演じる時は、自分の経験を生かす

佐藤浩市(俳優)×三島有紀子(映画監督)

2022

02.25

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映画で伝えたかった男の人生



現在公開中の短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」Season2の参加作品『IMPERIAL大阪堂島出入橋』でタッグを組んだおふたり。監督自身の思い出の店である洋食レストランの閉店をきっかけに、在りし日の店を”記録“として残そうとした私小説的な一篇です。佐藤浩市さん扮する35年間、店と共に歴史を積み重ねてきたシェフが、再び希望を見いだす一夜を圧巻の長回しで魅せます。

三島
そもそも母親が施設に入っていて、「IMPERIAL」のハンバーグを食べたいと言ったのが始まりだったんです。お母さんのために作ってもらおうと自分の故郷にある家族ぐるみで付き合っている「IMPERIAL」に向かったら、一昨年に閉店しましたと張り紙があって、中は、がらんどうになっていて、周りの人に取り壊す予定だという話を聞いた時に店主でありシェフの幼馴染に連絡を取って、閉店したけど、今も50年以上続いたデミグラスソースを作っているという話を聞いた時に、これは、本当に小さな光に触れることができるのかもしれないと思って、脚本を書き始めたんです。別に希望もないし夜明けもない。たけど、ずっと続く長い闇の中に、もしかしたら本当にかすかな白い光が逃げたりすることもあるのかもしれない。この男の人生とともに並走する、寄り添っていけたらいいと思って、ワンカットでいけないかなと思ったのが最初です。

佐藤
それが新地の大きな通りの800m。

三島
四つ橋筋ですね。

佐藤
白んできたのは希望なのか、最後の遺言なのかわからないけど、いい意味でもう少し時間が経てば文字が読める明るさは、少し救いと言っては簡単すぎるし、何か感じてもらえたら嬉しい映画ですね。

三島
全ての事を失った男の話ですから、その男が、再生には至らないけれども、再生に向かう何かをたぐり寄せられるのかどうかに向き合っていけたらいいなという感じですよね。

佐藤
失ったことが全て絶望かというと、そうでもないんだよね。それは人生として受け入れているわけだし、それでも、それが明日生ける糧ではないわけだから、それを人間としてどこに求めたらいいのかという、人はみんな多分絶対さまようはずですよ、誰もがね。そんなことに対する一つ思いが僕も今、考えたらあったと思う。


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インデペンデント映画は、裏切ってもいい



佐藤浩市さんといえば、多様な作品に出演し、様々な役を演じきる実力派俳優。日本映画界を代表する俳優の三國連太郎さんを父にもち、ご自身も早くから同じ道を進み、キャリアを重ねていきました。

三島
浩市さんはすごく恵まれていて、満たされているように見えるけど、大きく欠落しているっていう、欠落って失礼ですか。

佐藤
欠損しております(笑)。

三島
いえいえ、欠損はしていません。欠落感というんですかね、言い換えれば、渇望していると思うんですけど、その塊のような人な感じがするんですよね。だからインディペンデントな映画にも向かわれたのかなと思ったんですけど、どうですか?

佐藤
まずプログラムピクチャーでヒーローをやった場合のお客を裏切れなさがあるでしょ、でもインデペンデント映画は、いくらでも裏切ってもいい、言い方はちょっと不遜だけど、そう思った時の自分がやる幅、その役の面白さがあって、それが楽しくて、いろんなことをやらせてもらっていたと思うんです。そのきっかけの阪本順治みたいな人と一緒にやれたりとかね、やっぱり出会いの感謝ですよ。プログラムピクチャーでも相米慎二みたいな人にも出会えたわけだし。

三島
映画を見ての感想ですけど、不思議なのは非常にナイーブで神秘性に富んでいるのに血が通った存在感があるのは何だろうなとずっと思っているんですよね。

佐藤
そう言っていただけるのは、非常に光栄ですけど、自分の中にある引き出しではなくて、自分の中の経験から無理やり引っ張り出すと言うかね、どんな役をやるにしても非常に誤解がある言葉かもしれないけど、その素養は自分の中に絶対あるんですよ、人間である以上。

三島
神秘性というのは、自分の知らない自分がいるのを知っている事ですかね。

佐藤
やっぱり人間である以上、必ずあるはず。それが言葉悪いけど殺人犯であろうが、何か間違えた瞬間に自分がそうなっているかもしれないことの恐怖と人間はいつも表裏の中にいるんじゃないか、そこら辺の部分がないとやっぱり役はできないでしょ。これは作り事だから、あるわけないではないんでね。三国連太郎という人は、非常にリアリスティックにそういう表現をやった。ある知り合いの人が三國の話をしていて、「人殺しの役がきたら人を殺すのかよ」と言われた時に、「自分の中で何かそういう風な工程を踏んだ時はないか、その部分を三國は引っ張り出すことだったんではないですか」とは、言えなかったですけどね、相手が大先輩だったので。


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