Dream Heart(ドリームハート)

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Dream HEART vol.472 芸人・俳優・コラムニスト・作家 マキタスポーツさん 著書「雌伏三十年」

2022年04月16日

マキタスポーツさんは、1970年、山梨県のお生まれです。

“音楽”と“笑い”を融合させた「オトネタ」を提唱し、
各地で精力的にライブ活動を行っていらっしゃいます。

そして、独自の視点でのコラム・評論などの執筆活動も多く、著作には
『越境芸人』『一億総ツッコミ時代』『すべてのJ-POPはパクリである』などがあり、
2019年3月には出版業界初の公式便乗本『バカともつき合って』を出版。

またその独自の視点は“食”にも向けられ「10分どん兵衛」を提唱し、
話題を集めました。
俳優としては2012年に公開された、山下敦弘監督作品『苦役列車』をきっかけに、
第55回ブルーリボン新人賞、第22回東スポ映画大賞新人賞を受賞。
その後も『おんな城主 直虎』『忍びの国』『みんな!エスパーだよ!』など、
ご活躍中でいらっしゃいます。


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──人生で一本しか書けない小説

茂木:マキタスポーツさんはこの度、文藝春秋から初の長編小説『雌伏三十年』を刊行されました。このあらすじをご紹介します。
「1988年、山梨から野望を抱いて上京した主人公、臼井圭次郎が、紆余曲折の末に仲間とバンドを結成するけれども、なかなか売れず、結局バンドは空中分解。おまけに女性関係や家族との間にもトラブル頻出で、八方ふさがりの圭次郎に未来はあるのか!?」という、青春漂流記になっています。
“臼井圭次郎”というこの名前が、実は意味があるんですよね?

マキタスポーツ:そうですね。臼井圭次郎…“薄い毛、弄ろう”ということですね。そういう変わった名前を、親に付けられてしまったんですよね。本人がそれをすごくコンプレックスに思っていた。それで後々、ものの見事に薄い毛になっていく、というところまで言ってもいいと思うんですけど。自分のアイデンティティとか、そういった元ネタになっているような、特にいまいち自信を持てなかった、という意味で、“薄い毛、弄ろう”という感じであるんじゃないかな、と自分では思っております。

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茂木:(笑)。この『雌伏三十年』、そういう自己批評とか色々心に残るとこがあったんですけど、バンド結成のところもすごく心打たれました。マキタスポーツさんは本当に音楽に造詣が深くて、実際に今やられている“マキタ学級”は、ちょっとコミックバンドみたいな位置づけだとご自身でおっしゃっていますが。

マキタスポーツ:そうですね。面白いことをやるんですけれども、実は比較的マジな歌もご用意はしてあるんです。基本的にはコミックバンドですね。

茂木:マキタ学級でスマッシュヒットした『十年目のプロポーズ』も物凄くいい楽曲だと思うんですけど、お出しになる時に、あえて「これはJ-POPのヒットの法則をやったんだ」という言い方をされるじゃないですか。あれは、独特の距離感を置いてるんですか?

マキタスポーツ:本当に鋭い指摘だと思います。僕なりの物事の接し方というのが、ちょっとトリッキーと言うか、可笑しいんだと思うんですが、対象であるアーティストとかそういうものを真っすぐ信仰して「大好きだ」という感じには、どうしてもなれなくて。過去好きだったものとかを並べて、大体似ているような法則とかを見つけて、「大体こんな感じで出来ているから素晴らしいんだ」というように、いちいち理屈を申し上げるんです。「それに倣って作ったら、それっぽい曲ができるでしょ?」という、そういう屈折した愛し方と言うか提示の仕方をしてしまうんですよ。

茂木:そういうネタバレを、普通のアーティストはきっと隠すんですよね。

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マキタスポーツ:隠すし、たぶんそう言うところに興味がないんですよね。だから僕は、コード進行など「こういうパターンが多いよね」ということに気づくんですけど、純粋なるミュージシャンとその話をしても、余りピンと来ないんですよ。つまり、自分が届けたいことを使うためのちょっとした道具とか、そういったものだとしか思っていない。例えば、油絵を描く人が「使用する画材はこれでいきましょう」というのがコード進行とかそういったものぐらいに思っているのが彼らで、僕はそういうものがちょっと気になってしまうんですよね。

茂木:僕は今お話を伺っていて思ったんですが、この『雌伏三十年』は、マキタスポーツさんがアーティストとして没入して書いてしまっているじゃないですか。

マキタスポーツ:あ、凄いです。そうですね。これは完全にそうだったと思います。テクニックとかそういうところは全然気にしていませんでした。

茂木:「こう書くと芥川賞いけるよ」とか「こう書くと直木賞いけるよ」という感じではないですもんね。ハックしている感じではないですよね。

マキタスポーツ:そうですね(笑)。そんなハックなんか全然してませんね。だからこれは一作限りだし、人生のうちに一本しか書けないものを書いた、という感じです。書いてる間もすごく苦痛でしたし、大変でしたし、テクニックなんてそんなところに行く程、心にゆとりがあって書いていたわけではないですね。

茂木:どこかで、「これは片道燃料だ」とおっしゃっていましたね。「もう一回しか書けない」と。

マキタスポーツ:そうですね。本当に一回しか書けないです。もう二度とこんな精神状態までは行きたくないですね(笑)。
でもね、僕、何か書きたいものとかはあるんですよ。できたら書いていきたいなとは思っています。

茂木:それだけでも、本当に思いの丈を込められた『雌伏三十年』を、是非皆さんもお読みいただきたいです。

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