Dream Heart(ドリームハート)

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Dream HEART vol.637 歌人 俵万智さん 「これから先の年代で見える景色を言葉として、短歌にしていきたい」

2025年06月14日

今夜ゲストにお迎えしたのは、『サラダ記念日』で知られる、歌人の俵万智さんです。

俵さんは、1962年、大阪府のお生まれです。
早稲田大学第一文学部をご卒業されていらっしゃいます。

学生時代に、佐佐木幸綱さんの影響を受け、短歌を始められます。

そして、1987年に上梓された第1歌集『サラダ記念日』は、280万部のベストセラーとなり、翌年、現代歌人協会賞を受賞されました。

歌集、『チョコレート革命』『未来のサイズ』『アボカドの種』『愛する源氏物語』の他、評伝、エッセイなど、多くの著書がございます。

そして、2023年、「秋の褒賞」で「紫綬褒章」を受章されていらっしゃいます。


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──心が揺れた瞬間に立ち止まること

茂木:恐らく、リスナーの方がすごく興味があるのは、「どういうふうに歌を作っていらっしゃるのかな」というところだと思うんですけど、ご著書の『生きる言葉』の中でもありましたが、NHKの取材で「歌が生まれる瞬間を撮りたい」、と。なかなか取材陣も苦労されたと思うんですけど、改めて、どういう時に歌が生まれるんでしょう?

俵:「いつ」というのはちょっと分からないんですけれども、暮らしの中で「あっ」と、小さくでも大きくでも心が揺れた時、そこで立ち止まって、「今の『あ』は何だろう?」と考えるという感じですね。
でも逆に言うと、「歌を作ってる自分だから、そこで立ち止まれる」ということがあるように思います。

茂木:なるほど。じゃあ、それはいつ訪れるか分からないんですね。

俵:そうです。だから取材班も(歌が生まれるまで)ずーっといるという感じでしたね(笑)。

茂木:この『生きる言葉』の中では、「干し柿や」が…。

俵:はい。息子の通っていた中高一貫校で子供達が干し柿を作っていて、そこをちょっと見せてもらったりした時です。
取材班は干し柿の絵柄を一生懸命撮っていて、「干し柿の歌が生まれるんじゃないかな」、とか、「この空に歌が映えるといいな」というようなことを言っていたんですよ。私はその時は何も思わなくて、「干し柿の歌、ないわー。ご苦労様ー」という感じだったんですけれど、思いがけず、一晩経ったら、「ああ、あの干し柿…」と。
そこは山奥の学校で、甘いものとかもない、コンビニもないところなんですよ(笑)。だから子供たちが干し柿を作るというのは割と切実なことで、甘い物を製造するということは1つの大事な暮らしの中の作業でもあったんです。
翌日になって考えてみると、「お金を出して甘い物を買うということより、かえって豊かなことだな」、とも思ったりしたんですね。渋い柿があれば、自分達でそれを何とか工夫して甘くするという、その過程も楽しみながら頑張るというのは、「教育」という観点から見ても素晴らしいな、というようなことを次の日に考えて。
そうしたら、ポロポロポロっと干し柿の歌がたくさんできたんです。取材班、大正解、みたいな(笑)。

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茂木:僕、この『生きる言葉』を読んでいてすごく感動したのは、もちろん俵さんはすごい才能のある方で特別な方だと思うんですけど、やっぱり万葉集のいにしえから日本の短歌というのは誰でも書かれていましたよね。AIは「言葉から言葉」だけど、人間は「心から言葉」だと。だからまさにNHKの取材班は、俵さんの「心からの言葉が生まれる瞬間」というのを捉えたかったんでしょうかね。

俵:その時に見つかっちゃいました(笑)。

茂木:俵さんは石垣にも住まれて、それから宮崎に住まれて、仙台にも住まれていましたが、地方と言うか各土地に住むことの喜びとか、そこら辺はどうですか?

