yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百五十二話 己の眼差しを守り抜く -【山口篇】洋画家 香月泰男-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百五十二話己の眼差しを守り抜く

山口県出身の、昭和を代表する洋画家がいます。
香月泰男(かづき・やすお)。
生誕110年を迎える今年、記念展が全国を巡回しています。
宮城、新潟、神奈川、東京、そして現在は栃木県・足利市立美術館。
戦後の日本美術界に多大な影響を与えた作家の足跡を、年代順に辿ることができます。
香月の代表作といえば、自身の戦争や抑留体験を描いた、「シベリア・シリーズ」。
全57点のキャンバスに彼が刻んだのは、戦争の残忍さや、日常が破壊され、生死の境を生き惑う人間の哀しさ、怒り、死者への鎮魂、そして平和への祈りです。
黒い画面に、まるで骸骨のように白く浮かび上がる人々の顔、顔、顔。
およそ2年の厳しいシベリア抑留から引き揚げてきた香月は、しばらく、日常の絵しか画けませんでした。
親子の情愛、台所の風景、ふるさとの植物たち。
シベリアでの体験は、決して家族に語ることはなかったそうです。
ただ、あるとき、息子が学校の工作でグライダーを作ろうとしたとき、静かにこう言って止めました。
「おまえたちがそんなものを作るから、また戦争になる」。
香月は、その生涯のほとんどを、ふるさと、三隅町、現在の山口県長門市で過ごしました。
「ここが、私の地球だ」と語り、三隅の自然や人々を愛したのです。
三隅にある「香月泰男美術館」には、彼が戦時中も決して手放さなかった絵具箱が展示されています。
彼はどんな時も、絵具箱を抱え、いつでも絵が画けるように、対象を見つめ続けました。
その眼差しは、常に優しく、一方で、常に冷静。
人物や植物の奥底にある「心」を映し出そうとしたのです。
彼の妻が書いた珠玉のエッセイ『夫の右手 ~画家・香月泰男に寄り添って』には、長年連れ添った妻だからこそ知りえる、香月の素顔が綴られています。
香月は、よくこう言っていたそうです。
「わしは いらん者じゃった」
自分はこの世にいらないもの、そんな孤独と絶望が、彼の視線を研ぎ澄まし、日常の中のささやかな愛を見つけ出していったのです。
62年の生涯を全て絵に捧げたレジェンド・香月泰男が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

戦後の日本を代表する洋画家のひとり、香月泰男は、1911年10月25日、山口県大津郡三隅町、現在の山口県長門市に生まれた。
父は開業医。香月が幼い頃、両親は離婚し、母は家を出ていった。
この体験が、のちに彼を苦しめる。
「お母さんは、どうしてボクを置いて、出ていったんだろう。
ボクが嫌いだったのかな。
ボクなんか、この世に生まれないほうがよかったのかな」
父も家にじっとしていない。
香月は、祖父母に育てられる。
祖父も医者。しかも、村長を二期務めた重鎮だった。
祖父のしつけは、厳しかった。
甘えたい盛りの香月に容赦ない。
祖父の布団を敷く係だったが、敷く位置が少しでもずれていると、こっぴどく怒られた。
祖父が帰宅するときは、家族全員、直立不動で出迎える。
あるとき、香月はお腹がいっぱいになり、居眠りして玄関に立てなかった。
2時間、説教をくらう。
蔵の中に閉じ込められることもあった。
でも、それは香月にとって、うれしい時間。
なぜなら、大好きな絵を思う存分画けるから。
とにかく、絵を画くのが好きだった。
小学4年生のとき、朝鮮に渡った父が亡くなる。
両親の愛を知らず、厳格な祖父に対峙する日々。
絵だけが、この世に自分をつなぎとめる命綱だった。

