Dream Heart(ドリームハート)

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REPORT 最新のオンエアレポート

Dream HEART vol.370 写真家のハービー・山口さん 「写真の神様が誘導してくれた出会い」

2020年05月02日

今週ゲストにお迎えしたのは、写真家のハービー・山口さんです。

ハービー・山口さんは、1950年、東京都のご出身です。

大学卒業後の1973年、23歳の時にロンドンに渡り、
10年間の滞在中に、劇団員を経て、写真家になりました。

パンクロックやニューウェーブのムーブメントに遭遇し、
デビュー前のボーイ・ジョージとルームシェアをするなど、
ロンドンの最もエキサイティングだった時代を体験されます。

そうした中で撮影された、生きたロンドンの写真が高く評価され、
帰国後も、福山雅治さんなど、国内アーティストとのコラボレーションをしながら、
常に市井の人々の日常にカメラを向け続けていらっしゃいます。

そのように写真発表をされる傍ら、エッセイ執筆、ラジオ、
テレビのパーソナリティ等でもご活躍中でいらっしゃいます。


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──ひとつのムーブメントを作った人の冬の時代

茂木:ハービーさんがお書きになったことでとても印象的だったのが、海外のアーティストとの仕事で、『単に来て、ジャーナリスティックだ』っておっしゃてたかな。パパッと写真を撮っていくだけじゃなくて、セッティングからいろいろ関係性を築いて、アートとしての写真を撮るカメラの人とは全然違っていて、『それが海外で合って、そこが素晴らしいんだ』というようなことを書かれていたんですけども。

ハービー:あまり過剰にセッティングを用意すると、予定調和みたいなことになるじゃないですか。会ってお互いにどう反応し合うか、ということの方が面白いんですよね。
それとね、被写体がないとカメラって撮れませんよね。だから、出会いが大切ですよね。
なんで、僕がカルチャー・クラブのボーイ・ジョージさんとね。

茂木:ご同居されてたボーイ・ジョージさんですね!

ハービー:僕はロンドンで10年いて、ずっと貧乏だったんですよ。自分で家賃が払えないんですよ。ですので、人の家の床が空いている部屋にずっと居候するわけですね。
ある時、グッジストリートっていう、割とロンドンの中心部ですけど、そこに居候してたら、隣の部屋に女装する趣味の方が引っ越してきたんです。それがのちのボーイ・ジョージなんですけど。

茂木:それってデビュー前ってことですよね。

ハービー:デビュー前ですね。今覚えてるのは、当時のロンドンには女装することを快く思わない大人たちがいて、彼が女装してバスに乗って夜クラブに行く。そうすると隣に、そういうことを好まないおばあちゃんがいたとすると、暴言を浴びせて、場合によってはつばをひっかけて。しょぼんとして帰ってくる時がある。
「しかし、ハービー、日本には歌舞伎っていうのがあって、男でも女役で着物着てもいいんだよね」と、すごい悩んでたんです。気の弱い人だったら、クラブに着いてからお化粧と女装して、クラブに行く前は普通の恰好をして行こう、なんて思うじゃない。

茂木:はい。

ハービー:だけどそのボーイ・ジョージも、決してそういった、現場に着いて着替えればいいなんてことはせず、生き方そのものが自分のファッションを代弁してる。つばをひっかけられようが、その恰好でずっと通しましたよね。
で、ひとたびデビューして、蛹(さなぎ)が蝶(ちょう)になったがごとく、世に美しく羽ばたいていたら、誰もつばをひっかけないで、今度は逆に手のひらを返したように拍手で迎える。
でも、ひとつのムーブメントを作った人というのは、それが認知される前の葛藤というか、世の中の冷たい風というものを全員経験して、花咲いている。花咲くまで、蛹が蝶になるまでの自分の葛藤というものを、絶対覚えてる。
誰でもデビューして、かっこいい、新しいファッションだと迎え入れられたところを見てるけど、その前の蛹の時の悔しさ、冬の時代を、みんな見ていないんですね。

まさに、デビュー前の一枚、彼を撮った。彼がベッドに寝ている。大家さんから「ガス代を払いなさい、ジョージ」って言われて、彼がぼやーっと、「ああ、お金ないのに」、その一枚を撮ったんですね。その時、「こんなとこ撮るなよ」という感じだったんですけど。
デビューしてしばらくして日本に来た時に、ベッドでぼーっとしている彼の不幸な時代の写真を楽屋で見せたんです。「こんな写真見たくない」って破くかと思ったんですけど、しかし、みんなを集めて、「おーい、この写真見てくれ! ハービーがとっといてくれたんだ」、「この前僕が、“僕は一夜にして有名になったんじゃないよ”ってみんなに言ったけど、みんな信じてくれなかっただろう?」、「この写真が、僕がいかにしてデビューしたか。その前の僕をまさに言ってる写真なんだ」ってね、破くどころかみんなに見せてましたよ。

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<ハービー・山口さんが撮影した茂木さん>


茂木:へぇ〜! そういう写真が撮れるのも、本当に出会いですね。

ハービー:一緒に住んでるから、なんですけどね。
ある時、1980年。ロンドンにアールズ・コートという街があって、そこのあるマンションに住んでる友達のイギリス人の女の子から電話があったの。「ねぇねぇ、私のマンション知ってるでしょ? 同じマンションに住んでる若い子に、ここ2〜3日パパラッチが来て、その子が出入りするのを撮ってるのよ。きっとその子有名になるから、あなた明日来てその子を撮ってみたら?」って。「もしも来るならば、マンションの横にある『オースチン メトロ』っていう赤い小さな車が彼女の車で、朝7時過ぎに必ず職場に出ていくから、その車のところで待っていたらパパラッチが2〜3人来たとしてもあなたはベストポジションで撮れるわよ」という住人のアドバイス通り、撮ったんですよ。
それがのちのダイアナ妃でした。

茂木:ええ〜! 本当に!? あ、そうか! 幼稚園の先生か何かをやってたんですよね。

ハービー:そうそう。
だからね、クラッシュのジョー・ストラマーさんでも、ボーイ・ジョージでも、ダイアナ妃でも、「撮ってくれ」と言わんばかりに僕の1m半に来るじゃないですか。

茂木:これは何なんですか?

ハービー:私のない知恵で言えば、「“いい写真を撮りたい”と思っている気持ちをずっと持ち続けていることで、『写真の神様』というのが誘導してくれるのかな?」とかね。どうなんですかね?

茂木:そういうこともあると思いますしね。
今日、僕ハービーさんとお話しててすごく幸せな気持ちになってるんですけど、ハービーさんって、どこかで、“僕が撮る人って、それからビッグになっていくんですよ”っておっしゃってるじゃないですか。『幸福をもたらす写真家』、みたいな。

ハービー:それ、たびたびアーティストさんから言われたりね。

茂木:これは逆に、お人柄とかあるんじゃないですか?

ハービー:わからないですね。

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ハービー・山口さん(@herbieyamaguchi) Twitter

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●LONDON – chasing the dream / ハービー・山口
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↑インタビューの中にありました、ダイアナ妃のお写真や、
 ミュージシャンの当時の貴重なお写真は、こちらの写真集で見られます。


STAY HOME展〜写真家が自室で見ているものたち〜

↑ハービー・山口×ArtStickerによるオンライン写真展
 「STAY HOME展」


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