yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

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第447話 心の中心を見つける
-【岩手にまつわるレジェンド篇】柔道家 三船久蔵-

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現在の岩手県久慈市出身の「柔道の神様」がいます。 三船久蔵(みふね・きゅうぞう)。 身長は160センチに満たず、体重は50キロ半ば。 圧倒的に不利な体格で、講道館柔道の最高位、十段を授けられたレジェンドです。 柔道の長い歴史の中、十段を取得したのは現在15名しかいません。 ちなみに十段の帯は、黒帯の上、赤帯です。 最近では3年前、1992年のバルセロナオリンピック、男子71キロ級で金メダルをとった古賀稔彦(こが・としひこ)が、数々の偉業をたたえられ、九段に昇格し、話題になりました。 53歳で亡くなる、前日のことでした。 九段、十段の赤帯は、ただ単に強さだけではなく、競技の普及や後進の育成など、柔道界への多大なる貢献が、昇段の決め手となります。 三船久蔵は、小柄な体格ながら、新しい技を次々とあみだし、柔道というフレームを大きく伸ばし、拡大したのです。 故郷の久慈市には、三船十段記念館があり、「若き日の三船久蔵」「三船久蔵と講道館」「三船と将棋」「三船と書道」というテーマに沿ってパネルが展示されています。 さらに、圧巻は、彼が考案した「空気投げ」の貴重な映像。 大きな相手をうまくさばき、タイミングを崩し、気がつけば相手が転がっているという、三船の必殺技です。 資料館の隣には、柔道場も併設されており、彼の精神を受け継ぐ若き道場生が稽古にやってきます。 三船には、流儀がありました。 「大切なのは、心の中心をブレないようにすること」 そのために彼は、65年間、たったの一日も稽古を休まなかったと言います。 心の中心がブレていなければ、体重移動しても、ふらふらとよろけても、すぐに体勢を立て直すことができる。 彼の流儀は、技ではなく、心の持ち方にあったのです。 三船は、後輩たちに言いました。 「相手に勝とうと思うと、相手の心が自分の中心を乱す。 ほんとうの相手は、自分の中にしかいない」 名人という称号を与えられた賢人・三船久蔵が人生でつかんだ、明日へのyes!とは? 「柔道の神様」、三船久蔵は、1883年、岩手県九戸郡久慈村、現在の久慈市に生まれた。 久慈は、三方を山に囲まれ、一方は海。 江戸時代は城下町として栄え、九戸の中心地だったが、自然は厳しく、北上山地の空っ風と雪に悩まされた。 久蔵が生まれたとき、父は52歳。母は43歳。 末っ子だった。 父は、村で唯一の米問屋。 家族は、何不自由ない生活をしていた。 末っ子の久蔵は、ことのほか、父に可愛がられた。 父は自分の商いの、次の担い手として、育てようと思った。 久蔵は、甘やかされ、腕白に育ったが、ひとつだけ他の子どもにはないところがあった。 それは、潔癖なまでの正義感。 小学生のとき、自分よりはるかに身長の高い、民雄というクラスメートがいた。 民雄は、やることなすこと全てスローで、クラスの女子たちにからかわれ、いじめられていた。 久蔵は、それが許せない。 女子たちにいじめをやめるように言ったが、受け入れられないので行動に出た。 しかし、先生に見つかる。こっぴどく怒られた。 家に帰れば、父の厳しい折檻が待っていた。 「女性に手を出すやつは、男として最低だ!」 なぜ、そんなことをしたのか。 どんなに問われても、久蔵は、黙りつづけた。 やがて、いじめはやんだ。 民雄は、前歯のない口をあけ、「ありがとうね、久蔵くん」と笑った。 「柔道の名人」という称号を与えられたレジェンド、三船久蔵は、自分の心の中に、抑えきれない「何か」が潜んでいることに気づいていく。 決定的だったのは、小学4年生のとき。 1年先輩の大関と呼ばれていたガキ大将と、取っ組み合いの喧嘩になった。 学校の番長である大関に「子分になれ!」と言われ、「いやだ!」と突っぱねたところから、目の敵にされていた。 体格でも、喧嘩のやり方でも、かなわない。 ただ、どんなに殴られても、子分になることは拒否した。 闘いながら、久蔵は感じていた。 負けん気、燃えたぎる闘争心。 相手を叩きのめしたいという本能。 自分の中心にあるのは、もしかしたら、正義感や道徳心などという格好いいものではないのかもしれない。 ただ、闘って、勝ちたい。 大関が、落ちていた大きな石を拾い、振り上げたとき、「ああ、もう、自分の人生は終わった」と思う。 しかし、喧嘩を見ていた上級生が、それを止めた。 ドスン!と、石は自分の顔近くに落ちた。 三船久蔵の父は、荒くれ者の息子をもてあました。 尋常高等小学校卒業後、知り合いのつてをたどって、役所に勤めさせる。 なるべく早く、社会の厳しさを学ばせようと考えた。 しかし、数日で問題を起し、辞めてしまう。 近所への体裁もあり、仙台の中学に進学させた。 久蔵は、自分でも、自分をもてあましていた。 何がやりたいか、わからない。 どう生きたいか、わからない。 ただ自分の心の中心にある、マグマのような情熱が行き場を探していることだけはわかった。 仙台の中学に入り、友だちに誘われた。 「柔道っていうものを見に行かないか?」 柔道? 中学から2キロほど離れた場所にある高校に向かった。 道場に入った途端。体がふるえた。 白い柔道着に身を包んだ高校生たちが、それぞれ組みあっていた。 バスン! 畳に投げられたひとがいた。 小さい者が、大きい者を倒す。 「美しい」 そう、思った。 これは喧嘩ではない。 ここには、品性があり、型があり、ルールがある。 自分の心の中心が「これだ!」と叫んだような気がした。 自分がやりたいことは、自分の心の中にしかない。 己の中心に耳を傾ければ、必ず、わかるときがくる。 自分にふさわしい場所が。 三船久蔵は、このときの感動を、生涯忘れることはなかった。 【ON AIR LIST】 ◆LIVE BY THE SWORD / The Rolling Stones ◆EARTH / Joe LoPiccolo, Ray Sandoval ◆ALL IN YOUR MIND / Raul Midon ◆柔 / 美空ひばり ★今回の撮影は、「久慈市立三船十段記念館」様にご協力いただきました。ありがとうございました。 営業時間など、詳しくは久慈市のHPよりご確認ください。 久慈市立三船十段記念館 HP
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RECIPE

