まわりから愛される理由

水野良樹(いきものがかり)×狩野英孝(お笑い芸人)

2022

08.12

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芸人さんたちの助け合い



水野
ご自身のコントと番組でのフリートークはどっちが緊張します? ちゃんと作ったものをやるパターンと、芸人さん同士でお喋りのキャッチボールをする瞬間があるじゃないですか。全然違う競技だと思うんです。

狩野
違いますね。どっちかと言ったら、100対0でネタの方が、緊張しますね。

水野
なぜですか?

狩野
そこが芸人のフィールドというか、ミュージシャンで言ったらライブ。Mステを見ていても、メインは歌で、タモリさんとのトークは、滑ってもいいというか、ちょっとサービス的なところで、トークももちろん大事ですけど、作り込んだネタが滑ったりするとすごいショックだし、途中でかんでしまったり、間違えたり、急にネタが飛ぶと、オチ切らず終わったと思っちゃう。

水野
ライブやレコーディングは練習できるじゃないですか、準備があって、そこまで構築して、本番を迎える。ミュージシャンで音楽番組に出させていただいたり、バラエティーの番組にちょっとゲストで出させていただいたりする時に、トークは練習できない。本当にその場でやらないといけない。

狩野
そうですね。トークに関して、多分、うん。でも僕に聞くことじゃない(笑)。

水野
そんなことないでしょ!

狩野
僕も、番組でトークをやらせていただきますけど、永遠の悩みというか課題でもあって、どうやったらいいんだろうとやっぱり悩みますね。

水野
素人だからわかってない部分あるけど、芸人の皆さんは、チームプレーで、この方がボケたら突っ込むとか、お約束もあったり、どうやって皆さん繋いでいかれるのですか?

狩野
あれは多分、下積み時代に僕ら、お笑いライブをやるんですね。もちろんネタは一生懸命練習して作ってやるんですけど、最後にエンディングみたいな感じで、芸人さんが集まって、例えば次のライブの告知をしたり、そこで鍛えさせられるというか、誰かがボケたら、誰かが行かなきゃいけない、誰か今、おぼれているぞ、何かかぶせられないかみたいなのは、20代前半からやって、それがマセキだろうが吉本だろうが松竹だろうが同じことをずっとやってきているから、事務所や世代が違えど、その助け合いはありますね。

水野
そこでどう愛されるのですか? それこそ狩野さんは、失敗しているところを他の人がフォローしてくれたり、もしくは、うけたところをさらに引き立ててくれたりするじゃないですか。それは好きじゃないとできない。そんなに愛されるのはすごいな。

狩野
その質問で言うと、答えもあって答えはないのかもしれないですけど、トーク番組に出る時に事前にそのテーマはある程度聞いているから、本番までに、後輩とご飯食べたときに「そういえばさ…」みたいな感じで試したり、地元の友達にちょっと言ってみて自分の中で練習します。いざ本番になると、僕、いつもせっかく一生懸命練習したのに、途中、噛んだり、言い間違えて、みんなから突っ込まれて、あんまりトークがオチまで喋れたことないんですよ。一時期、どうせ練習しても駄目だったら、練習せずに行ってみようと思って、トーク番組に臨んだら間違ってもあんまり先輩たちの助けが来なかったんですよね。だから多分必死にいろいろ喋っているところに先輩たちも助けたいとなってくださった。本気でやっているのが伝わったんでしょうね。全く稽古なしで、何も考えずに喋ったり、努力しないことに関しては助け舟があんまり来ないのはありますね。

水野
めちゃくちゃ面白い話!
 
狩野
感じてくださったと思います。

水野
何かそういう準備してない適当な感じの空気は。

狩野
伝わるんでしょうね。そんなやつを助けてやるか! みたいな。それは視聴者さんも感じていることだと思いますね。

水野
どんなに噛んでいようが一生懸命やっているから、面白くなったり。

狩野
多分あると思います。一生懸命稽古してきたものは、お客さんも待ってくれるというか1回リセットして、もう1回見てくれる。そんな空気をこっちが感じているだけかもしれないけど、あるとは思いますね。


ライブMCの悩み



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狩野
トークは考えなくてよくないですか? 基本、吉岡さんが、話しますか?

水野
そうですよ。でもライブで話す機会はあるわけですよ。

狩野
ミュージシャンのコンサートに行った時に、音楽を聴いてすげえかっこいい、最高だなと思い、トークが始まると、喋っている姿は、コンサートならではの醍醐味だったりするから、キラキラした目で見ています。

水野
ライブMCが上手い人はいっぱいいるんですよ。コブクロさんとか、大爆笑の嵐だし、さだまさしさんはライブMCのCDを出してる。

狩野
俺もさだまさしさんのディナーショーをプライベートで行った時、爆笑とった後にしんみりとした曲をやるから緊張と緩和で、すごかったです。

水野
ああいうのを見ても落ち込むんですよ。

狩野
水野さん的にはライブのMCで爆笑とりたい気持ちが強いんですか?

水野
流れ良く行きたいとはすごく思うんですよ。吉岡が歌っているから、MCの時が意外と喉を休める時間だったりするんです。

狩野
例えば、全国ツアーに出た時に、福岡の美味しいものとか、福岡でここ行ってきましたとか、そういうお話とかは?

水野
それは相当危険ですよ。福岡の人は毎回それを聞いているんですよ。福岡で明太子の話は、駄目だし、仙台で牛タンの話は、駄目ですよ。仙台で牛タン食べてきましたと言ったら、いや別に地元の人は、そんな食べないし。

狩野
そうそう! 僕は宮城県の仙台出身ですが、牛タンは、ランチでも1000円超えるから高くて、地元の人はあまり食べないです。観光用です。親戚が来たら一緒に食べに行くかなぐらいな感じ。

水野
その空気になっちゃうんですよ。ご当地タレントさんについて触れるとか、そっちの方が受けがいいですよ。ご当地CMの曲に触れるとか。ベタですけど、曲中に六甲おろしを混ぜるとかありますよ。例えば、「ジョイフル」という曲があるんですけど、あれをすごく長くして、途中で違う曲を入れるのは結構やっていたんですよ。その土地土地で、青森では「津軽海峡冬景色」、大阪では「六甲おろし」をやると、もう自分たちの曲より盛り上がる。

狩野
それでも、喉の負担は吉岡さん。

水野
そういうのはありますね。


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*水野さんが清志まれ名義で執筆された初の小説「幸せのままで、死んでくれ」は、文藝春秋より発売中です。

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