亡き父親への複雑な思い

佐藤浩市(俳優)×三島有紀子(映画監督)

2022

03.04

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原風景は撮影所



三島
浩市さんは、小さい頃に三國連太郎さんの撮影現場をどのように見に行っていたのですか?

佐藤
ほとんど家にはいない人だったし、いたとしても妙な異物感しか僕には感じなかったし、食卓にいても嫌なのよ、その異物感が。彼は車が好きだったのでドライブがてら伊豆の松崎に行くぐらい。

三島
ご一緒に、助手席に乗って?

佐藤
乗って。それぐらいしか思い出がないのと、あとはなぜか撮影現場にはよく呼んでくれた。感謝しているのは、どうやって映画が作られているのか、彼が何をしているのかを知っていなかったら、簡単に自分の中で心が荒んだんだろう、いわゆる父親が役者なんて、普通ではない家の子として指を刺されるではないけど、ちょっと言われることもあったわけだし。彼の現場を見て、みんなは知らないだろうけど当時モニターもないし、フィルムで撮っているし、アップで30分、数行あるカットだったら1時間から2時間かけて積み重ねてものが作られていくことを知っていなければね、ちょっと自分も違ったのかなという感じ。だから必然的に自分が映画を作る、それが出役なのかそうではないかに関わらず、映画作りの現場に参加するのはその時からなんとなく出来上がっていたのかな。東京でも京都でも当時の撮影所に行くと、スタジオ数が今の数なんてもんじゃなく、11いくつのステージがあって、それが見事にシンメトリーに並んでいる。そのスタジオの風景の不可思議さ、同じ建物、同じセットが両脇にシンメトリに並んでいるわけですよ、はるか先まで、そこに自分がいる不思議さが自分の原風景と言うか。

三島
中では全く違う世界が繰り広げられているわけですね。その同じ建物だけど、中には全く違う時代があって、全く違う人間が生きている。

佐藤
本番のランプが消えると、スタジオの大きな扉が開いて、人が出てきて、それを体験させてもらったのが当たり前のように自分に重なった。


役者は、自分から導き出す



一方、子供の頃から近所の名画座に通い詰め、数々の名作に出会ったことで、監督への道を志した三島監督。その中には、『青春の門』や『魚影の群れ』など佐藤さんが出演した作品もありました。

三島
『青春の門』を観て、現場の話もいっぱい聞きたいですけど、当時、私は、13歳ですかね。衝撃でしたよね、長いファーストカット。

佐藤
相米監督の構想では、海のマグロの群れを空撮して、そのマグロが岸の方に向かっていく、途中からマグロの群れたちが外れて行くんだけど、空撮のキャメラが砂浜の方に行くと、僕と夏目雅子が座っていて、話が始めるまでワンカットでいきたいと言って、そんなことできるわけがないと、今だったらできるんだよね。

三島
ドローンがあるからね。

佐藤
CGもあるわけだし、当時の80年代初頭の日本映画でCGもない時代に、ワンカットで撮れるわけがない。結局、即座にカットされて浜辺の二人から始まった。

三島
あれが撮られた時のスタッフの集中たるやと思いますよね。

佐藤
すごいなと思うし、今回の『IMPERIAL大阪堂島出入橋』にも通じるけど、バスのタイミングとか偶然性を含め、長回しをすれば、いろんな作用がなければ成立しない。風向きもそうだし、そういうようなものがいっぱいあった映画で、僕は相米さんと23歳で初めてご一緒させて頂いて、たかだか3年ぐらいのキャリアだったけど、こんな映画の作り方があるのかとびっくりさせられた。毎日テストしかしないし、フィルムがもったいないから午前中ワンシーンのテスト、午後から本番を始めて、ラッキーならばテイク10、だめならばOKが出ない。毎回、芝居を変えないと納得してくれないし、「どうしたらいいんですか」と言ったら「そんなこと自分で考えろよ」と。後にしてわかるのは、言われてやるのでは、それは言葉悪いけど犬のしつけと一緒で、そうではなくて自分で導き出して、そこにいってくれよ、そうするとその前後も全部変わってくるから。演出するのは、一番簡単だけど自分から導き出してくれというのが、相米演出法だったんでね。それを経験させていただいて、いろんな意味で良い悪いではなく、何か一つ自分の芝居をすることの礎になっていますね。

三島
こういう話を聞くのが私も大好きで、私はもうちょっとだめで、ずるくて、へなちょこなんですけど、なるべく言わないようにしています。自分が言って、それをやってもらったからといって、幅が狭いじゃないですか、それよりもどうですかねとか言ってるほうが、どんどん幅が広いアイデアが出てきて、結果的に役者さんが自分の肉体から生まれたことをキャメラの前でやってくれる。

佐藤
確かにね。ただ本当に、相米さんだけではなく、坂本さんも若い時、そうだったり、いろんな監督さんたちは、変な話、向こうがまだあがってないなと思うと、役者は、テストの時に抜け出して、体力温存するようになるからずるいね。答えは言わなくていいんだけど、こっちの方に向かっていくと道があるよという演出をしてあげると演者たちは救われるかなという気はしますけどね。


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