ドローンとAIで梨の受粉を自動で行うシステム
オンエアレポート
2025.07.03
今回は、こちらに注目します。「ドローンとAIで梨の受粉を自動で行うシステム」

今回のイノベーターは、日本工業大学の平栗健史教授です。

平栗さんには2023年に「ドローンがトマトの受粉を行うシステム」についてお話を伺いました。
【ドローンがトマトの受粉を行うシステム(2023.09.14)】
そして、今回、伺うのは「ドローンとAIを使って、梨の受粉を自動で行うシステム」です。
こちらは、どのようなシステムなのでしょう?
「私たちの梨の受粉システムは、2023年に開発したトマト用受粉ドローンを発展させたものです」
「まず、『花を探すドローン』が飛び回り、AIカメラで咲いている花を見つけます。
位置が分かると、次に『受粉ドローン』がその花に向かい、ピンポイントで花粉を吹きかけます。
ここまでをすべて自動で作業を行います」

「トマト」と「梨」では、受粉の方法に違いはあるのでしょうか?
「トマトと梨では環境が違うため、少し工夫が必要です」
「トマトはビニールハウスで育つので衛星の信号が届きづらく、モーションキャプチャという赤外線カメラによって
ドローンの位置を把握します。
一方、梨は屋外で栽培されるので衛星の信号が使えますが、樹木間が狭いので高精度の飛行が必要になります。
そこで、衛星測位の誤差を数十センチに抑える『RTK』と呼ばれる補正技術を使い、接触しないように飛行します」
「受粉の仕方も異なります」
「トマトは自分の花粉で受粉できますが、梨は、他の木の花粉が必要です。
そのため、梨用ドローンには花粉タンクと噴霧器を搭載し、静電気を発生させて必要な花だけに花粉を付着させます。
花の探索から受粉までドローンが自律で行うことで、作業負担を大幅に減らせると期待しています」
AIは、どのような役割を果たしているのでしょう?
「AIを使ったカメラには、主に2つの役割があります」
「1つ目は、“今、受粉に適した花”を見つけることです。
機械学習で花の形や咲き具合をとらえ、受粉のタイミングが合った花を見分けます」
「2つ目は、“ドローンと花との位置関係を三次元的に把握すること”です。
花粉はある程度 決まった距離から吹きかける必要があるため、深度カメラ画像を解析して、
ドローンと花の距離や高さを正確に測り、最適な位置でドローンが花粉を噴霧できるようにします」
「特に梨の栽培は、枝がV字型に斜めに伸びる独特な“JV樹形”を使っているため、
花の位置もまっすぐではなく斜めについています。
AIカメラはこうした複雑な構造の中でも、花の位置を三次元的に捉えて、ドローンの飛行制御に活かしています」

どのような思いがあって、このシステムを開発したのでしょう?
「きっかけは、梨の花粉が、年々、不足してきているという深刻な問題です」
「このままでは、安定した梨の生産が難しくなる可能性があるため、
限られた花粉で効率よく受粉できる方法が求められていました」
「さらに、受粉作業は春のほんの短い期間に集中して行われます。
農業の担い手が減ってきている今、手作業で対応するのがどんどん難しくなっています。
そこで、AIやロボット技術を活用して、作業をできるだけ省力化するために、このシステムを開発しました」
こちらのシステム、実用化には課題も残っているということです。
「現在は、まだ試作開発の段階で、実際の運用までには、いくつか技術的な課題も残っています」
「梨の栽培方法は農家さんによって、さまざまです。また、品種によっても枝ぶりや花のつき方が異なります。
ですので、いろいろな栽培スタイルに柔軟に対応できるシステムにしていくことが重要だと考えています。
そのためにも、
実際に現場で使う農家さんの声をしっかり聞きながら、改良や課題解決を重ねていきたいと思っています」

こうした課題を踏まえ、
「数年以内の実用化を目標に開発を進めているところです」と、平栗教授は、お話しされていました。
このシステムの実用化によって、梨農家さんの負担が減ることを期待しています。