Yuming Chord
松任谷由実
2023.07.21.O.A
♪Onair Digest♪

色彩と光に満ちたマティスの冒険を追いかける旅、さらに進んでいきます。
今日のコードは「The Path to Color〜ユーミン、マティスを語り合う。」です。


■今週のChordは“The Path to Color〜ユーミン、マティスを語り合う。”

今、東京・上野にある東京都美術館で開催中の『マティス展 Henri Matisse: The Path to Color』。
今年4月からスタートして、会期は来月、8月20日までなので、残りひと月をきってしまいました。
先週、その20年ぶりとなるマティスの大回顧展の模様を会場からお伝えしましたが、私自身、できるなら、何度も観に来たいですし、何より、たくさんの方にも観て欲しいと思っています!
なぜなら、マティスのアートは、観る人を幸せな、明るい気持ちにしてくれるから。エネルギーをくれます。

そこで!まずは、アンリ・マティス大回顧展の企画構成に携わったこの方にも、マティスのアートと向き合うと、どんな気持ちになるのか?・・・聞いてみます。
東京都美術館・学芸員の藪前知子さんへ、いきなりクエスチョン!
この『マティス展』をつくりあげる過程で感じた、マティスの芸術、その一番の魅力、または、特別な力とは?

藪前:今、この番組の前に由実さんとお話をしていた時に、「マティスの絵が、能面みたいに、その日の気分とかによって観る感覚が変わったり、力をもらえる」というお話を伺ったんですけれど、マティスの魅力ってまさにそういうところにあって、“観る人が自分自身に出会う”というか、“参加させる”みたいな、そういう余地があるんですよね。
一見、すごくそっけなく描かれているんですけど、多分、受け取る人によって受け取り方が違っていて、“観る人が参加して初めて完成する”みたいな、そういう余白みたいなところがすごく不思議な・・・ちょっとマジック的なところもあるんですが、そういうところがマティスの魅力かなと思います。

ユーミン:そんな、気鋭のキュレーター、藪前知子さんとともに探ってゆく今日のコードは、「The Path to Color〜ユーミン、マティスを語り合う。」です。

私は今、『マティス展 Henri Matisse: The Path to Color』を開催している東京都美術館にいます。展示会場を巡りながら私個人のマティス愛を改めて深めた先週に続いて、この方にお話を伺っていきながら、会場を巡ります。
では、藪前さん、よろしくお願いします。

藪前:よろしくお願いします。

ユーミン:まずお聞きしたいことがあるんですけれど、今、なぜアンリ・マティスの大回顧展をこの時代に催されるんですか?
その意義はどんなところに?

藪前:マティスの回顧展は、日本では20年ぶりなんですね。この展覧会は、ポンピドゥー・センターとの共同企画ということで、そのキュレーターと一緒に企画を練っていったんですが、やっぱ り、マティスという人は自分を更新し続けた画家なんだ、そこにマティスの現代性がある、ということが、ポンピドゥー・センターとの共通認識としてありました。
この展覧会は、初期から晩年までマティスの全人生をたどるという展覧会で、その中で、マティスが常に実験・挑戦していって、変わり続けていった、そこから現在の私たちが得るものがたくさんあるんじゃないか、というのがこの展覧会のメッセージですね。

ユーミン:「純粋芸術」といっても、決して純粋なだけではなく、画商もいるでしょうし、世の中を見渡すアンテナも必要だということを、会場を回っていて、(マティスは)すごくそういうセンスにも長けていた人なんだなと思ったので、私はポップの世界にいるわけなんですけれど、共通のものがあるなと思いました。


第5章 広がりと実験(1930-1937)
ユーミン:色彩と光に満ちたマティスの冒険を追いかける旅、さらに進んでいきます。続いては?

