2025年11月29日
今夜ゲストにお迎えしたのは、作詞家・小説家と幅広くご活躍されている、児玉雨子さんです。
児玉雨子さんは、1993年、神奈川県のお生まれです。
明治大学大学院に進学し、文学研究科を専攻、修士課程を修了されました。
作詞家としては、アイドルグループや声優、テレビアニメの主題歌やキャラクターソング、さらには Vtuberや近田春夫さんの楽曲まで、多岐にわたるアーティストへ詞を提供されています。
また、小説家としての評価も高く、2023年刊行の『##NAME##』は、第169回芥川賞の候補作にも選ばれました。
ジャンルを越えて、言葉が持つ可能性を追い続けているクリエイターでいらっしゃいます。

──自ら「市場」に飛び込む、若い世代
茂木:今回、芥川賞候補になった後の第一作ということで、河出書房新社より出された『目立った傷や汚れなし』。これは時代の捉え方が素晴らしいですね。
児玉:ありがとうございます。
茂木:常に周りの方とかを観察されているんですか?
児玉:いや。でも私としては、この着想を得た時というのは、ちょうど前回の賞の候補に上がった頃、手持ち無沙汰だったので、YouTubeなどの動画を見ていた時だったんです。明らかに詐欺師っぽい、“せどり”の情報商材を売りつけているだろう人の動画がポンと出て来て、「あれ? 何これ?」と思ったら、結構もう既に嵌まっている人がいるんだ、と思ったということが、2年前にあったんです。
茂木:それが、インスピレーションで。
児玉:はい。やっぱり私も全然知らない世界だったので、2年かかってしまったんですけど。「既にあるんだな」ということにちょっと私も驚いていましたね。
茂木:改めて、今回の小説『目立った傷や汚れなし』がどういうあらすじかといいますと…。
「夫が休職したのをきっかけに、フリマアプリ『メチャカイ』で、ちょっとした、お小遣い稼ぎを始めた、主人公の会社員・翠(すい)。
ある日、ふらっと立ち寄ったドン・キホーテで、“爆仕入れ・爆転売”に情熱を燃やす女性たちの〈せどりサークル〉に声をかけられます。
掘り出し物を見つけて利益が出る、そのスリルにどんどんハマっていく一方で、家では、働けないのに浪費ばかりしてしまう夫へのモヤモヤが、だんだん抑えられなくなっていきます。
果たして、翠は、どんな結末を迎えるのか。児玉雨子さんが描く、ノンストップ転売ストーリー。」となっています。
まさにノンストップですよね。「あれあれ? こんなことになっちゃうんだ?」というような。
児玉:どんどん転がっていきます。
茂木:この謎のサークル…でも、今の時代、こういうのはありそうですよね。
児玉:ありそうですよね。
茂木:これは少し変な例えになるんですけど、夏目漱石は俳句をやっていて、小説を書いて、あのようになったじゃないですか。あと、『オン・ザ・ロード(路上)』のジャック・ケルアックも、英語の俳句をやっていて、ああいう素晴らしい小説を書いた、ということで、やっぱり作詞家をやっている経験が小説に生きている、ということはあるんですか?
児玉:いや、そんな、そうそうたる名前に並ぶほどではないですけれど。でも、元々物を書くのが好きだったのはありますね。

