早朝に開花するイネの遺伝子
オンエアレポート
2026.08.06

イネの花
(提供:農研機構)
今回、注目するのは、こちらです。
「早朝に開花するイネの遺伝子」

今回のイノベーターは、農研機構 中日本農業研究センターの石丸努さんです。

(提供:農研機構)
「早朝に開花するイネの遺伝子」について、詳しく教えてください。
「私たちが今回発見した早朝に開花するイネの新規遺伝子は、
通常のイネとは特定のDNA配列がたった1つ変わるだけで、
通常のイネの花が開花する10時~12時から約2時間早く開花するようになります」
「早朝開花イネは朝7時頃から咲き始め、8~9時に開花のピークを迎え、午前10時には咲き終わります。
通常のイネが開花し始めるころには、早朝開花イネは咲き終わっていることになります」
「私たちの研究グループは、この遺伝子を『Early Morning Flowering 3(略してEMF3)』と名付けました。
早朝開花は英語で『Early Morning Flowering』、『3』は遺伝子が存在するイネの染色体番号です」
「私たちが発見したEMF3遺伝子の変異は、
様々なイネ品種の遺伝子情報が載っているデータベースで検索する限り、
世界のどのイネ品種にも見られず、
日本のイネだけではなく、世界の様々なイネの開花時刻を早めることができる可能性があります」

左:通常のイネ 右:早朝開花イネ
(提供:国際農研)
そもそも、「イネの花」は、どのような花なのでしょうか?
「イネの花は、イネの最も高い部分に位置する穂に存在します」
「品種にもよりますが、たとえば、皆さんご存じのコシヒカリでは、1つの穂におよそ80の花がつきます」
「また、イネの花は開いて閉じるまで約1時間の、とても儚い1日花です。
皆さんは1日花、というとアサガオをイメージなさるでしょうし、儚い花というと桜をイメージなさるでしょうが、
イネはアサガオと同じ1日花で、桜よりもずっと儚い花なんです」

イネの花
(提供:農研機構)
早朝にイネの花が開花すると、どのようなメリットがあるのでしょう?
「イネは比較的暑さに強い作物ですが、暑すぎると高温による障害が発生します」
「イネが暑さに最も弱いのは開花時で、
開花する10時~12時の時間帯に35℃以上の著しい高温に遭遇すると受粉不良により、実るコメの数が減ります」
「早朝に開花するイネの遺伝子を利用して、気温の低い午前中の早い時間帯に開花させることで、
気温の高い通常の時間帯に開花するイネよりも、実るコメの数が著しく向上することを発見しました」
この遺伝子に辿り着くまでには、どのぐらいの年数がかかったのでしょう?
「系統の育成から原因遺伝子の特定までに19年を要しました」
「早朝開花性をもつ野生イネと通常の開花時刻を示す栽培イネを交配し、
その子孫から早朝開花性を受け継いだ系統(早朝開花イネ)を育成しました」
「さらに、この早朝開花イネと通常イネとの交配により作られた約7000個のイネを解析し、
『早朝開花性を示すイネ』と『通常の開花時刻を示すイネ』を比較することで、
早朝開花性に関係する染色体上の場所を突き止め、最終的に原因遺伝子を特定しました」
この遺伝子を持つイネを育ててみて、いかがでしたか?
「この遺伝子を持つイネの形や収穫量は通常のイネとほとんど変わりません。
現在のところ、大きく変わるのは開花時刻だけです」
「早朝に開花するイネ」を新たな品種として、農家さんが栽培し始めるのは、何年後になりそうですか?
「これから10年後をめどに農家さんが栽培できるようにしたいと考えています」
「早朝開花イネは、これまでにない新規な形質を持つイネなので、
コメの品質や収穫量の変動など、日本各地への適応性の面で調べるべき点が多く、時間はかかります」
「一方で温暖化対策は待ったなしですので、高温障害の問題を抱える農家さんの要望に応じて、
できる限り早く品種にしていきたいです」

コメ農家さんが抱える問題を解決する可能性がある「早朝開花イネ」。
この研究をもとに新たな品種として登録され、農家さんが栽培を始める日がくることを期待しています。