2025年09月20日
今夜ゲストにお迎えしたのは、ドイツ在住のオペラ歌手、車田和寿さんです。
車田和寿さんは、福島県のお生まれです。
国立音楽大学をご卒業後、都立高校で音楽科の教師として、4年間教壇に立たれました。
その後、ドイツに渡り、ブレーメン芸術大学声楽科を最優秀の成績でご卒業。
在学中に、オペラ歌手としてデビューを果たした後、ハンブルク州立劇場やレーゲンスブルク歌劇場などで、ソリストとして活躍。
2015年には、オリバー・コルテ作曲の世界初演となる「コペルニクス」で、主役を務められました。
現在は、「オペラ声楽アカデミー」を主宰するとともに、YouTubeチャンネルで、クラシック音楽の魅力を広く発信していらっしゃいます。

──音楽で育まれる共感の想い
茂木:今回のご著書『涙がでるほど心が震える すばらしいクラシック音楽』ですが、私が読んでいて一番思ったのが、“感情”。「心の動きをもっと大事にしていいんだ」とお書きになっていますよね。これはどんな想いからですか?
車田:僕も今まで、色んな音楽についての本というのは読んできているんですけど、どうしても事実を中心に語られることが多くて。それはもちろん専門書だからそれでいいんですけど、音楽をやっている音楽家たちというのは、意外と言葉を介さないでコミュニケーションをすることがたくさんあるんです。でも文字にするとあんまり語られないことが多いな、とずっと感じていたので、そこを何とかして言葉に置き換えて本に入れてみたいな、と考えていました。
茂木:私もクラシックがすごく好きで聴くんですが、「こういうところに感動するんだよな」というポイントを、今回車田さんが書いてくださったように思いまして。
例えばベートーベン。耳が聞こえなくなった後の想いをここまで書いてくださったんだ、と思いました。ベートーベン、どうですか?
車田:僕はベートーベンが大好きですね。僕も大学時代に色んな講義を聞いて、そこで『ハイリゲンシュタットの遺書』という、彼が書いた遺書に触れたんですけど。
茂木:実はこの『ハイリゲンシュタットの遺書』というのが、今回の本の最後に引用されているんですよね。これはどういう文書なんですか?
車田:これは「遺書」となっていますけど、実際は家族に宛てた「遺言状」ですね。亡くなってしまった後に遺産はどうしましょう、ということが目的だったとは思うんですけど。そこに自分が言えなかった想いというのが書かれていて、初めて読んだ時は心を打たれました。

茂木:車田さん、音楽というものはもちろん耳で聴くものですが、作曲する側が、じゅうぶんに自分の音楽が聞こえない状態で曲を書いている、というのは、どうなんでしょうか?
車田:ベートーベンは頭の中で音を完全に鳴らせた、ということだと思うんですけど、そうじゃなかったら、聞こえないとやっぱり想像できないんですよね。
茂木:しかもオーケストラですもんね。各楽器があって。凄いですね…。
車田:30代はじめぐらいでそういうことにも直面して、その想いが一緒に含まれているんですけれども、本当に衝撃を受けました。
茂木:そして、マエストロのレパートリーにもあると思うんですけども、シューベルト。シューベルトはどうですか?
車田:僕はシューベルトも本当に大好きです。もちろん今までも、特に日本にいる時からたくさん勉強して歌ってはいました。もしかしたら、オーケストラとかのジャンルと比べると日本ではそこまでポピュラーではないかもしれないんですけど、本当に短い時間にたくさんのエッセンスが凝縮されている感じで、僕は本当にシューベルトが大好きです。
茂木:車田さんはドイツ在住でドイツ語がペラペラということで、やはりドイツ語を理解すると、よりシューベルトの歌曲の理解も深まりますか。
車田:もちろんそれはあると思うんですけど、ただ、僕が日本にいる時は、特にドイツ語を喋れなかったけれどもやっぱり好きで、歌曲をたくさん聴いていました。
茂木:日本にいた時から好きだったんですね。
車田:はい。シューベルトはもちろん言葉が分かった方が入りやすいのもあるんですけども、メロディがそれだけで美しいので、メロディの中に音楽で表現したい感情というものがもう表現されていますから、そこに耳を傾けるだけでもだいぶ色んな方が楽しめるんじゃないかな、とは思っています。
茂木:皆さんが知っていて一番有名な曲はおそらく『菩提樹』だと思うんですけど、お書きになった本を読んでいてなるほどなと思ったのが、これは恋に敗れた男が旅をしている曲なんだと。でも結局その男がどうなるのかよく分からない、とお書きになっていますよね。
車田:はい。どうなるのかはちゃんと書かれていないんですよ。だから、ここはもう本当に読み手に託されているんです。
人によっては、「主人公は冬の旅が終わった後で回復して、また新たな人生を歩むんじゃないか」と感じる人もいれば、「そういった冬の旅を経て、だんだん狂気の域に入ってしまうんじゃないか」という人もいたり。または「結局、ひっそりと亡くなってしまうんじゃないか」と想像してしまう人もいたり。だからその辺は完全に聴き手の自由なので、そこを聴いて自分が感じた通りに想像する、というのも楽しみの1つじゃないかな、と思います。
茂木:お話を伺っていて、そしてこの本を読むと、クラシック音楽というのはすごく“人間”なんだな、と言うか、作曲家の人間性がそこに現れているんだなと感じるんですが。
どうですか? 今回バッハやモーツァルトなど10人の偉大な作曲家たちを取り上げて、その意外な人柄やエピソードなど、私たちの知らない本当の姿を楽しく紹介して頂いているんですよね。この10人はやっぱりご自身が大事だと思う方々ですか。