藪前:マティスは、ニース時代というすごく保守的な時代の後に、また実験に戻るんですね。30年代の初めなんですが、マティスはいろんなところを旅行していて、旅行はマティスにとってすごく重要な変化のきっかけになるんですけど、そこでまた実験に帰るという、そういう時代です。

ユーミン:「リディア」というモデルが登場してきますね。

藪前:はい。彼女は30年代の初めからマティスの助手として雇われているんですが、途中からマティスがすごく興味を持って、彼女をモデルにするんです。亡くなるまで彼女はマティスにずっと付き添うんですが、その彼女を描いたキャンバスの最初の作品が、この「夢」という1935年の作品ですね。

ユーミン:リラックスして、安心しきっている状態。

藪前:リディアはロシアの女性で、マティスは、最初、自分は興味がなかったということを言っているんですね(笑)。ですが、ある日、彼女がうたた寝しているのを見て、ちょっとマティスの中にスイッチが入ったみたいで(笑)、それで彼女をすごくたくさん描いている。それがこちらの作品に、最終的に結実していくんです。

ユーミン:途中に、「夢」のための習作があったりしますけれど、これが・・・。

藪前:こちらは「座るバラ色の裸婦」という作品なんですが、よく観ていただくと、もう、“のっぺらぼう”みたいな感じ。リディアをヌードで描いているんですが、ほとんど、何か幾何学的な、“抽象”みたいな感じですよね。ただ、よく観ていただくと、最初に、おそらく彼女のことをすごく写実的な顔に描いているんですね。ちょっとうっすら顔が見えます。

ユーミン:見えますね。マティスの中でもすごく好きな絵ですね。何か、今までやってきた実験が結実しているという感じがします。色も。

藪前:そうですね。「なぜこんな、のっぺらぼうみたいに描いたんだ」とマティスは聞かれて、「観る人の想像力をかきたてるために顔がない作品にしたんだ」と言っています。
マティスは、この時代から後は、何回も何回も描きかえている跡を絵画の中に残すようになるんですが、線がご覧になれますか?

ユーミン:これは、よく観たかったんですよ。この絵の、削り取った跡とかね。溶剤で取ったりとか。本当に、写実的な顔がうっすら見えますね。このフォルムまで持っていっちゃっても、人体の動きがしっかり伝わるのがすごい。
この「座るバラ色の裸婦」、一番、本物を観たかったんです。そこに生きている、という。“モデルが”というか、“マティスがここにいる”という感じがしますね。


第6章 ニースからヴァンスへ(1938-1948)
ユーミン:さらに進んでいきます。

藪前:こちらは「マグノリアのある静物」という作品になります。これは、マティスが「色彩の魔術師」と言われる1つのきっかけとも言われている作品ですね。
ピカソのパートナーのフランソワーズ・ジローという女性がいまして、彼女自身も画家なんですが、すごくマティスのファンで、マティスとピカソの関係を本にもしているんですが、その中に、この「マグノリアのある静物」について初めて観たときのことが描かれているんですね。ジローはこれをすごく褒めるんですが、ピカソは、嫉妬なのか何なのか、「大した絵じゃない」みたいなことを言うんですけど(笑)、ただやっぱり、「この色彩は宇宙的で、こんな色彩を描けるのは、マティスは魔術師だ」ということを言っていて、そこはすごくピカソらしいですね。

ユーミン:大胆なんだけれど、繊細ですね。だから、洗練されているなと思います。
ピカソもすごいけど、“マッチョ”じゃないですか。マティスって、マッチョじゃないんですよね。

藪前:そうですね。この絵は、描くプロセスが写真に撮られているんですけれど、最初はもっとごみごみしている絵なんですね。敷物もいっぱいあって、貝なんかもちょっと違う場所にあったりするんですけど、それが描いているうちにどんどん「これも余計」「これも余計」ということで削ぎ落としていって、最終的には“宇宙空間”みたいな中に惑星が浮かんでいる、そういう感じの絵で、でも、それぞれの要素が均衡を取っている。


第7章 切り紙絵と最晩年の作品(1931-1954)
ユーミン:さあ、最重要なエリアに来ました。

藪前:そうです。マティスといえば晩年の切り紙絵がすごく人気がありますが、第7章でその切り紙絵をご紹介しています。

ユーミン:『ジャズ』ですね。なんて綺麗なんでしょう!

