Dream Heart(ドリームハート)

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Dream HEART vol.642 マライ・メントラインさん 著書「日本語再定義」

2025年07月19日

今夜ゲストにお迎えしたのは、ドイツ出身で、文芸評論に翻訳、そして、コメンテーターにテレビプロデューサーと幅広くご活躍中の、マライ・メントラインさんです。

マライ・メントラインさんは、1983年、ドイツ北部の港町キールのお生まれです。

兵庫県立姫路飾西高校、早稲田大学の留学を経て、ドイツ・ボン大学をご卒業後、2008年から日本に移住されました。

ドイツ放送局のプロデューサーも務めながら、テレビのコメンテーターや、文芸評論に翻訳、webでの情報発信など、幅広くご活躍中でいらっしゃいます。


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──自分達でも日本語を考えるきっかけにして欲しい

茂木:マライさんは色々と日本のことを観察して教えてくださっているんですけれども、そもそも、日本や日本文化に興味を持ったきっかけは何だったんですか?

マライ・メントライン:子供の時に読んだ絵本がきっかけだったんじゃないかなと、今は思っています。
世界の子供達にすごく興味あってそういう本をたくさん読んでいく中で、小学生か6歳、7歳ぐらいの時だったんですけど、『世界の子供たち』という本の中に「日本の子供の日常」というのがあったんですね。そこで、「日本の子供は朝起きると、自分が寝た布団を畳んで押し入れに入れて、さあ、部屋が広くなりました。この部屋は違う使い方ができるんですよ。それで、夜また布団を出して敷くと、寝室になって、寝られるんです」という、80年代のそういう話がありました。それを見て「日本最高!」って思ったんです。
それは何でかと言うと、ドイツはベッド文化圏なんですよね。ベッドでしか寝ないので、「全然違うぞ」と。友達が泊まりに来る時だけ、ベッドからマットレスを下ろして床で並べて雑魚寝するんですね。要するに、それが楽しいんです。そうすると、「日本の子供達って、毎日お泊り会じゃないか」って思ったんですよ。 だから「そこに行きたい」と、多分6歳、7歳ぐらいの私は思ったんですよね(笑)。

茂木:それで、日本の高校に留学していたんですよね。その時点では、かなり日本語ができるようになっていたんですか?

マライ・メントライン:なっていなかったですね。日本に行く前に、市民講座で頑張って日本語を勉強したりもしていたんですけど、本当に「私はリンゴを買います。」みたいな、そういうような日本語しかできていなかったんです。留学して、一生懸命覚えるしかなかった、ということになりますね。
ポイントはそこにあって、当時、私は辞書を持っていなかったんです。トラベラーズ用のそういう小さい辞書しか持っていなくて、そこには自分が知りたい単語が全然載っていないんですよ。となると、皆が話している色んな日本語を一生懸命聞き取って、「あ、これは単語ですね」と、まずはそういうことから始まるんです。そして、「皆はこの単語をどういう文脈で使ってるのかな?」ということを観察して、「ドイツ語にするとこういう意味なのかな?」と想像しながら日本語を覚えたんです。
今の日本語の勉強の仕方というのは、多分すごいハイテクになってきていると思うんですけど、全然違うものなんです。だから、その時からもう勝手に日本語を定義していっていたんじゃないかな、と私は思っています。

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茂木:ある意味では、そんなマライさんの今までの人生の現時点での集大成、と言っていいんでしょうか? 小学館より、日本語を独自の視点で読み解いたご著書『日本語再定義』を発売されました。
僕、この『外タレ』の項を読んで本当に笑ってしまって(笑)。何て言うんでしょうか、皮肉と言うか、ユーモアと言うか。コミカルな見方がすごく面白いんです。
日本人一般のドイツのイメージは、「すごく真面目で、冗談とか言わない」というようなイメージなんですけど、でも実は、ドイツにはコメディーの文化もあるんですよね。

マライ・メントライン:あるんですけど、やっぱり堅いんですよ。スタンドアップコメディーとかちょっと知的なユーモアで、「1回ちょっと考えてから笑おう」というのが多いんですよね。

茂木:「ジョーク自体で笑う」と言うよりは、「今面白かったでしょ? 笑っていいよ」というタイミングで笑うんですか(笑)?

