第88回 風見しんごさんが語る交通事故体験 前編

2016/12/01

少し過ぎてしまいました。
11月 第3日曜日は「世界道路交通犠牲者の日」。
今年は11月20日でした。

交通事故のニュースは音声で、文字で、映像で伝えられます。
でも、そこからは「悲惨さ」が抜け落ちています。
「交通事故」という言葉の裏に、どれだけの酷さ・悲しさ・辛さがあるのか。
誰もがわかっているようで、わかっていないのかもしれません。

今週と来週は9年前、交通事故で10歳の長女えみるさんを亡くした
俳優・タレントの風見しんごさんに体験談。
風見さんは事故以来、交通安全啓蒙活動も行っています。

その交通事故が起きたのは、いつもと変わらない平日の朝。
えみるさんはいつものように元気に「行ってきまーす!」と家を出ました。
自宅から100mほど進み、右に曲がって姿が見えなくなるのですが、
えみるさんは、その日もいつものように100m進んだところで振り返り、
家族に手を振って姿を消しました。
それが風見さんの家族が生きているえみるさんを見た最後になってしまったのです。

右折してから50mほどのところにある横断歩道を青信号で渡っている時、
えみるさんは右折してきたトラックに巻き込まれて命を落としました。

風見さんは自宅に駆け込んできた近所の人から事故を知らされます。
その人は何を聞いても「えみるちゃん、事故」と繰り返すだけだったといいます。
風見さんはどこか擦りむいて血を出しているか、
ひどければ骨折でもして泣いているかもしれないなと思ったといいます。

しかし、サンダルを引っ掛けて現場に行くと、
泣いているはずのえみるさんの姿はありません。
横断歩道に不自然に停められた1台のトラック。
何故、そうしようと思ったか分からないそうですが、
風見さんがトラックの下を覗き込もうとすると
近所の人に「見ないほうがいい!」と声を上げました。
それでも、風見さんがトラックの下を見ると、後輪の間にえみるさんはいました。

風見さんはトラックを持ち上げてえみるさんを助けようとしました。
でも、どんなに力を入れてもトラックはびくとも動きません。
その瞬間、風見さんは現実のあまりの酷さと自分の非力さに道路にへたりこんでしまいました。
そこから目に入ったのは、エンジンがかかったままのトラックの下から
えみるさんを救い出そうとしている奥さんの姿でした。

それまでの風見さんは、死亡交通事故のニュースにふれれば、
「悲惨だな」「辛いだろうな」と思っていました。
ただ、えみるさんの死まで、まさか自分や自分の家族の身に、
そんなことがふりかかるとは想像もしていなかったといいます。

交通事故は突然、起こる。
気を許せば誰かが加害者になり、誰かが被害者になる。
そのことを肝に命じて、毎日の生活を送らなければいけません。