Yuming Chord
松任谷由実
2023.07.14.O.A
♪Onair Digest♪

私が目指すべき道の、ずっとずっと先にいる憧れの人に会いに行くところです。
今日のコードは「The Path to Color〜ユーミン、マティスに会いに行く。」です。


■今週のChordは“The Path to Color〜ユーミン、マティスに会いに行く。”

ユーミン:私は、これから「我がマイスター」なんて言うとおこがましいんですけど、私にとってはそういう人。私が目指すべき道の、ずっとずっと先にいる、憧れの人に会いに行くところです。

今日は、東京・上野にある東京都美術館で開催中の、『マティス展 Henri Matisse:The Path to Color』にやってきました。日本では20年ぶりの大回顧展だそうです。

まさに、20年前、2004年に国立西洋美術館で開催された『マティス展』も観に行きました。今回はさらに充実した内容だと聞いているので、とっても楽しみにしてきました。
ひとあし先に、今回の展覧会の図録も手に入れさせていただいて、ちらっと予習してきたりもしたんですけれど、作品点数が本当に充実しているので、今日のコードは「The Path to Color〜ユーミン、マティスに会いに行く。」というコードですが、マティスはもう亡くなっているわけだけど、私にとっては、今こうしている時にも、肉体を持ってそこにいるような、リアルな存在に感じます。

デビュー50周年を経て、新たな一歩を踏み出そうとしている今、こうして彼の様々な表現と向き合う機会が与えられて、きっとこれからの創作活動の励みになる気がしています。
そんな私と共に会場を巡っていただくのは、東京都美術館学芸員の藪前知子さんです。よろしくお願いいたします。

藪前:よろしくお願いいたします。


第1章 フォーヴィスムに向かって(1895-1909)
ユーミン:ではさっそく、マティスが歩んだ色彩の道を歩いて行きます。
展示室内に入ってきました。

藪前:今回の展覧会は、マティスの初期から亡くなる直前まで、彼の一生を作品とともに追う展覧会になってます。
ここは、マティスが画家としてのアイデンティティを確立させていく初期の作品を集めております。
マティスというと、フォーヴィスム(野獣派)と言われたりするほど激しい色彩と筆触の作品で知られているんですが、その時期は、実はほんの少ししかなくて、彼自身は“絵画の実験”を生涯をかけてずっと続けた人なんですね。
今ご覧いただいているのは、本当に初期の自画像ですね。マティス30歳頃の作品です。

ユーミン:観念的に・・・肌が肌色だとか木が緑だとか、そこを無視して、感覚的に描かれていますね。

藪前:そうなんです。色彩が自身が持っている表現力をどこまで高められるかを、生涯をかけて探求した人ですね。

ユーミン:マティスと言えば、色が素晴らしいので有名ですけれど、この初期の作品でも、後に花開いていく色彩が見えますね。

藪前:そうですね。自画像でも、炎がきらめくような色などが使われていたりして、彼の片鱗がちょっと見えているんですよね。

ユーミン:そして、「読書する女性」の前に来ました。

藪前:マティスは、絵を描きはじめるのがすごく遅くて、20歳を過ぎてお母さんに絵の具箱をもらって、絵を描きはじめるんです。
この作品は、それから5年ぐらい経った頃でまだ初心者のはずなんですが、この絵が国家に買い上げられて、(画家としては)すごくラッキーなスタートを切った作品ですね。

ユーミン:古典的ですね。

藪前:描かれているのは、当時のパートナーで、この2年前に女の子を出産しているんですけれども、その女性を後ろから覗き見するような形で描かれています。
マティスといえば後にアトリエの絵画などを描くんですが、その片鱗も既に見えている作品ですね。

ユーミン:次の作品は、今回の展覧会のメインの1つですね。

藪前:はい。今回、日本初公開の「豪奢、静寂、逸楽」という作品です。

ユーミン:こんな近くで(作品を)観れるなんて、鳥肌が立っちゃう。
点描ではあるんですけど、ラインや輪郭も描かれているじゃないですか。

藪前:そうなんです。この作品は、新印象派の画家ポール・シニャックという作家を真似してみようと、彼が住んでいるところへ行って習って描くんですけど、ただ、彼がやっていることを、やっぱりちょっとアレンジしちゃうんですよね。
なので、「ちょっと線を描いてるぞ」みたいな、そういうマティスらしいアレンジがされていますね(笑)。

ユーミン:何か、色と線がせめぎあってる感じがしますね。

藪前:そうなんです。新印象派自体は科学的な絵画の描き方をするんですけど、マティス自身は科学に興味がなくて。

ユーミン:そうなんですね。なんて言ったかな・・・。

藪前:“筆触分割”とか“視覚混合”とか言うんですけれど。

ユーミン:点で描かれていることで、脳の中で色が混ざって見えるんですよね。

藪前:シニャックなんかは科学的にそれを理論化したんですが、マティスは「理論というのは空虚だ」と言っていて、自分は、常に目の前にあるものから感覚を受け取ってそれを絵画に変換するんだ、ということを言っているので、シニャックを真似してみるんですけど、完全にはそれに従わない。

