い。
欠けているから、わくわくする。
それが人生だと思えば、いいじゃないか。
芥川龍之介は、こうして小説という大河に泳ぎ始めた。
水の音は、羊水のように、耳元で心地よく響いた。

【ON AIR LIST】
SOMETHING'S MISSING / John Mayer
VALOTTE / Julian Lennon
FINAL DISTANCE / 宇多田ヒカル

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけの五月汁

今回は、5月が旬の食材を使った、こちらの料理をご紹介します。

霜降りひらたけの五月汁
カロリー
28kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 鶏ささみ
  • 1本
  • 小さじ1
  • 片栗粉
  • 小さじ1
  • 下茹でした筍
  • 40g
  • にんじん
  • 30g
  • うど
  • 30g
  • 600ml
  • 小さじ2/3
  • しょう油
  • 小さじ1
  • 三つ葉
  • お好みで
  • 粉山椒
  • 少々
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすい大きさにほぐす。ささみは1.5cm幅のそぎ切りにし、酒、片栗粉をまぶす。筍とにんじんは細切りに、うどは短冊切りにする。
  • 2.
  • 鍋に水、霜降りひらたけを入れて熱し、沸騰したらささみ、にんじんを入れ、肉の色が変わったら筍、うど、塩、しょう油を加え、ひと煮立ちさせる。
  • 3.
  • お椀に盛り、三つ葉をのせて、山椒を振る。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、「ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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