茂木:児玉さんの小説は、もちろんこの時代性とか、フリマアプリとか、サークルもそうなんですけど、文章が読んでいて心地よいんですよね。疾走感がある、と言うか。
児玉:ありがとうございます。
茂木:ご自身では、そこはどうですか?
児玉:逆に、「読みやすすぎて、軽く読めてしまいすぎる」と言われたことがあるんです。「リーダビリティがありすぎる」みたいな。私は結構それがグサッと来て。
茂木:お言葉を返すようですけども、『誰にも奪われたくない』の、最初の頃の文体とか、あの書き出しとか、非常に重厚だと僕は思いましたけど。
児玉:本当ですか? 私にとっては、「変えよう」とか、「こういったふうに文体を構築しよう」と、意図的にしているものではないんです。「このことを言いたかったら、息継ぎなしでずっと書かなきゃいけない」とか、『目立った傷や汚れなし』だと、逆に「これは息継ぎがちゃんとあった方がいいな」とか、感覚でやっていましたね。
茂木:今回の『目立った傷や汚れなし』でもそうなんですけど、児玉さんは一環として、マーケットとか社会の中で自分が評価されてしまうことの悲しみとか、でもそうせざるを得ないとか、そこら辺をずっと扱っていらっしゃる気がするんです。
児玉:はい。多分それは作詞家としての何かが影響しているかもしれないですね。やっぱり今の音楽というのは、バズるかどうかがとっても大事なので。
茂木:我々も普段からフリマアプリでいろいろやり取りをしているんですけど、今回の小説でも、値付け…結局人間も値付けされてしまっているんだな、という感覚でね。
児玉:そうですね。今の若い人は結構その感覚が強くて、すごく内面化していますよね。
茂木:そうなんですか。
児玉:私は今31、32歳ぐらいなんですけど、私ですら、「若い子は…」と言いたくなってしまうくらいなんです(笑)。自分を、そんなに喜んで、いわゆる“市場”に商品として飛び込んでいかなくていいのに、と、私はちょっと思ってしまうんですよね。
恋愛とかも、今は「恋愛市場」という表現があるじゃないですか。
茂木:ありますよね。それこそ、お互いに右スワイプで…。
児玉:そうです(笑)。恋愛ですら市場化した、と言うか、それで、いかに自分が上手に消費されていくか、みたいなことを(している)。
私が学生の時は就活がフィーバーしている時だったので、それに対しての反動みたいなものがあって皆嫌がっていたんですけれど、(今の若い子たちは)なんかノリノリだな、と思いながら見ています。
茂木:そこら辺も含めていろいろご覧になっているから、今回のような、本当に現代に刺さる小説になったと思うんですけど。
このタイトルも、『目立った傷や汚れなし』。これはもちろん商品のことなんですけど、人間もそういう風に見られてしまう時代ですよね。

児玉:そうです。私自身もフリマアプリを使っていて、「使用感あり」とか、「新品同様」とか、「目立った傷や汚れなし」とか、何をもってそう言うんだろう、と、出品する時にすごく迷ったりします。
茂木:この『目立った傷や汚れなし』というのは、フリマアプリでよく使われる言葉なんですね。
児玉:はい。何をもって「目立った傷」なのかな、と。
茂木:ネタバレにならないようにあんまり言えないんですけど、僕はこの小説の“箱”のところがすごく心に残りまして。僕は「ある程度なら、箱が潰れたりしちゃっても別にいいじゃん」という方なんですが、世の中ではそうでもないんですね。
児玉:そうですよね。商品レビューとか、あとは本のレビューとかでも、内容ではなくて、「郵便の(過程で)、外の袋が汚れてました」みたいなことが書かれている時があるんですよ。
茂木:え、そんなことまで言われるんですか!
児玉:恐ろしくないですか? それで評価「1」を付けられたりするんですよ(笑)。
茂木:なかなか生きていくのが大変な時代ですね。
どうですか? 今回この本を出されて、書籍化されたものはこれが3作目ということですかね?
児玉:そうですね、小説としては3冊目です。
茂木:手応えはいかがですか?
児玉:いや、もっと売れたいですね(笑)。さっきまで私が「市場に出ていくなんて」とか言っていましたけど、私は売れたいですね。
茂木:今回の小説は、商品のことを言ってるようで実は人間のことを言われてしまっているような気がするところが、すごく心に残りますね。
児玉:ありがとうございます。
茂木:児玉さん。この『目立った傷や汚れなし』のイベントがあるそうですね。
児玉:はい。12月9日に、東京の青山ブックセンターで、ソロアイドルの寺嶋由芙さんという方と、トークとサイン会を行いますので、ぜひぜひ、公式ホームページからご覧ください。

