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ON AIR BLOG / 2018.02.07 update

今週のテーマはハリウッドで新たな反セクハラ・キャンペーンが広がっているという話題です。毎日新聞外信部、堀山明子さんに、解説していただきした。

Q:ツイッターを通じてセクハラを告発する「MeToo」運動が広がっているという話はこの番組で11月に、いち早く紹介してもらいましたが、今度はなんですか。
A:「Time's UP」(もう、おしまい)キャンペーンです。今年1月、メリル・ストリープさんら女優300人が呼びかけて始まった運動で、セクハラ被害者の訴訟の支援や、セクハラ禁止規定のない企業を処罰する法律の制定を目指しています。MeToo運動を通じて、プロデューサーや監督など権限の強い男たちが立場を利用して女優にセクハラをした実態が次々告発されましたが、その告発運動を受けて、今度は被害者救済と社会の構造変革に乗り出したものです。

Q:MeToo運動は「ひとりじゃないよ」と被害者を精神的に励ます意味もありましたが、今度は被害者を出さないための連帯運動って感じですね。
A:アメリカは訴訟社会なので、被害は損害賠償という形で金を要求することを通じて事実認定も争われますが、弁護士費用を払えない低所得の人たちは提訴するお金もない。提訴しても、被害を公表しないことを条件に和解金が支払われて示談になることが多く、被害が表に出ないからいつまでもセクハラが続くという悪循環がありました。それを断ち切るのがタイムズアップです。

Q:その運動で何か変わりましたか?セクハラ禁止法は通ったのですか?
A:法律はまだ成立していませんが、そのための資金集めは進んでいます。また、キャンペーンが映画賞授賞式を通じて行われているので、映画賞の風景が変わってきています。1月にはゴールデン・グローブ賞という大きな映画賞で、ほとんどの女優が黒い衣装を着て連帯の意思を示しました。コメディー部門で主演男優賞をとったジェームズ・フランコは、「タイムズアップ」と書かれたバッジを胸につけて受賞スピーチをしたのですが、その直後からセクハラ被害を告発する「MeToo」ツイッターが相次いで、問題になったりしました。フランコは結局、その後、アカデミー賞候補にもなれず、賞レースから脱落してしまいました。

Q:せっかく男性も連帯してくれたのに残念ですね。でも、形だけの連帯とか、自分の過去を隠すためのポーズでタイムズアップを叫ぶのは許されないということですね。
A:そのとおりです。他にも、3月初めに決まるアカデミー賞では、前年の主演賞受賞者がトロフィーを授与するプレゼンテーターの役をするのですが、過去に性的暴行事件を示談にしたことが明らかになった男優で、監督としても活躍するケイシー・アフレックが、プレゼンテーターを辞退すると発表しました。前年の主演男優賞受賞者が今年の主演女優賞のトロフィーを渡すことになっていて、セクハラ疑惑の男に授与されても女優はうれしくない、という声が上がっていました。アカデミー賞は映画界でもっとも権威のある賞ですが、もともと審査員が白人男性中心だと、人種差別や性差別が問題にされてきたので、授賞式も批判の対象にされやすい。ブーイングが起きないよう、かなり神経を使っているようです。

Q:セクハラしたら授賞式に出れないというのは徹底していますね。でも映画賞のシーズンは、年明けからアカデミー賞が発表される3月ぐらいまでです。一時的なパフォーマンスに終わる可能性はありませんか。
A:確かに運動がスポットライトを浴びる期間は限られているので、反セクハラ企業処罰法をつくる、被害者救援制度をつくるという、具体的な法整備につなげることが重要です。あと、ハリウッド女優たちは運動を推進する広告塔にはなりますが、この支援制度がハリウッドを越えてどこまで多くの職業の女性たちに広がるか、身近な職場改革につながるかですね。タイムズアップを呼びかけた女優たちは、華やかなハリウッドだけででなく、性的被害を告発しにくい農業や生産業に従事する女性労働者へ支援を広げたいと強調されています。また、セクハラだけでなく男女の賃金格差是正運動につなげようという声も出ているので、第2、第3のキャンペーンもありそうです。

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