水を節約しながら生き延びるコムギ
オンエアレポート
2026.08.20

手前の緑の植物が節水型コムギ「WS1」
今回、注目するのは、こちらです。
「水を節約しながら生き延びるコムギ」

今回のイノベーターは、神戸大学大学院 農学研究科の准教授、妻鹿良亮(めが・りょうすけ)さんです。

妻鹿さんによると、水を節約しながら生き延びるコムギは、
「“成長”よりも“生存”を重視している状態のコムギ」ということです。
「植物には“成長を重視する状態”と“生存を重視する状態”が存在するようだと、研究を進めてみてわかりました」
「節水型コムギには通常栽培に用いられているコムギと違って、
もっている遺伝子の一部に変化が生じていて、普段から生存を重視する状態に偏っています」
「そのため、水が少ない過酷な環境に植物を置いても、通常の栽培コムギよりも平気です」

水やりを20日間停止した状態の「WS1」
枯れているように見える

水やりを20日間停止した後、水やりを再開して14日経過した「WS1」
緑の葉が出てきている
このコムギの発見はドラマチックだった、ということです。
「当時、実験を担当していた学生が、実験を終えた捨てる予定の植物の鉢を外に放置していました。
そのうち水がなくなって多くの植物が枯れてしまっていたのですが、今回発見したWS1だけが緑を維持していたのです」
「これはとんでもなく乾燥に強いのでは?と思い、
学生にはその後、発芽して枯れるまでに消費する水の量を測ったり、
あえて過酷な乾燥環境にして経過観察をしてもらうなど、実験を繰り返した結果、
ことごとく、WS1が比較に使ったコムギよりも乾燥した環境に適応していることがわかりました」
このコムギ、どのように利用することを考えていますか?
「干ばつ耐性をもつ親(交配母本といいます)として利用することを考えています。
片親に栽培品種のコムギを選んであげれば、
WS1の能力を子孫に受け継がせて、新しい耐性品種を作ることができます」
このコムギは、わたしたち消費者にとっては、どんなメリットがあるのでしょう?
「今のところメリットはないです。
ただ、日本でも小麦の栽培は行われていますが、気候あるいは農地の関係上、
日本国内の需要を賄いきれないことから、約85%を海外から輸入しています」
「コムギは比較的乾燥した土地で栽培される作物で
近年の気候変動の影響から小麦生産国が干ばつ被害に遭うことが増えています」
「このような干ばつで減収した分は日本への輸入量や価格に跳ね返ってくるので、
WS1をもとに干ばつ下でも安定的に収穫できるコムギが開発されれば、
パン屋さん、うどん屋さん、ラーメン屋さん、お好み焼き屋さんなどが助かると思います」
このコムギを農家さんがつくり始めるのは、いつ頃になりそうですか?
「WS1は生存を重視するあまり、成長が遅い、種付きが悪いなどの栽培に適さないデメリットがいくつか存在しますので、
そのまま栽培されることはありません」
「ただ、WS1がもっている生存に偏らせる仕組みを栽培系統に交配育種によって導入する、
あるいは栽培系統を成長が悪くならない程度に、少しだけ生存重視の状態に偏らせるような栽培方法が確立できれば、
この仕組みを利用した農業も可能になると思います」
「研究の進み具合にもよりますが、5年かもしれないし、10年、20年とかかるかもしれません。
はっきりとはわかりませんが、わたしたちは2030年には、
少なくとも、そういった過酷な環境でも栽培可能なコムギの実用化に向けて研究開発を進めています」

気候変動の状況でも小麦の安定供給につながる可能性がある、このコムギ。
近い将来、実用化されることを期待しています。