Dream Heart(ドリームハート)

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REPORT 最新のオンエアレポート

Dream HEART vol.545 料理人・飲食店プロデューサーの稲田俊輔さん 著書「食いしん坊のお悩み相談」

2023年09月09日

稲田俊輔さんは、鹿児島県のお生まれです。

京都大学をご卒業後、飲料メーカー勤務を経て、
円相フードサービスの設立に参加し、居酒屋、和食店、洋食店、フレンチなど
様々なジャンルの業態開発やメニューの監修、店舗プロデュースを手掛けてこられました。

そして2011年、東京駅八重洲地下街に、南インド料理店「エリックサウス」を開店。
南インド料理とミールスブームの火付け役となります。

また、食べ物にまつわるエッセイや小説を執筆する文筆家としての顔も持ち、
イナダシュンスケの名で発信するX(Twitter)も人気で、
様々な切り口で、「食の世界」を発信していらっしゃいます。


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──フードサイコパスとは

茂木:今回、『食いしん坊のお悩み相談』という本を出されたということで。これを読んでいると、本当に食べるのがお好きなんですね。

稲田:そうなんでしょうね(笑)。どっちかと言うと、僕はそれが普通みたいな感じなので、特別好きなのかどうか良く分からないんですけれども。

茂木:この本の中にも出てくるんですけど、“フードサイコパス”。すごい言葉ですね。これはどういう意味のある言葉なんですか?

稲田:大体、誰もが食べることは好きじゃないですか。嫌いな人はそんなにいないですよね。でも、そんな中で、「食べることが特別好き過ぎて、おかしなことになっている人々」がいるんですよ。それはまさしく自分がそうであるし、自分がそうであると、何となく周りにも…リアルでもネットでも、周りにそういう人達が集まってくるんですね。
そういう人達同士で話をしていると、多分一般の人達にとっては思ってもみないような非常識なことが、好き過ぎる人達の間ではもう常識として、会話が進んでいくわけです。逆に、その異常に好きな我々は、普通の人達の感覚が理解できないんです。
例えば、エスニック料理、外国の料理について話を受けるとするじゃないですか。タイ料理だったら、我々は、「当然、もう現地そのままで全く日本人の味覚に寄せずに作って欲しいよね」というのが、当たり前の前提としてスタートしてるんですけれども、でも、世間はそうじゃないじゃないですか。「食べやすくしてほしい」、「日本人に合わせて欲しい」という。
だから、完全に気持ちが分からないから、その状態を我々は“フードサイコパス”と呼んで、フードサイコパスはフードサイコパスとしての自覚を持って、世間にご迷惑をおかけしないように生きていかねばならない、という、そういうある種の戒めを持ってですね。

茂木:なるほど(笑)。
『食いしん坊のお悩み相談』なんですけども、本当に面白いですね。これは、インターネット上のサービス、『質問箱』と『相談箱』に掲載されたものを纏めた1冊だそうですね。

稲田:はい。

茂木:僕、色々とフードサイコパスの方がすごいなと思ったんですけど…。まず、稲田さん、変な話を伺いますけど、「カレーとは何ですか?」 「カレーの定義」を教えてください。

稲田:これも本当は本気でやると長くなるんですけど(笑)。簡単に言うと、「唐辛子を含む2種類以上の香辛料を用いて、加熱調理された食べ物のうち、おおよそ等量の米飯と一緒に喫食することによって、両方が更に美味しさを増す、そういう料理の総称である」。

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茂木:(笑)。…ということを結論付けるまでに、確か稲田さん、一万字書かれました?

稲田:この結論を導き出すための考察で、合計一万字を超えてると思います。

茂木:すごいですね。我々はカレーなんて「あ、カレーでしょ?」と思ってしまうんですけど、そこまで突き詰めて考える。

稲田:そうですね。発端は、例えば「麻婆豆腐はカレーか、否か?」という、そういう非常に身近な話から…。

茂木:え? 麻婆豆腐はカレーなんですか?

稲田:当然、麻婆豆腐はカレーなんですけれども。

茂木:あれはカレーなの(笑)!?

稲田:カレーです。まず、その前提がおかしいんですけど(笑)。

茂木:確かにさっき、「唐辛子を含む…」?

稲田:「唐辛子を含む2種類以上の香辛料で、ご飯と大体同じぐらいで食べると、両方が美味しくなる」。完全に当てはまってるんですよ。

茂木:麻婆豆腐はカレーなんだ(笑)!
あと、ちょっと意外なものでカレーというものはありますか?