藪前:31年から切り紙絵となっているんですが、本格的に切り紙絵を始めているのは、40年代に入ってからなんです。
それまでは、バーンズコレクションの壁画とか、そういう大きい作品の下絵で切り紙絵をやっていたんですが、40年代の初めに病気をして、これから先は与えられた自分の第2の人生というときに、「何か新しいことやろう」ということで、それまで試していた切り紙絵を、キャンバスの絵画と同じぐらいのクオリティでやってみよう、と。もう体も動かなくて寝たきりになっていますので、ベッドの上でもできる作品ということで。そこはマティスのすごくポジティブな・・・体が動かなくなったら、そこでできることをという。

ユーミン:本当に尊敬しますね。で、コンテンポラリーに地続きじゃないですか。あと、広告デザインとか。

藪前:そうなんです。当時、ソール・バスとか、そういうグラフィックデザイナーにもすごく通じる感覚で。周りにいた批評家とか画商の方がちょっと遅れていて、「もうこんな子供みたいなことをやらないでくれ」と言うんですけど、「自分はやっぱり正しいんだ」と信念を持って、この作品を自分の到達点として出すんですよね。

ユーミン:これは、タイトルが「イカロス」。これが一番好きかな。

藪前:これは文章がないんですが、2バージョン作られていて、絵の横にマティスが手書きで文章を書き加えたバージョンというのも出版されていて、その「イカロス」のところには、「新しい時代に若い人たちが遠くに旅立って冒険してほしい」みたいなことが書いてあるんですね。

ユーミン:切り紙絵なのに、これまた、人の動きがすごく出てますね。

藪前:はい。すごく変な形ですよね。すごく抽象化されているんですけど、やっぱり人の形だとわかる。それはやっぱり、骨格とか人の形の動きで、どのパーツがどういう風に動くかということをマティスが知り尽くしていたからなんですよね。


m3 丘の上の光
松任谷 由実

ユーミン:今回こうしてマティスの様々な作品を直接観ながら、彼の飽くなき挑戦の軌跡をたどることができて、私自身ものすごく勇気をもらえたんですけれど、マティス自身は、芸術家の役割、やるべきことについて、どんな考えを持っていたんでしょう。

藪前:マティスの言葉というのは、「マティス 画家のノート」という本にまとめられていて、最近それも再販されたので読むことができるんですが、あまり饒舌な人ではなくて、大げさなことは言わないですけれども、「芸術というのは何 か」ということについて、「人間の魂の表現なんだ」と言っているんですね。(芸術家は)「人間の精神の本質をつかむ、そういう仕事なんだ」と言っていて、音楽家であったり、画家であったり、いろいろ表現は異なったとしても、やっぱり本質はそこにあるということを言っています。
あともう1つは、「芸術家というのは探検者だ」と言っていて、挑戦して変化し続ける、新しいものを発見する、そういう姿を世の中に示す存在だということを、自分の人生をかけて見せていった人じゃないかなと思います。

ユーミン:楽しみ方も自由な『マティス展』、ぜひ足を運んでいただきたいですね。ゲストは、東京都美術館学芸員、藪前知子さんでした。どうもありがとうございました。

藪前:ありがとうございました。




ユーミン:今日は、東京・上野の東京都美術館で開催中の、『マティス展 Henri Matisse: The Path to Color』の魅力を、学芸員の藪前知子さんとともに、語り合いました。
いろいろあるんですけれど、私の年齢よりもさらに先の、切り紙絵のシリーズ。中でも「イカロス」がすごく元気をくれて、それはまだ開けていない扉を見せてくれたような気がして、ずっと観ていたかったです。
マティスのように、私も冒険し続けたいし、ずっと創作活動への意欲をなくさずに、音楽と向き合っていきたい!
そんな決意を新たにしました。

そんな、前向きな気持ちになれる『マティス展』。
チケットの購入方法ほか、くわしくは公式サイトをご覧ください!
会期は、来月、8月20日の日曜日までとなっています。

そして!まさに、私もただいま、週末ごとに冒険中です。
デビュー50周年を記念した全国アリーナツアー、大和証券グループpresents 50th Anniversary 松任谷由実コンサートツアー「The Journey」!
今週末、7月22日・土曜日と23日・日曜日は、盛岡タカヤアリーナのステージがあります。
ぜひ、一緒に旅する気分を味わってくださいね。
大好きな盛岡、私も楽しみです。

なお、ツアーの詳細やスケジュール、そのほか、私の最新情報や近況は、私の公式サイトツイッターFacebookインスタグラムなどでお知らせしています。
ぜひ、チェックしてみてくださいね。







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