食をめぐるお話

上野万梨子(料理研究家)×はな(モデル)

2021

02.05

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自分の身体の声を聞く



はな
本当に自分も根っからの食いしん坊だと思うので、旅行している時は、その土地のおいしいものを食べますが、やっぱりパリに住んでいるとマルシェがあったり、食に対する気持ちは日本に住んでいる時とはまた違いますか?

上野
日本でもフランスでも変わらないかもしれないけれども、自分が、その時食べたいと思うものを食べるのが私は一番だと思っているんです。

はな
私も思います。

上野
栄養学の先生には、ちょっとお話できないような食生活と言うか、私は自分が必要としているものを自分が欲していると信じているので、今日はレバーが食べたいと思った時は「レバーを食べなさい」という天の声かなと思い、それをしっかり食べる。その時、野菜がちょっと不足気味でも、それはまた違う時にカバーすればいいと思っているので。

はな
全く同じですね。だって焼肉を食べたいと思ったら野菜は頼まないですよね。

上野
自分の体が必要としているものは何なのかを自分で察知できる体を作ることは大事だと思う。それが分からないことも多分多いんじゃないかと。

はな
私も同じですね。やっぱりその日、食べたいものを決めるので、家の冷蔵庫はわりとすっからかんですね。自分の体に正直になるのがすごく大事なことだと思うので。

上野
健康ということよね。

はな
その声が聞こえてこなくなったら逆に危険信号かもしれないという事ですよね。上野さんのインスタをいつも拝見していて、美味しそうと思っています。

上野
はなさんもずいぶん作っていますよね。

はな
お菓子は、ずっと手作りしているんですけど、学校に通ったことがないんですよ。ただ家で小学校の頃から作り続けていて、さすがに日本料理は、1年間学びましたね。包丁の使い方とか出汁の取り方から、基礎を学びたいと思って。元々中華料理店の孫なので、コックさんが火力の強いところで中華料理を作っていたりして、家ではあれだけの火力はなかなか使えないけど、作っているのを見ていたし、家でもできるものもあるんだなと思っていろいろ作っていますね。

上野
日本の家庭の台所には各国の調味料や調理道具があって、日本は、非常に特異な国ですよね。本当に素晴らしいことだと思います。日本人が、日本語が通じないのに美味しいものを求めて世界の隅々まで旅するのは、非常に面白いことだと思いますね。

はな
根っからの食いしん坊。

上野
好奇心はありますよね。


料理の鍵は、引き算



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はな
私はよく家でお菓子を作るのですけど買いに行くより早いかなと思って、簡単なものを家で作っていて、この間はカシューナッツときび砂糖と薄力粉と無塩バターと塩少々だけで作った「スノーボールクッキー」を焼きましたね。なぜカシューナッツを選んだかと言いますと、ナッツの中でも栄養価が高くて、女性の肌とか髪の毛とか骨にもいい。素材を選ぶ楽しみもやっぱり家で作るお菓子には加わっていいなと思って。

上野
カシューナッツはビーガンでもよく使いますしね、ペーストにしてね。

はな
フードプロセッサーで細かく砕いて作りましたね。上野さんはスープがいつもすごく美味しそうですよね。

上野
そうなんです。フランスは、生産者によりけりだけど、野菜の旨味がちょっと違うじゃない。やはり何を一番買うかと言うとやっぱり野菜なので、私の場合はとにかくバター。オリーブオイルでもいいですけど小さく切ったものを多分皆さんが思うよりも相当しつこくよく炒めるんですね。炒め方が軽いところに水分加えると、ふくよかな旨味が出てこないんですよね。結構炒めて、ちょっと濃い野菜が少し焼き縮むくらい。極端に言えばね、そのくらいまでよく炒めてから水分を加えると、旨味が違うのよね。私のスープはおいしいです(笑)。

はな
先日、たまたま野菜のスープを作ったので、長く炒めれば良かったと思いましたね。

上野
野菜のスープというと、ジャガイモはよくある素材なので、 ポンと入れちゃうんですよ。入れていいんですけれども、ジャガイモが多すぎると他に野菜があってもジャガイモのスープの味になってしまう。だから、ジャガイモは要注意なのね。他の野菜をメインにして、もし使いたかったら、少しだけにしといた方がいい。もしジャガイモで作るなら、ジャガイモとりんごでポタージュスープを作ると美味しいですよ。そこに玉ねぎも使うこともありますけど、ジャガイモのでんぷんの風味がリンゴの甘酸っぱさで緩和されて、すごくいいアイデアだと自分では思っているんです。

はな
フルーツをお料理に加えるレシピが多く登場して、どれも美味しそうだなって思っています。

上野
フルーツを上手に使うのは効果的ですね。

はな
逆にその分お砂糖を減らせたりできますし、お砂糖はあまりお料理には使いませんか?

上野
例えば、野菜にちょっと旨味が足りない場合にちょっとふたつまみ加えるとかあるけど、日本料理のようには使わないわね。

はな
上野さんが作るフランス料理は、日本人の舌に合うようなレシピを提案されていますよね?

上野
そうですね。大事なことは、やはり引き算をしても美味しい骨格がある事ですね。いろいろものを加えて、だんだんに膨らんで作ることを若い時にはずっとやっていたんですね。だけどそうではなくて、これを引いたら、これも引いて、それでも、美味しい料理は、やっぱり素晴らしいと私は思うようになりました。だからあまり足し算には頼らない。


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