ユーミン:そういうところがカッコいいなというか、偉いなというか。ポップスをやっていても、ビルド&クラッシュ的なトライは色々するわけですよね。そういう姿勢が、絵画の世界であるから。

藪前:結構、(マティスは)ミーハーなところがあって、新しいことをやっている人がいると、すぐに会いに行ったりしているんです。
たとえば、ルノワールに会いに行ったり、ロダンに会いに行ったり。それも、有名な人から若い人まで会いに行って、”ちょっと盗もう”みたいな感じはあるんですけれども、でもやっぱり常にアレンジするんですよね。

ユーミン:とにかく、マティスは頭と手を動かして、挑戦をやめなかった人だったんですね。やっぱり、彼の生き方は、私の理想だし、憧れかも。


第2章 ラディカルな探求の時代(1914-1918)
ユーミン:『Yuming Chord』、「The Path to Color〜ユーミン、マティスに会いに行く。」
東京都美術館で開催中の『マティス展 Henri Matisse: The Path to Color』の会場で、マティスの作品と向き合いつつ、お送りしています。
ガイドは、東京都美術館学芸員の藪前知子さんです。
色彩と光に満ちたマティスの冒険を追いかける旅、さらに進んでいきますが、続いては・・・?

藪前:次は、第一次世界大戦中の時代になるんですが、マティスがもっとも実験的な時代と言われています。
今、観ていただいているのが、これは本当に、マティスの絵画の中でももっともミステリアスと言われている作品なんです。ほとんど抽象絵画みたいな・・・。

ユーミン:“現代アート”っていう感じですね。

藪前:そうなんです。

ユーミン:「コリウールのフランス窓」。縦にストライプが入っているような絵なんですけれども、窓で、本当は光がさすはずの場所が真っ黒に塗られています。

藪前:これは、マティスが、第一次世界大戦が勃発した直後にフランスへ逃げるんですが、その逃げた先のコリウールで、この絵だけ描いているんですね。
サインもないので、もしかしたら未完成かも、とも言われているんですが、彼は生涯これを人に見せずに、ずっと手元に持っているんです。
それで、亡くなってから10年ぐらい後に、アメリカであった回顧展でこの作品が初めて公開された時、抽象絵画の時代だったんですが、アメリカの人たちがこの絵を観て、「マティスはやっぱり自分達の先祖だ」みたいなことを言ったんだそうです。
この作品をよく見ていただくと、この窓の部分に、ちょっと何か見えませんか?

ユーミン:本当は風景を描いていたんでしょうね。

藪前:はい。で、最後に、これを真っ黒に塗りつぶしてしまったんですね。

ユーミン:それは心理的なものでしょうかね。息子を2人とも徴兵されてしまって・・・とか。

藪前:そうなんです。戦争の影響という意見もありますし、この時からマティスが黒い色をよく使うようになるんですが、(マティスは)「黒色で光を表現することができる」というようなことを言っているので、その実験ではないかと言う人もいますし、「窓」というものが、「絵画とは何か」というテーマに通じるんですね。
ルネッサンス時代に、「絵画とは世界に開かれた窓である」という有名な言葉があって、「窓を描く」ことは「絵画とは何か」を描くことに等しい、というところがあったんですが、例えば、私たちはこの絵を見ると、向こうを見たくなりますよね。

ユーミン:そうですね。

藪前:だけど、絵の具にそれを妨げられてしまうということで、マティスは窓を描くことで、“見る”という経験を問い直しているんじゃないか、ということも言われていたりして、いろんな謎を呼ぶ作品ですね。

ユーミン:ちょっとかわいそうだなと思うのは、巨匠になってしまうと、見せたくなかったものが亡くなった後に出てくるじゃないですか。天国で「やめてくれ!」って言っているかもしれませんね(笑)。

藪前:そうですね(笑)。

ユーミン:そして、これも今回の表題の1つと言っても良い、「金魚鉢のある室内」。

藪前:この作品は、さきほど観ていただいた「コリウールのフランス窓」の直前に描かれていて、戦争が始まる直前に、マティスはこのセーヌ川(のほとり)にあるアトリエに引越してくるんですが、このアトリエは彼にとってとても刺激的で、たくさんのアトリエの作品を残しています。その最初の作品ですね。

ユーミン:全部がブルートーンですね。

藪前:はい。向こう側に見えるのがセーヌ川で、手前にある桶のようなものに水が入っていて、真ん中に金魚鉢があるんですけど、これはモロッコで手に入れた金魚鉢で、手前のアトリエの空間、奥のセーヌ川の空間をちょうどつなぐ感じで金魚鉢が置いてありますよね。

ユーミン:水がつながっている感じ。

藪前:よく見ると、橋の形と金魚鉢の形が連続していたりして、外の空間と内の空間がつながっているんです。

ユーミン:ちゃんと水の質感が出ているので、そういうところがすごいなと思いますね。
素通りしちゃうと、たどたどしいような、“ヘタうま”みたいに思うんだけど、実は構築されているというか、構図も色面も、本当にそういうところがマティスはすごいなと思わされます。


