プラズマで窒素肥料を生産する研究
オンエアレポート
2026.07.23

発生させたプラズマ
今回、注目するのは、こちらです。
「プラズマで窒素肥料を生産する研究」

今回のイノベーターは、東北大学 大学院工学研究科の金子俊郎教授です。

「プラズマで窒素肥料を生産する研究」について、教えてください。
「植物が成長するためには、窒素という栄養が欠かせません。
現在、世界で使われている窒素肥料(化学肥料)の多くは、
窒素と水素から作られたアンモニア態窒素を利用しています。
このうちの水素は主に天然ガスから製造されるため、
その時に多くの二酸化炭素(CO2)が排出されることが課題となっています」
「私たちの研究では、プラズマを利用して、
空気中の窒素と酸素から硝酸態窒素の窒素肥料を作る技術を開発しています」
「この方法では、原料として空気を利用し、エネルギー源として電気を使います。
太陽光発電などの再生可能エネルギーと組み合わせることで、環境負荷の少ない新しい肥料生産が可能になります。
必要な場所で必要な量だけ肥料を作ることができるため、
将来の持続可能な農業につながる技術として期待されています」
プラズマは、どうやって発生させるのでしょうか?
「プラズマは、気体に強いエネルギーを加えることで発生します。身近な例でいうと、雷もプラズマの一種です」
「空気に非常に高い電圧がかかると、空気中の窒素や酸素などの分子が強い電気の力で、
プラスやマイナスの電荷をもった特別な状態になります。この状態がプラズマです」
「私たちの研究でも、空気に高電圧を加えてプラズマを発生させていますが、雷のように危険なものではなく、
装置の中で安全に制御しながら発生させています」

プラズマを発生させる装置
どのような思いがあって、この研究を始めたのでしょう?
「私が最初に取り組んだのは、プラズマの殺菌作用を利用して、
できるだけ化学農薬を使わずに農作物を育てる研究でした。
プラズマには、細菌やカビなどの病原菌を減らす働きがあるため、
環境への負荷を減らしながら安全な農業に役立てられるのではないかと考えたのが研究の始まりです」
「研究を進める中で、プラズマには病原菌を抑えるだけでなく、
空気から植物に必要な窒素肥料を作ることができるという大きな可能性があることも分かってきました」
「そこで現在は、プラズマによって化学農薬だけでなく化学肥料も減らし、
環境にやさしい持続可能な農業の実現を目指して研究を進めています」
「また、日本では化学肥料の多くを海外から輸入しており、
国際情勢によって価格が大きく変動するという社会課題もあります。
プラズマを使って国内で肥料を生産できるようになれば、
こうした課題の解決にも貢献できるのではないかと考えています」
「さらに、将来、人類が月や火星で生活するようになると、現地で農作物を育てる必要が出てきますが、
農薬や肥料を地球から運び続けることは現実的ではありません」
「そこで、プラズマを利用して現地で肥料を作り、安全に農作物を育てる技術を実現したいという思いで、
現在は月面農業の研究にも取り組んでいます」
この研究が「月面農業」に利用できるのでしょうか?
「大きな可能性があると考えています」
「月面で農作物を育てるためには、地球での農業と同じように植物へ肥料を与える必要があります。
しかし、現在の技術では、
地球から月へ荷物を運ぶには1キロ当たり約1億円もの費用がかかると言われています。
そのため、化学肥料を地球から運び続けることは現実的ではありません」
「将来、多くの人が生活する月面基地が建設されれば、
基地内には人が呼吸するための空気が整備されると考えられます。
私たちは、その空気の一部を利用してプラズマで窒素肥料を作ることを目指しています」
「月で利用できる太陽光発電と組み合わせることで、現地で肥料を生産し、
農作物を育てることができれば、月面農業の実現に大きく近づくと考えています」
こちらの研究、今は、どのような状況なのでしょう?
「現在は、月の土を再現した『月レゴリス模擬土壌』を使って植物を育てる研究を進めています」
「植物には、窒素・リン酸・カリウムという“3大栄養素”が必要です。
私たちは、まずプラズマによって五酸化二窒素という窒素酸化物を合成し、
それを水に溶かして作った硝酸態窒素肥料を植物に供給できることを実証しました」
「さらに、このプラズマを利用して作った溶液(プラズマ溶解液)によって、
月レゴリス模擬土壌から植物に必要なカリウムを溶かし出せる可能性も明らかにしました」
「その結果、月レゴリス模擬土壌で育てたイネの生育が大きく向上することを確認しました。
これは、プラズマを使うことによって、
月面で現地の資源を活用しながら農作物を育てられる可能性を示した重要な成果だと考えています」

月レゴリス模擬土壌で育てたイネ
現状、課題だと感じているのは、どのようなことですか?
「植物の3大栄養素である窒素・リン酸・カリウムのうち、
私たちはプラズマによって窒素肥料を供給できることを実証しました。
また、プラズマ溶解液によって、月レゴリス模擬土壌からカリウムを取り出せる可能性も確認しています」
「一方で、リン酸については、まだ、月レゴリス模擬土壌から十分に取り出す技術が確立されておらず、
今後、解決しなければならない重要な課題です。
また、月の重力は地球の約6分の1しかないため、植物が地球と同じように成長できるかはまだ分かっていません」
今後は、どのような研究を進めていきたいと考えていますか?
「今後は、月面基地でも利用できるような、
小型で消費電力が少ないプラズマ装置の開発を進めたいと考えています。
特に、少ない電力で効率よく五酸化二窒素などの窒素化合物を合成できる技術の確立が重要です」
「また、プラズマによる肥料生産だけでなく、植物の成長促進や病害の抑制、
さらには空気・水・養分を基地内で循環させる技術とも組み合わせ、
将来の月面基地で持続的に食料を生産できるシステムを実現したいと考えています」

「月面農業」を実現するための研究、これからも応援しています。