レシピ

霜降りひらたけとほうれん草のスパニッシュオムレツ

今回は、三船久蔵の出身地、岩手県久慈市の特産野菜、ほうれん草を使った料理をご紹介します。

材料 (2人分)
  • 霜降りひらたけ 1パック
  • ほうれん草 1/2束
  • 玉ねぎ 1/4個
  • ミニトマト 6個
  • 卵 3個
  • 塩 小さじ1/2
  • 粉チーズ 大さじ1
  • オリーブオイル 大さじ1・1/3
写真 カロリー / 239kcal(1人分)
調理時間 / 15分
使用したきのこ / 霜降りひらたけ
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。ほうれん草は食べやすい大きさに、玉ねぎは薄切りに、ミニトマトは半分に切る。
  • 2.
  • フライパンにオリーブオイル(小さじ1)を熱し、玉ねぎ、霜降りひらたけ、ほうれん草の順に炒める。
  • 3.
  • ボウルに卵を溶きほぐし、塩と粉チーズを入れ、よく混ぜる。粗熱を取った(2)を入れ、さらによく混ぜる。
  • 4.
  • フライパンに残りのオリーブオイルを熱し、(3)の卵液を入れる。弱火にしてミニトマトをのせ、フタをして蒸し焼きにする。

yesとは?

番組概要

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』今週あなたは、自分を褒めてあげましたか? 古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。あなたの「yes!」のために。

語り:長塚圭史 脚本:北阪 昌人 ▸ Profile

放送時間
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
  • TOKYO FM…SAT 18:00-18:30
  • FM大阪…SAT 18:30-19:00
  • FM長野…SAT 18:30-19:00
  • FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
長塚 圭史

PROFILE

長塚 圭史
語り: 長塚 圭史
1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。 また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。
北阪 昌人
脚本: 北阪 昌人
1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。 TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。 『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。 主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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