稲田:はい、色々ありますよ。逆に、「カレーなのか、そうじゃないのかのきわきわ」みたいなもの結構ありまして。下手すると、「きつねうどんに七味を振ったものはカレーか?」という問題が出てくる。で、割と近いんですよ。あれも「唐辛子を含む2種類以上」なんですけど、そこまでカレーに入れてしまうと収拾がつかないので、さっき最初に早口で述べた定義は、そういうきわきわのものをカレーから外すための定義です。

茂木:でも麻婆豆腐はカレーに入る、と。

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稲田:麻婆豆腐カレーですね、どう考えても。

──純粋美味とマズ味

茂木:あと、この『食いしん坊のお悩み相談』で目からウロコだったのが、食事中にお酒を飲む意味が“マズ味(まずみ)”。これは少しすごいなと思ってしまったんですけど、ちょっとご説明いただけますか?

稲田:わかりました。
皆、普通に食べ物や飲み物を「美味しい」、もしくは「美味しくない/不味い」のように言いますけれども、美味しい食べ物の美味しさと言うのは、僕、2つに分解できると思っているんです。その2つは何かと言うと、1つが“純粋美味”。もう1つが“マズ味”。どんな食べ物も、この組み合わせによってできている、と。
例えば、カフェオレを例にとってみましょうか。カフェオレはとてもいい香りがします。牛乳が入ってまろやかです。お砂糖を入れることもありますよね。そうすると甘くなります。その辺は“純粋美味”なんですね。でも飲むと、ちょっとほろ苦さがあるじゃないですか。かと言って、ほろ苦さがなかったら、コーヒーの美味しさがすごく損なわれてしまいますよね。でも、その苦味だけを口に入れたら、これは絶対不味いわけですよ。なので、「コーヒーにおける苦味は“マズ味”である」と。それ以外に、「“純粋美味”がある」と。

茂木:おお!

稲田:で、それが合わさる。大体の食べ物はそうやってできている。その中でも、ハーブとかスパイスみたいなものは、実は“純粋美味”がほとんどないですよね。ほぼ“マズ味”の塊なんだけど、その“マズ味”の塊であるスパイスとかハーブが、別の食材…“純粋美味”をたっぷりと抱えている他のものと合わさることによって、そこで美味しさが生まれる、あるいは増幅するという構成になっています。

茂木:なるほど!

稲田:それで言うと、お酒というものは、お酒が他の飲料・ドリンクとちょっと違うのは、お酒はほぼほぼ確実に“マズ味”が重要な(飲み物)。

茂木:そうなんですね(笑)。

稲田:ビールは苦いじゃないですか。ウイスキーとかもちょっと変わった匂いがするし、日本酒とかも…。そもそも、お酒の“マズ味”の主役はアルコールそのものな気がしていて。だから、例えば、オレンジジュースとかはそんなに“マズ味”はないですよね。そのまま飲めちゃう。

茂木:オレンジジュースはないですね。

稲田:いちごミルクとかもすーっと行けるけれども、お酒はすーっといけないし。それは“マズ味”が適度に効いているから。
そして、お酒は必ず食事と共に楽しむ、みたいなことが多いじゃないですか。だからそれは、その“マズ味”が食事の方の美味しさを深めている部分もあるし、あともう1つは、食事が食事だけだとあっという間に食事の時間が終わってしまう、と。

茂木:確かに!

稲田:なので、食事の時間をなるべく引き延ばしたい、と。楽しい時間を引き延ばしたいと思った時に、食事の合間合間にこのお酒を挟んでいくと、時間軸が延長できて、いつまでもそれを楽しみ続けることができる、という部分で、お酒の“マズ味”というのは非常に重要な役割を担っていると考えています。

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イナダシュンスケ(@inadashunsuke)さん 公式アカウント / X(旧Twitter)


リトルモアブックス 公式サイト


●『食いしん坊のお悩み相談』/ 稲田俊輔(著)
(Amazon)


★稲田さんご出演のイベントがあります!★

『食いしん坊のお悩み相談』刊行記念
「食いしん坊のこだわり発表会〜イナダさん、この食べ方どうですか?!」

 出演:稲田俊輔さん
 聞き手:花田菜々子さん(蟹ブックス店主)

 日時:2023年9月15日(金)20:15 〜 21:45

 会場:蟹ブックス(東京・高円寺)

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