2016年5月29日
津島佑子
『光の領分』
 (講談社文芸文庫)

夫との別居にはじまり、離婚に至るまでの過程を追った連作短編集「光の領分」。ひとつひとつの物語に、切なく響くエピソードが綴られています。「水漏れ」の騒ぎからはじまる「水辺」という短編。親子が飼っている金魚が死んでしまう「呪文」という物語。日常のアクシデントが、これから起こるであろう出来事を暗示しています。先の見えない未来を手探りで少しずつ進む主人公の女性と幼い娘。二人を導いていくのは、時に光であったり音であったり、夢の中で見たシーンだったり。「光の領分」は五感に響いてくる短編集です。この繊細さは津島佑子さんの作品に共通して流れる魅力。今後も残された作品を味わってみたいと思います。

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