Dream Heart(ドリームハート)

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REPORT 最新のオンエアレポート

Dream HEART vol.289 西洋美術史家 木村泰司さん

2018年10月13日

今週ゲストにお迎えしたのは、先週に引き続き、マガジンハウスから「人騒がせな名画たち」を刊行されました、西洋美術史家の木村泰司さんです。

木村泰司さんは、1966年生まれ。
米国カリフォルニア大学バークレー校で美術史学士号を修めた後、ロンドンサザビーズの美術教養講座にて WORKS OF ART 修了。
ロンドンでは、歴史的なアート、インテリア、食器等、本物に触れながら学ばれました。
東京・大阪などで講演活動されて木村さんの軽やかなテンポの講義にたくさんの方々が魅了されています。

今週は、木村泰司さんの著書「人騒がせな名画たち」についてのお話を伺っていきます。


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──「人騒がせな名画たち」

茂木:木村さんの本は語り口が本当に素敵なんですけど、この言葉のリズムってどこから学ばれたんですか?

木村:アメリカはスピーチの授業があるんですよね。プレゼンテーションがいかに重要かということが根底にある文化で、政治家もスピーチが上手いですし…。
教授たちもそうだったんですね。例えば、PBS。向こうでいう教育テレビなどで講座を持ってらっしゃる教授なんかですと、その分野で世界一みたいになるわけです。
そうなりますと、それが学部生のための授業でも、大学院生たちが立って聴講してるんですね。

茂木:えっ!立ち見ってことですか?

木村:そうです。学部生の授業ですから座っちゃいけないんです。

茂木:そこらへん、アメリカの大学は厳しいですね。

木村:それくらい名教授なんですね。実際、飽きさせないんですね。素晴らしい教授ほど、1時間半があっという間に終わってしまう。大体2回ぐらいワッと湧くジョークを入れられるんです。
自分も散々美術史の授業を受けていたので、カルチャーセンターでの講座でもそうですし、イベントでの講演もそうですけれども、お客様に楽しんでいただけるように心がけてます。

茂木:そして、木村泰司さんの著書「人騒がせな名画たち」に登場する画家は
ボッティチェリ、ルーベンス、フェルメール、ルノアール、ゴッホなど、美術史界のVIPばかり!
みんなが知ってるような有名な作品について、ものすごく意外なことを書いてくださってる本です。
例えば、日本でも大人気のフィンセント・ファン・ゴッホの「花咲くアーモンドの木の枝」、「カラスのいる麦畑」。
この二つの作品を解説されてらっしゃるんですけど、「カラスのいる麦畑」は、黒澤明監督の映画にも使われていて、日本人にもよく知られている作品です。

木村:ゴッホというのは後期印象派と呼ばれるんですけど、印象派とはどこが違うのかというと、
ゴッホにしてみれば、印象派は印象しか表現していないと。
ゴッホは、作品に感情が現れるものを求めたんですね。当時の美術界では、画家の感情のことなんかどうでもいいことだったんですけど、
ゴッホは、対象にまつわる自分の感情というものを表現しようとしたわけですね。ゴッホの書簡というのも残ってますから、その時ゴッホが何を考えてきたのか。そして、どういった状況だったのかというのも私たちにはわかるわけです。

茂木:そういうことまで分かってきてしまうということですね。

木村:そうですね。絵画が個人的なものになってきたのが後期印象派の時代からです。

茂木:そして、僕は非常に好きな作品でもある、ベルト・モリゾの「ゆりかご」そして「ブージヴァルの庭のウジェーヌ・マネと娘」。
モリゾというと女流画家の代表と一般には思われていますけど、今回の本の中では『描きたい絵を描けなかった女流画家の悲哀』と解説されています。

木村:この時代、フランスは非常に美術界が保守的でした。
ベルト・モリゾは1895年に亡くなりましたけど、モリゾが亡くなったときも、フランスにあります国立美術学校 エコール・デ・ボザールには、まだ女性の入学は許されなかったんですね。

茂木:そうなんですね。

木村:なぜかと言うと、男性のヌードというのをスケッチすることが必須の教育だったからなんです。
歴史を振り返ってみますと女性画家が非常に少ないのはそのためなんです。
だから、もともと歴史画家を育てる機関だったんですね。歴史画というのは宗教画であったり、神話画となるわけですね。
で、イエス様の新約聖書になりますとヌードは少ないですけども、旧約聖書は結構ヌードがあります。
そして、神話画。神様はヌードですからね。裸体描かなければいけないんですよ。
男性裸体像というものをスケッチしなければならないので、女性には扉が開かれてなかったんです。なので、女流画家は半径5メートルの世界しか描けないわけです。

茂木:そういう目でモリゾの作品を見ると、いろんな見え方が出てきますね。

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──美術は見るものではなく読むもの

茂木:そして、本の始めに木村さんはこう書かれています。
『美術は見るものではなく読むものです』。これは強烈なメッセージですよね。

木村:それは、レオナルド・ダ・ヴィンチが人間の魂の意図するところを描かなければならないと考えてたわけですね。
レオナルドの絵画理論をベースに、フランスなどでは17世紀半ばに王立絵画彫刻アカデミー、今の美大のモデルになったものができてくるわけです。
そのときにお手本となったのが、フランス絵画の古典でありますニコラ・プッサンですね。ニコラ・プッサンが何を信じてたかと言いますと、絵画は知性・理性に訴えなければならないと。ですから、デッサンとフォルムが重要だと。
色が美しすぎると感覚に訴えてしまうからダメとなったわけです。
ですから、フランス絵画というのは伝統的に感性に訴えるものではないんですね。知性・理性に訴えるものです。
そして、メッセージを伝える為にデッサンや構図、フォルムが大事だったわけですね。

茂木:日本において絵画というものが知性に訴える部分だっていうのは、
今まで見過ごされてきたところがあるんですね。

木村:それはなぜかというと、日本は襖とか屏風などの工芸品が美術品になっているんです。
ヨーロッパの場合、まずルネッサンス時代に美術品と工芸品というのは区別していったわけです。ですから、日本は芸術家と職人の差というのがないわけですね。
一方、ヨーロッパの場合はルネッサンス以降、芸術家と職人とでは社会的な地位が違ってくるわけです。現在でも、欧米ですとアーティストの地位というのは日本よりも非常に高いですよね。それは、そういった背景があるからなんです。

茂木:なるほど!本当に目から鱗です。
この西洋美術史ブーム、日本に根付いてほしいですね。

木村:そうですね。特に東京は恵まれてますのは、良い展覧会がよく開かれるんですね。
ですから、背景にあるものを知った方が断然楽しめるわけです。ヨーロッパ人でもルネッサンス絵画を見るときにはその作品を学ばないとわからないんです。
私たちが江戸の町人ではないので歌舞伎を見るときにイヤホンガイドが必要になってくるのと同じですよね。
美術史というのはイヤホンガイドに近いところがあると思います。

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今夜、ご紹介した、
マガジンハウスから刊行されました、
「人騒がせな名画たち」に木村泰治さんのサインを入れて、
3名さまにプレゼントいたします。

ご希望の方は、必要事項を明記の上、
ドリームハートのホームページより、ご応募ください。

番組へのご意見など、メッセージを添えていただけると嬉しいです。

尚、当選者の発表は、商品の発送をもってかえさせていただきます。
たくさんのご応募、お待ちしております。


木村泰司 公式サイト

●人騒がせな名画たち / 木村泰司 (マガジンハウス)


(Amazon)


来週お迎えするのは、作家の阿川佐和子さんです。
どうぞお楽しみに。