東京農業大学が開発した『鉄分を多く含むコメ』
オンエアレポート
2026.06.04

黒米型の高鉄米
今回は、こちらに注目します。
「東京農業大学が開発した『鉄分を多く含むコメ』」

今回のイノベーターは、東京農業大学の助教、齋藤彰宏さんです。

齋藤さんは、どのような研究をされているんですか?
「植物がどのように効率よく栄養を吸収し、それを利用して成長しているのかを研究しています」
開発した「鉄分を多く含むコメ」について、詳しく教えてください。
「突然変異を起こしたイネを解析する中で、体全体に鉄分を多く蓄えるイネを発見しました」
「詳しく調べたところ、私たちが食べるお米の部分にも、通常の2~3倍の鉄分が含まれていました。
さらに、有害な元素が増えていないことも確認でき、安全性にも問題がありませんでした」
「そこで、このイネを従来の栽培品種と交配し、鉄分が多い個体を選びながら、収量や栽培のしやすさ、
さらに亜鉛や銅などの栄養成分も豊富な系統を育成してきました」
「その結果、鉄分が2~3倍に増え、さらに抗酸化成分も豊富なお米の開発に成功しました。
遺伝子組換えではなく、従来の品種改良の方法で育成している点も特徴です」
開発には、どのような思いがあったのでしょうか?
「人類の食べ物は、すべて植物に支えられています。特にお米は、日本人にとって非常に身近で大切な作物です」
「これまでの品種改良では、『おいしさ』や『育てやすさ』、『収穫しやすさ』が重視されてきました。
一方で、植物が本来持っている栄養価を高める研究は、まだ十分ではありませんでした」
「私はもともと、植物がどのように栄養を吸収し利用するのかを研究してきました。
その基礎研究を、実際の栄養改善や社会の役に立つ形につなげたい、という思いがありました。
今回の高鉄イネも、基礎研究だけで終わらせず、実際に人の健康に役立つ作物にしたいという思いで、
開発を進めてきました」

(左)黒米型(中)白米型(右)糯米型
「鉄分を多く蓄えるイネ」を発見するまでには、何年かかったのでしょうか?
「鉄分が多い突然変異体そのものは、研究を始めて1年ほどで見つかりました」
「ただ、その原因遺伝子を特定したり、実際に栽培に向いた品種へ改良したりするには非常に長い時間がかかりました。
結果として、実用化に近い形になるまでには、10年以上かかっています」
鉄分が多い突然変異体を見つけたとき、それが実用化に近い形になったときは、どんなお気持ちでしたか?
「最初に見つけたときは、正直に言うと、半信半疑でした。
本当に偶然ではなく、安定して鉄分が多いのかは、その時点では分からなかったからです」
「その後、何世代も栽培と分析を繰り返す中で、どの環境でも鉄分が高いこと、
その性質が子どもへ安定して受け継がれることが分かってきました。
さらに、その原因となる遺伝子が、鉄の吸収に重要な役割を持つ遺伝子であることも明らかになってきました」
「研究は失敗と隣り合わせですので、これは本当に使えると確信できたのは、研究開始から10年近く経ってからです」
「その時の気持ちを一言で表すなら、『安堵』だったと思います」
こちらのおコメ、炊いて食べてみましたか?
「もちろん食べています」
「もともとは玄米食向けとして開発を進めてきましたが、玄米としては非常に食べやすく、
コシヒカリなどの良食味米にも劣らないおいしさがあります。香ばしさは、むしろ強いくらいです」
「精米しても普通のお米として食べられますが、一部の系統では割れやすさなどの課題もありました」
「それらについても、改良を続けていて、現在は良食味の精米系統も複数開発しており、
それらの栽培試験をしているところです」

黒米型の高鉄米玄米
こちらのおコメ、いつ購入できるようになるのでしょう?
「一部の系統については、すでに企業へ提供を始めていますので、数年後には商品として入手できる可能性があります。
また、東京農大の学園祭や、付属小学校の給食などでは、すでに試験的に提供しています」
「現在、品種登録出願の準備も進めていますので、将来的には広く栽培・利用していただけるようになると思います」
こちらのおコメ、どのような方に食べてほしいですか?
「特に、鉄分が不足しやすい女性やお子さんには、日常的に食べていただきたいと思っています」
「最近は若い世代でも貧血が多いので、毎日の食事の中で自然に鉄分を補えるお米になればうれしいですね。
もちろん、味も普通のお米と大きく変わりませんので、
将来的には多くの方に普通のお米として食べていただきたいと思っています」
「今後は、日本だけではなく、世界のイネでも鉄分を増やす研究を進めたいと考えています。
鉄不足が問題になっている地域でも役立つ品種を開発していきたいです」

齋藤さん、近い将来、「鉄分を多く含むコメ」が店頭に並ぶのを楽しみに待っています。
そして、世界のイネで鉄分を増やす研究、これからも応援しています。