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ON AIR BLOG / 2016.04.13 update



今日は昨日まで来日していた元ウルグアイの世界一貧しい大統領、 ムヒカさんが日本に残していった言葉を、毎日新聞夕刊編集部、堀山明子さんに解説していただきました。

南米ウルグアイのムヒカさん(80)が、昨日まで゙東京や広島を訪問していました。 ムヒカさんは2010年から大統領を務め、昨年引退したので、 正確に言えば前大統領ですが「世界で一番貧しい大統領」という称号が名誉あるタイトルであるかのようにそのまま使われています。 彼のスピーチが2年前に日本で゙絵本になり、約20万部も売れるベストセラーになりました。 今回は、彼の新しい本の出版を記念して、出版社が招待したものです。

Q消費社会を批判したスピーチだと言われていますが、どこで演説したものですか?
A2012年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「地球サミット」でのスピーチです。これは持続可能な開発や環境問題をテーマにした国連の会議なのですが、ムヒカさんは「持続可能な発展と世界の貧困をなくすことをずっと議論してきましたが、本音は何なのでしょうか? 裕福な国々の発展と消費モデルを真似することでしょうか?」と消費社会を発展モデルとしている国際的な枠組みに根源的に疑問を投げかけたのです。

Q持続可能な発展、という言葉、確かに矛盾をはらんでいますよね。先進国が途上国の分の資源やエネルギーまで使っておいて、その枠組みをまだ持続するんかい、ということでしょうか。
Aそうなんです。国連の会議でそういうことをズバっと言う大統領がこれまでいなかったのですが、ムヒカさんは遠慮せずに根本的な質問をしたんですね。次のようなスピーチ発言も話題になっています。「貧乏なひととは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」「私たちは発展するために生まれてきているわけではありません。幸せになるためにこの地球にやってきたのです。人生は短いし、すぐ目の前を過ぎてしまいます。命よりも高価なものは存在しません」

Q言葉に重みがありますね。ムヒカさんはどんな経歴の持ち主なんですか。
Aウルグアイが軍事政権だった1960年代にゲリラ活動に加わり、4回投獄された後、民主化後の90年代に国会議員になりました。2010年に大統領当選後も公邸に住まずに自宅で農業を続け、収入の9割を社会活動に寄付して質素に暮らしています。リオのスピーチ後は世界的に有名になって各国の要人と会談するようになるのですが、ドレスコードを合わせるのが外交儀礼なのに、ベルギー国王にネクタイをプレゼントされてもつけず、促されても断固拒否して、国王の側が折れてネクタイを外したというエピソードが有名です。今回の訪日後の記者会見でもネクタイについて聞かれ、こう答えています。「私が目指したのは『ネクタイを使いたい人は使えばいい、使いたくない人は使わなくてもいい』という世界。ネクタイより大切なものがある。ネクタイとは、そのことを象徴している」

Qカッコイイですね。ネクタイなんていらないんだから、オレの自由も保障しろって感じですか。日本社会に向けては、どんなメッセージをしたのですか。
A東京外語大での講演では、こんなことを言いました。「日本では若者が希望を持てないと聞いた。若い世代の投票率が30%程度だと聞いた。政治や社会を信じていないのだろう。それでも、信じられるようにしてほしい。不満を持つのはいいことだ。どうか同じ気持ちの人と何かを始めてほしい。生きるには希望が必要。そうでなければ人生なんて意味がないから」

不満を一人で終わらせずに、人と共有することから、希望が生まれると言っているのですね。日本でムヒカさんの本がベストセラーになっているのは、時代の価値観が変わりつつあることを示しているように思います。

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