車田:そうですね。僕にとって大事な10人でもあるし、あとはやっぱり入門書としての側面もあったので、例えば室内楽とか、オペラとか、できるだけ色んな種類のクラシックに触れられるような作曲家を最初に10人用意した方がいいかなと思って選びました。
茂木:このリスナーの中でも「クラシック音楽は長い、難しい」と感じている人もいらっしゃるかもしれないんですけど、この本を踏まえて、そういう方々にひとこと言えるとするならば、どうでしょう?
車田:やっぱり素晴らしいと言われる作品は長いものが多いので、その長さに慣れるまでに時間が掛かってしまうんですけど(笑)。忙しいとなかなか聴く機会もないし、そういった意味ではとっつきにくい部分あるかなと思うんですけど、短くて素晴らしい曲もたくさんあるので、そういったところからどんどん聴いて頂けるといいんじゃないかな、と思います。
茂木:今回の『涙がでるほど心が震える すばらしいクラシック音楽』というタイトルの、この「涙がでるほど心が震える」理由というのは、やっぱり人間のドラマがあるからですよね。
車田:共感したからですよね。聴いている人が純粋にその心の動きに触れた時に、そういったことが本当の意味で起こるんじゃないかな、というふうに考えています。
茂木:この本の中でも“共感”ということを大変強調されているわけですけど、現代社会はむしろ、ソーシャルメディアなんかもそうですけど、共感能力ということが常に問われている感じするんです。
どうですか? 音楽を聴くと、そういう感情の教育になると言うか、人に共感する想いというものも育まれるんでしょうか?
車田:そう思いますね。やっぱり聴けば聴くほど育まれる、という部分もあると思います。
茂木:どういうふうに聴くのがオススメですか? なんと今回の本は、素晴らしいことにプレイリストが公開されていて、それを実際に聴くこともできるようですが。
車田:はい。もちろん本を読みながら本に書かれている曲を1曲ずつじっくり聴いて頂く、というのも楽しみ方の1つだと思いますけど、やっぱり僕の一番の出発点は、あんまりそういう情報に捉われずに、まずは耳を傾けてその音楽をひたすら聴くということだったので、“自分から進んで聴いていく”というのが一番いいんじゃないかな、と思っています。
茂木:実は僕も、この本を読んでいて「あ、そうだ。あれをもう1回聴いてみよう」と思って聴いた曲が何個かあるんです(笑)。やっぱりこの本を通して色んな方が素晴らしい音楽に接する機会になったらいいですね。
車田:はい、本当にそう思っています。