俵:やっぱりそれぞれの土地に文化があって、言葉があって、というのは、すごく豊かなことだと思いますね。
私は大阪で生まれて、中学生の時に福井に転校したんですけど、その時初めて自分が大阪弁を喋っていることに気づいたんですよ。福井で友達を作るには、福井弁を覚えなきゃと思ったりして、北陸の独特の語尾のイントネーションを学んだりして、そうすると皆も喜んでくれて。「ほんで~」とか「ほやさけ~」とか、伸びるんですよね。
そういう「言葉」ということをすごく自覚したのは、やっぱり引っ越して違うところに住んだ時が初めてでしたね。

茂木:やっぱり、その土地土地の言葉の響きも含め、その豊かさというものが、まさに『生きる言葉』に繋がっていくんですね。

俵:そうですね。その土地土地の『生きる言葉』というのは確かにあると思うし。
宮崎に初めて行った時に居酒屋に行ったら、「だれやめセット」というのがあって、それが分からなかったんです。

茂木:「だれやめセット」? 分からないです。

俵:「『だれやめ』って何?」と思ったら、隣のおっちゃんが教えてくれて、「『お疲れ様セット』みたいなものかな」と。『だれる(だらっとする。だらける)』の「だれ」に、「やめる」は『止める』ですよね。宮崎の人は「だれやめ」と言うと、打ち上げとかお疲れさん会みたいなときに「『だれやめ』いつやる?」などのように使っているんですよ。
それと同じような言葉が、その前に住んでいた石垣にもあって。それは「ぶがりのうし」と言うんですよ。

茂木:「ぶがりのうし」。

俵:はい。「ぶがる」というのは『疲れる』みたいな意味で、それを「なおす」、『元に戻す』。やっぱり打ち上げのことを「ぶがりのうし」と言っているんですね。
酒飲みは皆、常にそういうふうに「ぶがりのうし」とか「だれやめ」とか言って、宴会を企画してるんだなと思って面白かったし、違う言い方だけれども、似たような方言を見つけたりするのは楽しかったですね。

茂木:それは、昔万葉集が都にあって、だけど各地域の、九州の防人(さきもり)の方とか、色んな方が…。

俵:東歌(あずまうた)とかね。

茂木:はい。その頃からずっと続いている、この国の形なんですかね。

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俵:やっぱりその土地土地の方言でしか表せないニュアンスというのもありますよね。それはとっても豊かなことだと思うし、色んなところに住んでみると、そういうことを実感できますね。

茂木:全国でこの番組をお聴きの皆さん、是非、俵さんの『生きる言葉』を読んで頂いて、「ぶがりのうし」や「だれやめ」のような言葉を生かして、短歌を作ることにも挑戦して頂けたらなと思います。

──俵万智さんの『夢・挑戦』

茂木:俵さん、色々お話を伺ってきたんですけども、この番組のテーマは『夢と挑戦』なんです。 これからの俵さんの『夢・挑戦』は何でしょうか?

俵:言葉が本当に大好きなので、言葉に関わることだったら色んなことに挑戦してみたいなと思います。そして、その年代年代で見える景色が違うので、今60代になりましたけど、70代、生きていれば80代で見える景色を、言葉として、短歌にしていきたいなと思いますね。

茂木:本当に楽しみです。
そして俵さんの『サラダ記念日』もそうですけど、ずっと読み継がれていきますからね。それがまた新たな世代によって更新されていく、ということもあるんでしょうから、今回の『生きる言葉』もそうやって読み継がれていくんだと思います。本当に素晴らしい本をありがとうございます。
俵さんのお話を聞いてご興味を持った方は、是非、新潮社から発売中の俵さんの新刊『生きる言葉』をチェックしてみてください。俵さん、改めて、この『生きる言葉』をこれから読むという読者の方にメッセージを頂いてよろしいでしょうか?

俵:言葉と無縁に生きている人はいないと思うので。そして今、この「言葉」がちょっとインフレ状態になっている時代にこそ、立ち止まってゆっくり言葉を紡いだり、ゆっくり言葉について考える時間を少しでも持つ、といういうことがすごく大事だと思います。この本が、そういう時間のきっかけの1つになってくれたら嬉しいなと思っています。

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■プレゼントのお知らせ

番組でご紹介しました、俵万智さんのご著書『生きる言葉』に、俵さんの直筆サインを入れて、3名の方にプレゼントいたします。

ご希望の方は、お名前やご住所、電話番号など、必要事項を明記の上、メッセージフォームより、ご応募ください。

私、茂木に聞きたい事や相談したい事など、メッセージを添えていただけると嬉しいです。

尚、当選者の発表は、商品の発送をもってかえさせていただきます。
たくさんのご応募、お待ちしております。



俵万智 さん (@tawara_machi)公式X(旧Twitter)


新潮社 公式サイト


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