コロナ後の未来

稲垣えみ子(フリーランサー)×山極壽一(総合地球環境学研究所所長)

2021

12.17

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デジタルからアナログ世界へ



山極
相手は人間だけではないのよ。例えば、森の中を一人歩いていても、風がすごい日に鳥が舞い降りてきて、色んな蝶がひらひら飛んでいて、それを見ながら、自分も知らず知らずのうちにそういうリズムに乗っているわけだよね。だから、なぜかウキウキしてくる。日の光が差してくれば、暖かいと思う、そういう感触が、やっぱり人間の身体が求めている、同調感だよね。共鳴できないのは人工物。動かないものに人間はなかなか共鳴できない。動くものだったらそれはネズミだって、猫だって、犬だったりしても、共鳴できるんだよね。そこが心の動きを作ってくれるし。

稲垣
動くものは全部不安定じゃないですか?だから本当はそういうのがみんな好きですね。

山極
言葉も動かないもん。シンボルだからね。動くものはアナログですよ。共鳴はそういう現象ですよね。動くものにしか我々は合わせられない。最初から言葉を使い始めてから、頭はずっとデジタル思考ですよ。だけど身体はそうでない。我々の脳は、言葉で世界を分類することに慣れてしまったんです。身体は頭の方に引っ張られているけど、本来は区切られたものを認識しなくても済むようになっているんですよ。だからアナログの世界だね。そこをもっと重要視したほうがいいと思います。本当は区切らなくてもいいものがあって、国境もそう、男と女のもそう、そういう我々が分類してきたものに身体が反逆し始めているのが今の時代だよ。

稲垣
ちゃんと反逆し始めていますかね?

山極
それは心体を取り戻す中でだんだん元に戻っていくかもしれない。


もっと頼りあっていい!



稲垣
先生は将来、希望的ですか?

山極
俺は希望的だね。どっちかというと。だってゴリラの方が人間より偉いと思っているから。

稲垣
先生の本を読んで、進化とは何だろうとすごく思ったんですけど、人間は自分たちが一番進化した生き物だと思っていると感じますが・・・。

山極
それが今度のコロナで大間違いだと分かったんですよ。20世紀までに、この地球は人間が支配したとみんな思い込んでいたのね。家畜を作り、遺伝子組み換え作物を作り、魚を作り、どんどんその命を作り変えてきたでしょ。地球の陸地の4割は、もう人間と家畜を壊す牧草地と畑になったわけだね。だけど今度の新型コロナで、地球は人間の惑星でなくてウイルスとバクテリアの惑星だとわかった。まだ我々が知らない細菌やウイルスがたくさんいる。海の底にもメガウイルスみたいな巨大なウイルスがいたり、おそらく北極の氷の下にもウイルスがいるわけですよ。それらはまだ我々と接触してないから、その力は分かってないかもしれないけど、これからどんなことが起こるかわからないですよ。もっと大事にして、そっとしてあげなくてはいけないってことだよね。

稲垣
みんなやっぱり、コロナでハッとしましたよ。

山極
そんなことはわかっていたはずなのよ。100年前にスペイン風邪が流行って、今よりよっぽど多くの人が死んだわけですよ。21世紀になってからもSARS、MERS、みんなウイルス感染症ですよ。インフルエンザもあるわけだし。気がつかなくてはいけないものを一旦は、気がついたのかもしれないけど、忘れちゃったわけで、今度こそ忘れずに、これをもとに我々の意識を作り直さないといけない。

稲垣
やっぱり、コロナ撲滅とかコロナに勝つみたいなことを偉い人が言った時にみんな違和感を抱いたのはいいことだったんじゃないかな。地球上の生き物がいて、コロナと人間のどっちが好きみたいな投票をした時に人間が圧倒的に人気ないだろうなっていう、みんなが人間要らんってなるだろうね。

山極
ウイルスはどんどん変異していく、細菌もそう。人間は変わっていかないといけない。ワクチンをいくら製造してもワクチンに対抗するウイルスが出てくるのだから。

稲垣
そうですね。そう聞くといい風に変われるように感じました。

山極
変われるでしょう。その時に人間の便利ってなんだろうか。自分の能力を引き剥がして、機械に操作されるような人間になり変わっていくんじゃないだろうか、それは機械の思うツボで、機械に順わせる人間を作って、みんな同じ人間になっていることですよ。一旦、便利さを見直してみて、もっとシンプルな暮らしを考えながら人間が本当にインボルブされ、楽しいと思えるような社会のつくり方を考えたらいい。それが考え直すってことだと思うね。

稲垣
そうですね。私は偶然そういうことに気がつくことができたので、自由に生きることができるようになったことに驚いて、本を書いたりしているんですけど。

山極
若者もそういうことに気がついているし、東京の転出人口が転入人口を上回ったんですよね。地方に移住して、それに慣れていくと、東京ではワンオブゼムが、ワンオブワンに。自分の一挙手一投足が噂にのぼる世界。大変だという思いもあるが、自分の影響が行き渡ることを知ると、むしろ楽しくなると思う。多分、経験してみるとわかる。人はもっと助け合っていいし、弱さをさらけだしていい、今は他人に迷惑をかけなければ何でもできるというが、何にもできない人間ばかり作っている。機械に頼って、何もできなくなっているだけ。生活を作ることも新しい世界を創造することもできない。だから、これまでの常識の「自立しましょう」をやめて、もっと頼りあったらいいんじゃない。


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