「シベリア・シリーズ」で知られる洋画家・香月泰男は、中学4年生のとき、離れて暮らす実の母に手紙を書いた。
どうしても油絵の道具を買ってほしかった。
後にも先にも、母にお願いをしたのは、その一回きりだった。
母は、別の男性と結婚。
亡くなっていれば、諦めもついたのかもしれない。
会おうと思えば会える場所に、母はいる。
自分とは、他人の母が。
混乱し、自暴自棄になりそうな気持ちも、絵を画いているときは忘れることができた。
やがて、母から絵具箱が届く。
うれしかった。
香月はその絵具箱を、まるで自分の命の分身のように、生涯大切にした。
祖父の反対を押し切り、美術学校に入学。
ブラマンク、ゴッホ、梅原龍三郎などに傾倒。
特にピカソには、多大な影響を受けた。
自分なりの画風を探す旅。
どうやったら、自分らしい絵が画けるのか。
彼は悩み、もがいた。
そうして、自分の眼差しに忠実であることにたどり着く。
「誰かの真似をしていても、先には行けない。
この世の余計者である自分にしか見えないものを画いてみよう」
彼は、中学校や高等女学校の美術教師をしながら、自分だけの絵を追求した。

洋画家・香月泰男は、とにかく絵さえ画ければ幸せだった。
右手は、絵を画くことだけに使いたい。
そう思った彼は、授業中の板書や手紙、日常生活はなるべく、左手を使った。
結婚し、子宝にも恵まれ、念願の家族を持つことができるようになった30代。
ようやく、自分なりの画風を獲得する。
それは、のちにこう呼ばれた。
「逆光の中のファンタジー」。
その当時の秀作『水鏡』では、坊主頭の少年が浴槽をのぞきこんでいる。
青黒い水には、枯れた枝が浸かっていて、少年の表情は見えない。
まるで生死の境目を見つめているような静かな時間が流れている…。
三隅にいながら、香月は自分の眼差しで、世界を見ていた。
絵のテーマは全て、自分の中にある。
自分の眼差しを守り切ることができれば、画題に困ることはない。

招集を受け、戦地に赴くとき、母から買ってもらった絵具箱を持参した。
シベリア抑留中も、絵具箱を開き、絵具の匂いをかぐと、壊れてしまいそうな心を整えることができた。
いつか、自分が無事帰国することができたら、遺族に渡したいと、亡くなっていく仲間の死に顔を、泣きながらスケッチした。
今見ているものから、目を背けてはいけない。
そこにこそ、真実があるのだから。
唯一無二の画家・香月泰男は、絵を画き続けることで、命の尊さを叫んだ。

【ON AIR LIST】
シベリヤ・エレジー / 伊藤久男
少年であれ / 高橋優
THE PAINTER / Neil Young

★今回の撮影は、「香月泰男美術館」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
開館スケジュールなど、詳しくは公式HPにてご確認ください。
香月泰男美術館HP
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとイカの生姜炒め

今回は、長門市の特産でもある食材、イカを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとイカの生姜炒め
カロリー
114kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • イカ(刺身用細切り)
  • 1パック
  • いんげん
  • 8本
  • しょうが
  • 1片
  • 少々
  • 【A】塩
  • ひとつまみ
  • 【A】鶏ガラスープの素
  • 小さじ2
  • 【A】酒
  • 大さじ2
  • 【A】こしょう
  • 少々
  • 【B】片栗粉
  • 小さじ1/2
  • 【B】水
  • 小さじ1
  • サラダ油
  • 小さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。しょうがはせん切りにする。
  • 2.
  • いんげんは筋をとり、塩(分量外)を入た熱湯で下茹でしたら水にとり、長さ3cmに切る。
  • 3.
  • (2)の熱湯でイカをさっとくぐらす程度に茹で、ザルにとる。
  • 4.
  • フライパンに油を熱し、(1)を炒め、油がまわったら(2)と(3)を加え【A】で味をつける。
  • 5.
  • 仕上げに【B】でとろみをつける。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、「ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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