第3章 並行する探求─彫刻と絵画(1913-1930)
藪前:今回の展覧会の目玉の1つなんですが、マティスといえばやっぱり「画家」というイメージですけど、彫刻家としても本気で取り組んでいたということで、絵画と彫刻がお互いに影響を受け合っているところを、今回の展覧会は強調しているんです。

ユーミン:これは、絵画にも出てくる・・・。

藪前:はい。「アンリエット」。お気に入りのモデルです。

ユーミン:後で出てくると思いますが、「赤いキュロットのオダリスク」の(モデル)。

藪前:そうです。

ユーミン:これは写実的ではないかもしれないけれど、立体で見るとこんな人だったのかな。

藪前:最初がこちらなんですが、これが一番風貌に似ているんですけど、それをどんどんデフォルメしている。
彼女の特徴はおでこの形なので、それを強調しながら、「アンリエット」だとわかるけれども、フォルムとして強くしていく、ということを、ここで実験していますね。

ユーミン:そして、このレリーフは、4作、すごく時間が開いているようですね。

藪前:そうなんです。マティスは、スランプに陥ってしまったり、「もうちょっと何かが足りない」と思うと、この作品に戻って、もう1回つくり直して、で、また絵画に戻る、ということをしているんですね。
これは「背中」という作品で、最初の作品から最後の作品まで、20年ぐらい幅があります。なので、シリーズ作品としてつくったのではなくて、それぞれ絵画作品と関連しているんです。

ユーミン:最後のものなんて、大作につながるようですね。

藪前:そうですね。バーンズ・コレクションの「ダンス」という作品をつくっている時にこちらをつくっていますし、真ん中の2つの作品も、「川辺の浴女たち」という作品を完成させる直前につくっています。
“人体”というものをデフォルメして形を抽象化して強くしていくんですが、でも、人間の形ということをやっぱりどこかで常に保たなければいけないので、その研究のためにこの作品をつくっていると言えると思います。

ユーミン:この、一番右側の作品がとても興味深い。こんなに、“簡略化”というか、“幾何学的”ぐらいになっているのに、ちゃんと人の動きが感じられますね。


第4章 人物画と室内画(1918-1929)
ユーミン:「赤いキュロットのオダリスク」。(モデルは)アンリエット。

藪前:そうですね。お気に入りのモデルを描いていて、「オダリスク」というのは、オスマントルコのスルタンの近くに侍っている女性のことで、このオダリスクのモチーフをマティスはたくさん描くんですが、これがその最初の作品になります。
これは実際にその場所へ行って描いたのではなく、自分の部屋を飾り立てて、そこに“演劇空間をつくる”みたいな感じで、アンリエットというお気に入りのモデルに演じさせているんですね。

ユーミン:実際に、こういうしつらえだったということですね。

藪前:はい。写真を見ると、この通りに、アトリエを自分でセッティングしてそこで描いているんですね。
ヌードを描きたいんですけど、ただ、この20世紀にヌードの人がいたら日常ではないわけですね。それをどういう風に描くかというと、それを演劇的にしつらえる、ということをマティスが発明して・・・。

ユーミン:で、オダリスクにして。

藪前:そうなんです。「オダリスク」というテーマ自体が、絵画の伝統的なモチーフなんです。
マティスはやっぱり「絵画とは何か」ということを考えたいので、そういう、いろんな時代の絵画の記憶みたいなものも一緒に描きたくて、感覚としては“サンプリング”とか“リメイク”に近いものがありますね。

ユーミン:「赤いキュロットのオダリスク」は、来る機会があれば、ぜひ、ガン見してください(笑)。


m3 Painting the sea
松任谷 由実

ユーミン:今日は、東京・上野の東京都美術館で開催中の『マティス展 Henri Matisse: The Path to Color』の会場からお届けしていきました。

いろいろあるんですけれど、「金魚鉢のある室内」。これはマティスのアトリエの様子をブルーのトーンで描いていて、金魚鉢の中の金魚と、手前の洗面器みたいなものと、“水つながり”で不思議な気持ちになります。
本当に、この機会を見逃してほしくない!って、そう思います。

今回、私は、企画構成を担当した藪前さんと共に展示を観てきたんですけれど、実は、音声ガイドもあります!
マティス好きの女優・上白石萌歌さんが今回ナビゲーターに初挑戦。
そちらを聴きながら巡るのもおすすめです。
チケットの購入方法のほか、くわしくは公式サイトをご覧ください。
期間は、来月、8月20日の日曜日までとなっています。

そして、来週も『マティス展』の会場からお送りします。
マティス展がもっと楽しめるトークセッション、藪前さんをゲストにお迎えしてお送りしますので、どうぞお聴きのがしなく。

ただいま、私はデビュー50周年を記念した全国アリーナツアー、大和証券グループpresents 50th Anniversary 松任谷由実コンサートツアー「The Journey」の真っ最中!
今週末、7月15日・土曜と16日・日曜は、神戸ワールド記念ホールのステージに立ちます!
今後のツアーの詳細やスケジュール、そのほかの最新情報は、私の公式サイトツイッターFacebookインスタグラムをチェックしてくださいね。







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