●児玉雨子 (@kodamameko)さん 公式 X(旧Twitter)
●青山ブックセンター 公式サイト
↑『目立った傷や汚れなし』刊行記念
児玉雨子(作詞家・小説家)×寺嶋由芙(ソロアイドル)トークイベントの詳細は、こちらの「青山ブックセンター」公式サイトをご覧ください。
●目立った傷や汚れなし / 児玉 雨子 (著)
(Amazon)
● 児玉雨子さん 公式サイト
●河出書房新社 公式サイト
児玉雨子さんは、1993年、神奈川県のお生まれです。
明治大学大学院に進学し、文学研究科を専攻、修士課程を修了されました。
作詞家としては、アイドルグループや声優、テレビアニメの主題歌やキャラクターソング、さらには Vtuberや近田春夫さんの楽曲まで、多岐にわたるアーティストへ詞を提供されています。
また、小説家としての評価も高く、2023年刊行の『##NAME##』は、第169回芥川賞の候補作にも選ばれました。
ジャンルを越えて、言葉が持つ可能性を追い続けているクリエイターでいらっしゃいます。

──自ら「市場」に飛び込む、若い世代
茂木:今回、芥川賞候補になった後の第一作ということで、河出書房新社より出された『目立った傷や汚れなし』。これは時代の捉え方が素晴らしいですね。
児玉:ありがとうございます。
茂木:常に周りの方とかを観察されているんですか?
児玉:いや。でも私としては、この着想を得た時というのは、ちょうど前回の賞の候補に上がった頃、手持ち無沙汰だったので、YouTubeなどの動画を見ていた時だったんです。明らかに詐欺師っぽい、“せどり”の情報商材を売りつけているだろう人の動画がポンと出て来て、「あれ? 何これ?」と思ったら、結構もう既に嵌まっている人がいるんだ、と思ったということが、2年前にあったんです。
茂木:それが、インスピレーションで。
児玉:はい。やっぱり私も全然知らない世界だったので、2年かかってしまったんですけど。「既にあるんだな」ということにちょっと私も驚いていましたね。
茂木:改めて、今回の小説『目立った傷や汚れなし』がどういうあらすじかといいますと…。
「夫が休職したのをきっかけに、フリマアプリ『メチャカイ』で、ちょっとした、お小遣い稼ぎを始めた、主人公の会社員・翠(すい)。
ある日、ふらっと立ち寄ったドン・キホーテで、“爆仕入れ・爆転売”に情熱を燃やす女性たちの〈せどりサークル〉に声をかけられます。
掘り出し物を見つけて利益が出る、そのスリルにどんどんハマっていく一方で、家では、働けないのに浪費ばかりしてしまう夫へのモヤモヤが、だんだん抑えられなくなっていきます。
果たして、翠は、どんな結末を迎えるのか。児玉雨子さんが描く、ノンストップ転売ストーリー。」となっています。
まさにノンストップですよね。「あれあれ? こんなことになっちゃうんだ?」というような。
児玉:どんどん転がっていきます。
茂木:この謎のサークル…でも、今の時代、こういうのはありそうですよね。
児玉:ありそうですよね。
茂木:これは少し変な例えになるんですけど、夏目漱石は俳句をやっていて、小説を書いて、あのようになったじゃないですか。あと、『オン・ザ・ロード(路上)』のジャック・ケルアックも、英語の俳句をやっていて、ああいう素晴らしい小説を書いた、ということで、やっぱり作詞家をやっている経験が小説に生きている、ということはあるんですか?
児玉:いや、そんな、そうそうたる名前に並ぶほどではないですけれど。でも、元々物を書くのが好きだったのはありますね。