●車田和寿 (@kazukurumada)さん 公式 X(旧Twitter)
●車田和寿さん 公式ブログ「音楽に寄せて」
●車田和寿さん 公式YouTube「音楽に寄せて」
●あさま社 公式サイト
●涙がでるほど心が震える すばらしいクラシック音楽 / 車田和寿 (著)
(Amazon)
↑番組の中でお話ししていた「公式プレイリスト」は、Amazonのページからもアクセス出来ます♪
車田和寿さんは、福島県のお生まれです。
国立音楽大学をご卒業後、都立高校で音楽科の教師として、4年間教壇に立たれました。
その後、ドイツに渡り、ブレーメン芸術大学声楽科を最優秀の成績でご卒業。
在学中に、オペラ歌手としてデビューを果たした後、ハンブルク州立劇場やレーゲンスブルク歌劇場などで、ソリストとして活躍。
2015年には、オリバー・コルテ作曲の世界初演となる「コペルニクス」で、主役を務められました。
現在は、「オペラ声楽アカデミー」を主宰するとともに、YouTubeチャンネルで、クラシック音楽の魅力を広く発信していらっしゃいます。

──音楽で育まれる共感の想い
茂木:今回のご著書『涙がでるほど心が震える すばらしいクラシック音楽』ですが、私が読んでいて一番思ったのが、“感情”。「心の動きをもっと大事にしていいんだ」とお書きになっていますよね。これはどんな想いからですか?
車田:僕も今まで、色んな音楽についての本というのは読んできているんですけど、どうしても事実を中心に語られることが多くて。それはもちろん専門書だからそれでいいんですけど、音楽をやっている音楽家たちというのは、意外と言葉を介さないでコミュニケーションをすることがたくさんあるんです。でも文字にするとあんまり語られないことが多いな、とずっと感じていたので、そこを何とかして言葉に置き換えて本に入れてみたいな、と考えていました。
茂木:私もクラシックがすごく好きで聴くんですが、「こういうところに感動するんだよな」というポイントを、今回車田さんが書いてくださったように思いまして。
例えばベートーベン。耳が聞こえなくなった後の想いをここまで書いてくださったんだ、と思いました。ベートーベン、どうですか?
車田:僕はベートーベンが大好きですね。僕も大学時代に色んな講義を聞いて、そこで『ハイリゲンシュタットの遺書』という、彼が書いた遺書に触れたんですけど。
茂木:実はこの『ハイリゲンシュタットの遺書』というのが、今回の本の最後に引用されているんですよね。これはどういう文書なんですか?
車田:これは「遺書」となっていますけど、実際は家族に宛てた「遺言状」ですね。亡くなってしまった後に遺産はどうしましょう、ということが目的だったとは思うんですけど。そこに自分が言えなかった想いというのが書かれていて、初めて読んだ時は心を打たれました。

茂木:車田さん、音楽というものはもちろん耳で聴くものですが、作曲する側が、じゅうぶんに自分の音楽が聞こえない状態で曲を書いている、というのは、どうなんでしょうか?
車田:ベートーベンは頭の中で音を完全に鳴らせた、ということだと思うんですけど、そうじゃなかったら、聞こえないとやっぱり想像できないんですよね。
茂木:しかもオーケストラですもんね。各楽器があって。凄いですね…。
車田:30代はじめぐらいでそういうことにも直面して、その想いが一緒に含まれているんですけれども、本当に衝撃を受けました。
茂木:そして、マエストロのレパートリーにもあると思うんですけども、シューベルト。シューベルトはどうですか?
車田:僕はシューベルトも本当に大好きです。もちろん今までも、特に日本にいる時からたくさん勉強して歌ってはいました。もしかしたら、オーケストラとかのジャンルと比べると日本ではそこまでポピュラーではないかもしれないんですけど、本当に短い時間にたくさんのエッセンスが凝縮されている感じで、僕は本当にシューベルトが大好きです。
茂木:車田さんはドイツ在住でドイツ語がペラペラということで、やはりドイツ語を理解すると、よりシューベルトの歌曲の理解も深まりますか。
車田:もちろんそれはあると思うんですけど、ただ、僕が日本にいる時は、特にドイツ語を喋れなかったけれどもやっぱり好きで、歌曲をたくさん聴いていました。
茂木:日本にいた時から好きだったんですね。
車田:はい。シューベルトはもちろん言葉が分かった方が入りやすいのもあるんですけども、メロディがそれだけで美しいので、メロディの中に音楽で表現したい感情というものがもう表現されていますから、そこに耳を傾けるだけでもだいぶ色んな方が楽しめるんじゃないかな、とは思っています。
茂木:皆さんが知っていて一番有名な曲はおそらく『菩提樹』だと思うんですけど、お書きになった本を読んでいてなるほどなと思ったのが、これは恋に敗れた男が旅をしている曲なんだと。でも結局その男がどうなるのかよく分からない、とお書きになっていますよね。
車田:はい。どうなるのかはちゃんと書かれていないんですよ。だから、ここはもう本当に読み手に託されているんです。
人によっては、「主人公は冬の旅が終わった後で回復して、また新たな人生を歩むんじゃないか」と感じる人もいれば、「そういった冬の旅を経て、だんだん狂気の域に入ってしまうんじゃないか」という人もいたり。または「結局、ひっそりと亡くなってしまうんじゃないか」と想像してしまう人もいたり。だからその辺は完全に聴き手の自由なので、そこを聴いて自分が感じた通りに想像する、というのも楽しみの1つじゃないかな、と思います。
茂木:お話を伺っていて、そしてこの本を読むと、クラシック音楽というのはすごく“人間”なんだな、と言うか、作曲家の人間性がそこに現れているんだなと感じるんですが。
どうですか? 今回バッハやモーツァルトなど10人の偉大な作曲家たちを取り上げて、その意外な人柄やエピソードなど、私たちの知らない本当の姿を楽しく紹介して頂いているんですよね。この10人はやっぱりご自身が大事だと思う方々ですか。

