Dream Heart(ドリームハート)

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REPORT 最新のオンエアレポート

Dream HEART vol.210 ロジャー・ロス・ウィリアムズさん

2017年04月08日

今夜お迎えしたのは、4月8日から、シネスイッチ銀座他にて、全国順次ロードショーされる、映画「ぼくと魔法の言葉たち」の監督、ロジャー・ロス・ウィリアムズさんです。

ロジャー・ロス・ウィリアムズさんは、ノーザンプトンコミュニティカレッジと、ニューヨーク大学で学び、TVプロデューサー、演出家として15年以上に渡り、第一線で活躍されていました。
その後、映画監督に転身され、初監督作品「Music by Prudence」では、第82回アカデミー賞の短編ドキュメンタリー映画賞を受賞されました。

今回、公開される映画「ぼくと魔法の言葉たち」でも、第89回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされるなど、高く評価されている監督です。
今週は、ロジャー・ロス・ウィリアムズさんをお迎えして映画「ぼくと魔法の言葉たち」についてお話を伺いました






──声なき者に声を与えたい


茂木:映画「ぼくと魔法の言葉たち」は、ピューリッツァー賞の受賞作家、ロン・サスカインドさんが自閉症であるご自身の息子さんについて書かれた書籍「ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと」が原作になっています。
この本をテーマにドキュメンタリーを撮ろうと思ったきっかけは何だったんですか?

ロジャー:ロン・サスカインドさんの息子、オーウェンの物語なんですけど、今は青年である彼は、幼い時に言葉を失ってしまって、人とアイコンタクトを取れなくなっていたんです。どんな状態から、今は自立して一人暮らしまでしているんですね。
その素晴らしい道のりを綴った映画でもあります。そして、彼はディズニー映画が大好きで、特に共感するのは脇役たちだったんです。僕自身も、オーウェンと同じように脇役たちに感情移入をした経験があるので、彼の気持ちがすごく分かると思いました。
この映画を作ることで彼に声を与えたい。彼という人間を知ってもらいたい。それを彼の視点から綴りたい。そう考えたのがきっかけですね。

茂木:素晴らしいですね!ロジャーさんは、「Music by Prudence」では障害を持たれた方が歌を通して自立していく姿を描かれていますし、「God Loves Uganda」ではジェンダーマイノリティーの側に立って映画作りをされていますよね。
一貫して、少数派や弱い立場の方に寄り添って映画を作られているのは、何か原点みたいなものがあったんですか?

ロジャー:それは、僕自身がはみ出し者の存在だったからなんですね。アメリカにおいて黒人であり、ゲイである。ですから、そのマイノリティーの声なき者に声を与えたい。アウトサイダーたちの物語を描いていきたいと思ったんです。

茂木:ロジャーさんは映画を作るにあたって、サスカインド一家と交流があったと思うんですけど、ディズニー作品がオーウェンの言葉を取り戻すほどの力になって、人生や世界に向き合えるようになったと思われますか?

ロジャー:僕が思うに、ディズニーのアニメ映画というのは、やはり寓話だと思うんです。何千年も昔からある神話的な物語をその時代にアップデートした作品たちであると思います。
オーウェンはそこに共感をするわけですけど、それは昔からある物語というのが、人間として人生を生きる上でガイドの役割を果たしてきたからなのではないでしょうか。
しかも、ディズニーのアニメ映画というのは感情や表情も誇張されていて分かりやすいというのもあったのだと思うんです。

茂木:映画の主人公ともいえるオーウェンさん。本当に印象的で魅力的な人なんですけど、映画に表れている以外の、オーウェンさんの印象のようなものはありますか?

ロジャー:撮影を1年以上していると、当然、映画の中には入り切らない部分もあります。オーウェンは、本当に人生を楽しんで生きていて、実は映画の中では登場していないんですが、コミュニティカレッジ内のラジオ番組でDJアニメーターとしてDJも担当しています。
そこでディズニーの曲をかけたりするんですが、映画に出てくるキャラクターや、映画の事をよく知っている彼は、アニメーション作品に出てくる曲もよく知っています。それぞれの曲が自分にとってどういう意味を持っているのか、っていう事を取材したり、聞いたりしたんですけど、それは、今回の映画には入っていません。
ただ、彼が生きていて辛い時は、その時の気持ちを表現するディズニーの曲を聴いたりしていたんです。



──映画を構成する、3つのアニメーション

茂木:この映画を日本の人にはどういう風に観てもらいたいと思っていますか?

