日常を綴り、描く

常盤貴子(女優)×鈴木康広(アーティスト)

2019

10.25

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1991年に女優デビューし、数々の人気ドラマで主演を務めるほか、CMや舞台など多岐にわたる活動をされている常盤さん。一方、国内外の芸術祭や展覧会に参加し、現代アート界で注目を集める鈴木さん。日常の何気ない風景や身近な物からインスピレーションを受けた作品を発表しています。この度、発売された常盤さんのエッセイ集「まばたきのおもひで」は5年間の新聞連載をまとめたもので、鈴木さんは表紙や挿絵のイラストを担当されています。

エッセイとイラストの関係



常盤
私のエッセイの中で、イラストを担当してくださって5年半。

鈴木
そうですね、もう生活の一部に入ってきたって言う感じですね。毎月1回、常盤さんからお手紙が届くみたいな、時間の流れとか季節の変化を感じます。

常盤
鈴木さんといえば、今、美術界の宝といっても過言ではない。

鈴木
いえ、そんな、そんな・・・。
常盤
わたしなんかの連載のイラストをやっていただくような方ではないのは百も承知で、でも、お願いせずにはいられずに、自分が連載をやるんだったらダメ元で鈴木さんに聞いて欲しいと言って。

鈴木
即 OK しましたよね。
常盤
言ってみるもんだなって思いました。

鈴木
正直やったことがなくて、挿絵の奥深さってあると思うんですよ。文章と絶妙な距離感があって、自分も読書をしてる中で、全然関係ない絵がそこに付いているほうがいいみたいな体験をしてるから、どうしたらいいのかなって思いましたけど、僕が文章を読んで、常盤さんにお返事を書くようにやらせてもらってるんですけどね。
常盤
そのイラストに私はまた自分が書いたことはこういうことだったのかというひらめきをいただいて、もう一回書き直したいかもみたいな、終わらないループに入りそう。

鈴木
もしかしたら読者の方もそういう風なループに巻き込んで、いけたらいいなと思いました。

常盤
ね。いつも連載のときは私から文章のバトンを渡して、鈴木さんのイラストから今度読者の人にバトンが渡って、読者の方の頭の中で何かを完成してくれたらなと思って。

鈴木
読者の音のない声が聞こえてきそうな感じがしますね。
常盤
鈴木さんのイラストは、本当に夢があるじゃないですか、だから本当に楽しみで、いつもワクワクドキドキして、きゅんとしてるんですよ。
鈴木
そうですか。普通の絵だと思って描いてますけどね。
常盤
えーー!
鈴木
僕の絵は誰でもサインペンがあれば書けるような単なる線画なので。
常盤
いやいやいや、本当に鈴木さんご自身が表れていると言うか本当にこのシンプルな絵の中にいろんな情報が詰まっていて、たくさんの想像をこちらができる余韻を残してくださっているので。私、ミシュランの三ツ星の絵がすごい好きだった。私が体験したアルザスの星付きレストランは食事が美味しいのはもちろんだけど、それ以上にそこで働く人たちの心が素晴らしかった。その思いやりとか込みの三ツ星を鈴木さんはハートで表してくださって三星じゃなくて三つのハートで。
鈴木
そうですね。懐かしい。
常盤
すごい、きゅんときましたね。

鈴木
僕は自分で普段の作品制作をしているときは、こういう絵は描けないですよ。常盤さんのエピソードがあって、それで初めて描けるわけなので。僕は何度も読むんですよ、読解力のなさを本当に今では楽しんでるんですけど。最初に読んだ時に感じること、3回4回5回って読んでいくうちに常盤さんのキーワードみたいなものを拾って、自分の中でぐるぐる考えながら描いたものとかは、後から見てもよくこんな絵描いたなとか、自分で描いたようで自分では描けなかった絵が描けてしまう。そういうイラストの描き方は今までしたことなかったと思いますね。日をおいてまた読むと最初自分が感じていたのと全然違う風に思ったりして、そこがすごく面白いんですよね。


関西感性でネタをストック


常盤さんが日常の中で感じたことを、独自の目線で綴ったはじめてのエッセイ集
「まばたきのおもひで」。例えば、古着がいつからか、似合わなくなったとか、マジックが苦手とか、これまであまり知られることのなかった、女優:常盤貴子さんの素顔が垣間見られるような、日々のさまざまなエピソードが綴られています。

常盤
もともと取材とかで色んなエピソードを話したりはしていたんですけど、よくライターの方とか、常盤さんの面白さもっと伝えていったほうががいいですよって言われていたことはあるんです。でも別に女優に面白さはいらないし、みたいに答えてて、その必要は全く感じてなかったし、別にそんなにさして言うほど面白いとか考えたことないし、別にそんなにお伝えするほどのことはございませんぐらいに思ったんですけど、いざ書いてみたら意外と私ネタとして取っといてることがたくさんあったと思って。それはもしかしたら7年間だけなんですけど、父の転勤で関西で過ごしたんですね。その経験がネタとしてストックしておくみたいなところにいったんじゃないかなと思ってそれで今回色々連載を書く中でネタに詰まった時はそのストックから自分を引き出して書いてるところもあって、
鈴木
ディープな分類ですね。何歳から何歳ですか?
常盤
小学校4年生から高校1年生終わるまで。
鈴木
いろいろ刺激の多い時期ですね。
常盤
そうですね。そこでなんか生き抜くためにはやっぱりおもろいネタをいかに持ってるみたいのが勝負のカギなんですよ。だから自分の中で何個もネタを用意しておく習慣がついたんですよね。
鈴木
その習慣が実は温存されていたと。
常盤
たぶん。だからここにきて、まさかの役に立ってるっていう。
鈴木
1ヶ月に1回、それ披露しているんですもんね。
常盤
そうそう、だから、それは連載をやって気づいたことです。だから何か撮影現場とかでもトラブルが起きた時に、怖いとならずにおもしろい、またネタができるぞ、というワクワクするようになった。

鈴木
科学者みたいな視点かもしれないですね。ある状況に対して冷静な視点でサンプルとして
常盤
そうそう、まわりはどうしているんだろうとか、冷静に見てるし、この人こういうタイミングで来るんだってって思ったりとか。ちょっとオタク体質っぽい、変なところに妙に観察心が湧いてしまったりとか。


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常盤さんのエッセイ「まばたきのおもひで」は、講談社より発売中です。
【『まばたきのおもひで』(常盤 貴子)|講談社BOOK倶楽部】

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