マライ・メントライン:許可が出たら笑います(笑)。

茂木:めっちゃ面白い話じゃないですか(笑)。この『日本語再定義』は『外タレ』から始まるんですが、皆さん、是非『外タレ』だけでも読む価値がありますよ。
この中でも書かれていますけど、「『日本のここがすごい』とかを言ってもらいたがっている」、という分析なんですけど。

マライ・メントライン:そうなんですよね。今朝もテレビを点けていたら、まさに東京に来ている外国人観光客に「これが良かった」、「あれが良かった」と聞いていたんですよ。そういう番組はドイツでは観たことがないんです。あってもいいかもしれないなと思いつつ、何故かないんですよ。「何でないんだろうな?」とか、やっぱりそういうことを考えちゃうんですよね。

茂木:日本の方は、未だに外国の方の目を気にされているのかな?

マライ・メントライン:やっぱり「日本っていいところよね」と言われると、気持ちいいじゃないですか。私も日本が大好きなので、それは皆「日本が好きです」と言ったら「良かったな」、となるんですけど、でもそれと同時に、「外国人って今増え過ぎてて嫌だよね」というようなニュースもあるわけで。「それが同時に存在するのは何なんだろうな?」と、ずっと思っているんですよね。
でもそれは、要するに自分達にちょっと自信がなくなってきているというような気もしていて。だから「日本すごいですね」と外から言われると、「あ、まだ大丈夫かな?」、で、その後に「外国人ってゴミの捨て方分かってないよね」と言われると、「そうなんだよね。私も日々ストレスなんだよね」みたいな、別の意味でのストレス解消になったりとかしていて。
そういう、ちょっと外国人の便利な使われ方について、この『外タレ』の章に書いています。

茂木:あと、僕がなかなかすごいなと思ったのが、『女子力』なんです。この使われ方がね。

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マライ・メントライン:『女子力』ね。面白いんですよ。ドイツ語にも『女子力』という単語があるんです。

茂木:え、そうなんだ! 何と言うんですか?

マライ・メントライン:『Frauenpower』。前半はドイツ語で(後半は)英語なんです。だから、『女性達のパワー』なんですけど、それが、全然意味が違うんですよね。

茂木:どういう意味なんですか?

マライ・メントライン:「女性でも何でもできるよね」という意味です。「女性だからと言って、別にそこに制限はないよね。もう皆で力を合わせましょう」の『Frauenpower』なんですよ。

茂木:なんだけど…?

マライ・メントライン:(日本語の)『女子力』は、どっちかと言うと「いいお嫁さんって何なんだろう?」と考えるきっかけになるようなワードなんじゃないかな、という気がするんですね。繊細さだったりとか、奥ゆかしさを目指して努力するとか、何か理想に向かう、というような単語だったりするんですよね。

茂木:本にお書きになったのは、「男性から見た女性はこうあって欲しい」というようなものが『女子力』として表現されているところがある、と。

マライ・メントライン:はい、あると思うんです。それは、女性達も内面化してそれを目指すとか、「結婚したければやっぱり『女子力』って磨いた方がいいのかな?」みたいな、漠然とした思いがそこにあると思うんですけど。

茂木:なるほどな。
元々日本は、明治以降、文明開化して、ずっと外国の方に、ある意味では鏡として日本のことを教えて頂いて来ているところがあると思うんですけど。今回のマライ・メントラインさんの『日本語再定義』は、まさにそういう本なんでしょうか。

マライ・メントライン:そんな上から目線では入っていませんが(笑)。そういうつもりではいないんですけどね(笑)。

茂木:いやでも、とても勉強になります。

マライ・メントライン:良かったです。

茂木:この小学館から出ている『日本語再定義』をこれから読みたいという方もいらっしゃると思うので、読者に向けてメッセージを頂いてよろしいでしょうか?

マライ・メントライン:私はこの本の中では、自分が気になっている日本語を勝手に自分らしく再定義してしまっているんですけど、この本を読んでみて「自分達でも日本語を再定義してみてもいいかも」と思って欲しいんですね。

茂木:そうか、狙いはそこですね。

マライ・メントライン:そうなんですよ。確かに日本語や言葉には定義があるんですけど、「その定義って本当に正しいのか?」、「実はちょっと違うんじゃないかな?」など、それを考えるきっかけになったらいいなと思っています。

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マライ・メントライン さん (@marei_de_pon) 公式 X(旧Twitter)


● 日本語再定義 / マライ・メントライン (著)
(Amazon)


小学館 公式サイト


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