ロジャー:自閉症に関する知識が無いという方は、この映画をご覧になった後で“自閉症ってこういう事なんだ”と知って欲しいですし、自閉症であるという事はこういう風に世界を見ているんだ、と、理解をしていただける。そんな作品になっています。
その為にこの映画は、オーウェンの視点からオーウェンの内なる世界に皆さんを誘い、内から外を見るように彼の世界を体験して、体感してもらうような作りにしています。

ご自身が自閉症の方が試写後に口を揃えておっしゃるのは、「自分たちをスクリーンで観ていた。オーウェンに自分たちの代表として表現してくれて、発信してくれてありがとう」と、オーウェンにお礼を言ったりしていました。
また、自閉症の方と一緒に暮らしていらっしゃるご家族の方には希望を感じていただける映画になっています。
原作の本も、映画も、彼という人間を知ってもらい、自閉症と共にある人を知ってもらう。それがゴールでもありました。
今、世界では4分の1の方が脳の働きに多様性のある形で生まれてきています。そういった方々も社会の中に居場所はちゃんとあるんだということ、
健常者と言われる私たちがその事をしっかりと受け止めることで彼らがもたらしてくれることの貢献を受けられるのだと思います。

茂木:映画「ぼくと魔法の言葉たち」は、オーウェンさんを撮っている実写の部分と、ディズニーのアニメーションを見事に融合して編集しているんですけど、あの編集のフォーマットっていうのはどのように思いついたんですか?

ロジャー:実は今回、3つの種類のアニメーションを使っています。一つは、オーウェンが大好きな、手書きのクラシックなディズニーアニメーションの映像。
そして、次はオーウェン自身が作りだした物語をアニメーション化したものなんですけど、これは、書籍「ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと」の最後の1章で描かれているオーウェンによる物語「脇役たち」から脚色したものになります。

物語としては、オーウェン自身が自閉症を発症した年と同じ、3歳の少年と脇役たちが、ヒーローがいなくなった後にどうしていいか分からなくなり、主人公の男の子と一緒に悪役と戦いながら、自分たちなりのヒーローを見つけていく物語なんです。
これは、オーウェンの自伝でもあります。本当に美しいストーリーで、僕はこれを読んだ時から“映画の中でなんとか表現したい”と考えていました。
というのも、オーウェン自身が人生の中で様々な苦難を乗り越えてきた瞬間が写し出された物語だからなんです。
そして、もう一つのアニメーション。僕はバックストーリーと呼んでいるんですけど、白黒の線画アニメーションになります。これは、オーウェンの映像を合わせてアニメーションを作っているんです。本当に大変でした!編集に1年かかりましたね。

茂木:ディズニーのアニメを引用する時の権利処理なんかも大変だったと思うんですが、この辺りについても教えていただけますか?

ロジャー:彼らを説得するには苦労もありましたが、オーウェンは現在「ディズニークラブ」という、ディズニーの映画を観て一緒にディスカッションするクラブを始めています。
その様子や、サスカインド家のホームムービー、僕がこの映画で綴ろうとしているストーリーについての話をプレゼンしたところ、ディズニーの方々が皆、涙されまして、“好きに作ってくれ”と言ってくださいました。

茂木:実は、ウォルトディズニー自身もスペクトラムの中にいた人だと思うんですけど、そういう意味においては、今回の作品がディズニーアニメーションの持っている魅力の一番深い所を描いていると思うんです。ディズニーのファンの方にも観ていただきたいなって思いますね。

ロジャー:茂木さんがおっしゃったように、ウォルトディズニー自身がスペクトラムだったかもしれないというのは非常に興味深い事ですね。僕も、この作品をディズニーのファンの方にも観ていただきたいと思っていますし、絶対に楽しんでいただけると思います!



映画『ぼくと魔法の言葉たち』公式サイト
※上映する劇場については、公式サイトでご確認ください。

『ぼくと魔法の言葉たち』 (@bokutomahou) | Twitter


来週のゲストも引き続き、映画「ぼくと魔法の言葉たち」の監督、ロジャー・ロス・ウィリアムズさんをお迎えしてお話をうかがっていきます。
どうぞお楽しみに。