車田:そうですね。僕にとって大事な10人でもあるし、あとはやっぱり入門書としての側面もあったので、例えば室内楽とか、オペラとか、できるだけ色んな種類のクラシックに触れられるような作曲家を最初に10人用意した方がいいかなと思って選びました。
茂木:このリスナーの中でも「クラシック音楽は長い、難しい」と感じている人もいらっしゃるかもしれないんですけど、この本を踏まえて、そういう方々にひとこと言えるとするならば、どうでしょう?
車田:やっぱり素晴らしいと言われる作品は長いものが多いので、その長さに慣れるまでに時間が掛かってしまうんですけど(笑)。忙しいとなかなか聴く機会もないし、そういった意味ではとっつきにくい部分あるかなと思うんですけど、短くて素晴らしい曲もたくさんあるので、そういったところからどんどん聴いて頂けるといいんじゃないかな、と思います。
茂木:今回の『涙がでるほど心が震える すばらしいクラシック音楽』というタイトルの、この「涙がでるほど心が震える」理由というのは、やっぱり人間のドラマがあるからですよね。
車田:共感したからですよね。聴いている人が純粋にその心の動きに触れた時に、そういったことが本当の意味で起こるんじゃないかな、というふうに考えています。
茂木:この本の中でも“共感”ということを大変強調されているわけですけど、現代社会はむしろ、ソーシャルメディアなんかもそうですけど、共感能力ということが常に問われている感じするんです。
どうですか? 音楽を聴くと、そういう感情の教育になると言うか、人に共感する想いというものも育まれるんでしょうか?
車田:そう思いますね。やっぱり聴けば聴くほど育まれる、という部分もあると思います。
茂木:どういうふうに聴くのがオススメですか? なんと今回の本は、素晴らしいことにプレイリストが公開されていて、それを実際に聴くこともできるようですが。
車田:はい。もちろん本を読みながら本に書かれている曲を1曲ずつじっくり聴いて頂く、というのも楽しみ方の1つだと思いますけど、やっぱり僕の一番の出発点は、あんまりそういう情報に捉われずに、まずは耳を傾けてその音楽をひたすら聴くということだったので、“自分から進んで聴いていく”というのが一番いいんじゃないかな、と思っています。
茂木:実は僕も、この本を読んでいて「あ、そうだ。あれをもう1回聴いてみよう」と思って聴いた曲が何個かあるんです(笑)。やっぱりこの本を通して色んな方が素晴らしい音楽に接する機会になったらいいですね。
車田:はい、本当にそう思っています。

●車田和寿 (@kazukurumada)さん 公式 X(旧Twitter)
●車田和寿さん 公式ブログ「音楽に寄せて」
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●涙がでるほど心が震える すばらしいクラシック音楽 / 車田和寿 (著)
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