地方にはいいものがたくさん眠っている

行方ひさこ(ブランディングディレクター)×生江史伸(シェフ)

2023

06.16

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通い詰めることで通じる思い



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行方
ファッションに関わっていた時は、作ってくれる人のことまでをちゃんと見られてなかったの。工場や生地屋さんとはお話もするけど、生地を作ってくれる人のところまでは、なかなか行くことができず、竜巻に巻き込まれたみたいに20代は忙しくて、物をしっかり作ってくれている現場に行くことを、疎かにしてしまっていて、それで20代後半ぐらいにやっとちょっと時間ができたと思って、会いに行ったら、すごいカルチャーショックというか。

生江
どんなカルチャーショック?

行方
今までは、絵を描いて、こんな感じにしたいと言って、型紙を作り、真っ白い布でお洋服をとりあえず1回作ってみて、それを工場に出すと、もう上がってくる。手は、動かしてはいるけど、自分の手で物は作ってない。誰が作ってくれているかもあんまり知らない、社長ぐらいしか知らないみたいな状態で、それで、「ちょっとここが違う」だとか「遅い」とか言ったりして。例えば、キャップの帽子の穴だけを20年担当していますという人がいたり、生地屋さんは、生地について全く言葉がわからないぐらい専門用語を使っていたり、それでもうちょっと手を動かして物を作っている人の近くに行って、もっと物を見たいと思って、ちょっとずつ、そっちに寄ってきている。ファッションの仕事をやっていると地方には行かれないから全部をやめて、地方にいろいろ行ってみよう、地方を活性化するようなことがしたいなと思って。そんなことで地方に行くことになったら、今まで自分が見てきた東京に集められた地方の物は、誰かの思惑で集められた物だったりするから、何か根っこを残したまま引っこ抜いてきちゃった感じがして、それがセレクトショップのように置いてあって、自分では当たり前のように見ていたんだけど、一つ一つがどんな場所でどんな気候で、土地柄でどんな歴史があってそういう物が生まれてきたのかをちゃんと自分で一つ一つ見に行こう。でも地方創生的なことをやってみたいと言い始めてはみたけど、誰も声をかけてくれないし、当たり前だけど、どうやって仕事を取っていいのかもわからなくて、それでとりあえず勉強をしようと。

生江
例えば、最近だとどういう仕事をしているの?

行方
仕事になるならないでなくて、とりあえず自分の至らない場所を埋めるために地方にとりあえず行って、話を聞いたりしていた中でたまたま文化庁のお仕事で、丹波篠山に行くことがあって、すごいびっくりして、センスがいい人がいっぱいいて、こういう田舎もあるんだなと思ったんだけど、意外と大阪や奈良の人に聞いてみたら行ったことがない人も多く、それで通い詰めていたら、たまたま丹波篠山のガイドブックに文章を書かせてもらったり、仕事の依頼をいただいたりするようになっている。6月に佐賀県の唐津にも合同会社を作ろうと思っていて、とにかく佐賀県が好きで行っていて、そしたらやっぱり県庁の人と仲良くなったり、毎回、食と器のイベントに呼んでくれたり。

生江
そういう人と出会うのが当たり前のようにあるわけではなくて、やっぱり自分で動き回ることによって、出会っていく機会が増えていくことになるのかな。

行方
こんなに来てくれている、好きなんだねとなると向こうも開いてくれるし、こっちもやっぱり好きだから、毎月でも行きたい気持ちもあるし、そうなると結構打ち解けて、不思議だけど、仲良く遊ぼうではなくて何か一緒に作ろうとなっていく。


佐賀県の魅力



日本各地を巡って、美しい工芸や日用品などの名品と出会ってきている行方さん。
そんな彼女が最近、注目する地方は、佐賀県です。

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行方
佐賀県は、魅力度ランキングで最下位になったけど唐津焼も有田焼も、伊万里もあるし、ものすごくたくさん焼き物があって、日本の焼き物のルーツにもなったような場所なのに、なかなかその魅力をわかってもらえない。食と器の文化がすごく昔からあって、美しい物を生み出して海外に持っていった。1800年代に出していた有田伊万里の絵付けも本当に美しい。

生江
僕もパン屋「ブリコラージュ」のディスプレイのお皿を選ぶ時に、ある方に紹介されていろいろと連れて行っていただいた時に、使われてないお皿、もう眠ってしまって埃をかぶって、日の目を見ないような皿だけを僕らはセレクトしていったんだけれども、いろいろなお店や骨董屋さんに伺ったら、「日本人よりも海外の人たちが器を買って帰る。むしろ、もしかしたら日本人よりも海外の人たちの方が目利きというかそういう物に対してのセンスが敏感で、無駄なフィルターがかかってないというか、いい物を買い集めていく」と、聞いたことがあって、世界的に注目を浴びている場所と言っていいのか。

行方
使いかけや描きかけで止まってしまった中途半端なお皿は、もうほとんどなくなってしまったの。日本の物が素晴らしく、歴史もあるのになかなか日本人には伝わらないけれど、海外では評価してくれる人がいる。だから、最近日本人の作家さんが海外で、展示会をやると人気があるみたいで、バイヤーさんも唐津にも来ていた。でもその代わり海外用にもっと大きい物を作ってくれとか日本の流通とは違う物を求めたりするけどでも目利きが向こうの人の方が優れているんだね、寂しいことに。

生江
でもそれだけ、僕ら日本人があまり注目しなくて魅力度ランキングとしては低いところに、外から目を向けてみると素晴らしい価値があるのは、いろいろなところにあるような気がしていて、そういうのを探し当てて再評価してもらうような働きかけをするのが、ブランディングディレクターの仕事の一つかなと思ったりします。

行方
そう思っている。



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