茂木:児玉さんの小説は、もちろんこの時代性とか、フリマアプリとか、サークルもそうなんですけど、文章が読んでいて心地よいんですよね。疾走感がある、と言うか。
児玉:ありがとうございます。
茂木:ご自身では、そこはどうですか?
児玉:逆に、「読みやすすぎて、軽く読めてしまいすぎる」と言われたことがあるんです。「リーダビリティがありすぎる」みたいな。私は結構それがグサッと来て。
茂木:お言葉を返すようですけども、『誰にも奪われたくない』の、最初の頃の文体とか、あの書き出しとか、非常に重厚だと僕は思いましたけど。
児玉:本当ですか? 私にとっては、「変えよう」とか、「こういったふうに文体を構築しよう」と、意図的にしているものではないんです。「このことを言いたかったら、息継ぎなしでずっと書かなきゃいけない」とか、『目立った傷や汚れなし』だと、逆に「これは息継ぎがちゃんとあった方がいいな」とか、感覚でやっていましたね。
茂木:今回の『目立った傷や汚れなし』でもそうなんですけど、児玉さんは一環として、マーケットとか社会の中で自分が評価されてしまうことの悲しみとか、でもそうせざるを得ないとか、そこら辺をずっと扱っていらっしゃる気がするんです。
児玉:はい。多分それは作詞家としての何かが影響しているかもしれないですね。やっぱり今の音楽というのは、バズるかどうかがとっても大事なので。
茂木:我々も普段からフリマアプリでいろいろやり取りをしているんですけど、今回の小説でも、値付け…結局人間も値付けされてしまっているんだな、という感覚でね。
児玉:そうですね。今の若い人は結構その感覚が強くて、すごく内面化していますよね。
茂木:そうなんですか。
児玉:私は今31、32歳ぐらいなんですけど、私ですら、「若い子は…」と言いたくなってしまうくらいなんです(笑)。自分を、そんなに喜んで、いわゆる“市場”に商品として飛び込んでいかなくていいのに、と、私はちょっと思ってしまうんですよね。
恋愛とかも、今は「恋愛市場」という表現があるじゃないですか。
茂木:ありますよね。それこそ、お互いに右スワイプで…。
児玉:そうです(笑)。恋愛ですら市場化した、と言うか、それで、いかに自分が上手に消費されていくか、みたいなことを(している)。
私が学生の時は就活がフィーバーしている時だったので、それに対しての反動みたいなものがあって皆嫌がっていたんですけれど、(今の若い子たちは)なんかノリノリだな、と思いながら見ています。
茂木:そこら辺も含めていろいろご覧になっているから、今回のような、本当に現代に刺さる小説になったと思うんですけど。
このタイトルも、『目立った傷や汚れなし』。これはもちろん商品のことなんですけど、人間もそういう風に見られてしまう時代ですよね。

児玉:そうです。私自身もフリマアプリを使っていて、「使用感あり」とか、「新品同様」とか、「目立った傷や汚れなし」とか、何をもってそう言うんだろう、と、出品する時にすごく迷ったりします。
茂木:この『目立った傷や汚れなし』というのは、フリマアプリでよく使われる言葉なんですね。
児玉:はい。何をもって「目立った傷」なのかな、と。
茂木:ネタバレにならないようにあんまり言えないんですけど、僕はこの小説の“箱”のところがすごく心に残りまして。僕は「ある程度なら、箱が潰れたりしちゃっても別にいいじゃん」という方なんですが、世の中ではそうでもないんですね。
児玉:そうですよね。商品レビューとか、あとは本のレビューとかでも、内容ではなくて、「郵便の(過程で)、外の袋が汚れてました」みたいなことが書かれている時があるんですよ。
茂木:え、そんなことまで言われるんですか!
児玉:恐ろしくないですか? それで評価「1」を付けられたりするんですよ(笑)。
茂木:なかなか生きていくのが大変な時代ですね。
どうですか? 今回この本を出されて、書籍化されたものはこれが3作目ということですかね?
児玉:そうですね、小説としては3冊目です。
茂木:手応えはいかがですか?
児玉:いや、もっと売れたいですね(笑)。さっきまで私が「市場に出ていくなんて」とか言っていましたけど、私は売れたいですね。
茂木:今回の小説は、商品のことを言ってるようで実は人間のことを言われてしまっているような気がするところが、すごく心に残りますね。
児玉:ありがとうございます。
茂木:児玉さん。この『目立った傷や汚れなし』のイベントがあるそうですね。
児玉:はい。12月9日に、東京の青山ブックセンターで、ソロアイドルの寺嶋由芙さんという方と、トークとサイン会を行いますので、ぜひぜひ、公式ホームページからご覧ください。

●児玉雨子 (@kodamameko)さん 公式 X(旧Twitter)
●青山ブックセンター 公式サイト
↑『目立った傷や汚れなし』刊行記念
児玉雨子(作詞家・小説家)×寺嶋由芙(ソロアイドル)トークイベントの詳細は、こちらの「青山ブックセンター」公式サイトをご覧ください。
●目立った傷や汚れなし / 児玉 雨子 (著)
(Amazon)● 児玉雨子さん 公式サイト
●河出書房新社 公式サイト









