Dream Heart(ドリームハート)

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REPORT 最新のオンエアレポート

Dream HEART vol.278 辻仁成さん

2018年07月28日

今週ゲストにお迎えしたのは、河出書房新社から小説「真夜中の子供」を刊行されました作家の辻仁成さんです。

辻仁成さんは、1959年 東京生まれ。
1979年にロックバンド「ECHOES」を結成されました。

1989年には小説『ピアニシモ』で第13回すばる文学賞を受賞、
1997年には『海峡の光』で第116回芥川賞を受賞されます。
1999年に『白仏』のフランス語訳にて、フランスの代表的な文学賞であるフェミナ賞の外国小説賞を日本人として初めて受賞されました。

著書には『冷静と情熱のあいだ Blu』、『日付変更線 The Date Line』、『父 Mon Pere』、『エッグマン』など多数ございます。




──中洲を通して日本を描く


茂木:今回のご著書『真夜中の子供』こちらは人情ものと言っていいんですかね?

辻:『海峡の光』という作品が芥川賞をとったんですけど、あれは函館少年刑務所を描いた受刑者を描いた、箱庭的な世界を描いた小説で、当時の日本の空気感を出したいと思って刑務所の中を世界を描くことで日本を描くっていうことを試みた作品なんです。
僕の作品の中では骨太な作品で、そのあとの『白仏』とかにも流れが近いんですけど、そういえばああいう小説書いてなかったなぁと思って河出書房の編集長と編集担当の方と協議した時に、
もう1回時代が変わって今の時代の日本の空気感を文学にしてみたいという話になって取り組んだのが『真夜中の子供』なんです。
舞台は福岡の中洲なんですけど、これがやっぱり箱庭的世界で。西日本最大の歓楽地の中にある小さな中洲の島。その中の世界に生きる少年の話を書くことで、今の日本の空気感みたいなものを出したいと思ったんです。

茂木:大きなテーマとして、戸籍がない子供という存在なんですけど、実際にそういう子供がいるんですか?

辻:そうですね。日本で戸籍を持ってない、日本人なのに戸籍がないことで無国籍になってるっていう子達はいっぱいいます。
ただ誤解されないために言うと、そこがテーマじゃないんですよ。この作品をもっと人間の根源的な愛とか、人情とか人間の関係とか日本の空気感とか、そういうものを描いている。
エンターテイメントの要素もすごく強い作品なんですね。その中の一つのキーワードとして無戸籍という問題から入っているということだと思います。

茂木:そして、主人公の少年・蓮司は、中洲を自分の国だと思っているんですよね。

辻:彼は戸籍がないことで中洲の中に「中洲国」という国を作って、そこの人々が彼を支えて生きていくんですけど、舞台が博多ですから山笠の祭りとか色んなものが関わってきて、少年の孤独を成長へと結びつけていくというような形の話ですね。

茂木:辻さんは東京生まれで、各地に移り住まれていたとのことですが、祭りのシーンの描写が素晴らしいんですけど、これは実際に取材とかされたんですか?

辻:幼稚園から小学校いっぱいまで福岡に住んでいて、小さい頃にお祭りを見たりはしてましたね。
今も実家が福岡にあるんですけど、この中洲という場所は博多区と福岡市のちょうど真ん中にあって、
武家と商人の真ん中にある場所なので、歴史的にも面白く、地政学的なものを持ってるところなんです。
ここをテーマにすることが島国である日本が、世界の中でどういう風な役割にあるのか、みたいなことも描けるなと思って。そこに一人の少年を置いたという感じなんですよね。

茂木:すごく印象的な台詞だったのが、蓮司が「中洲の人は怖いって思われてるかもしれないけど、そんなことない。良い人なんだ。」って事を警察に言うじゃないですか。あれがすごく印象的なんですよ。

辻:博多の人は皆さん素晴らしいですけど、僕は逆に中洲の中で働いてる方々の情の深さにはちょっと感動していて。だから山笠があるんですよ。
もう過去の話になりますけど、山笠山の台上がりにふんどし締めて上がったことがあるんです。

茂木:上がったんですか!?すごい名誉なことですよね!

辻:そうなんです。博多っ子からするととても名誉なことで。
上がらないか?って言われた時は自分のいろんな姿が浮かびましたね。僕の弟も博多に住んでるんですけど、「兄貴すげぇなぁ」って言っていて。

茂木:それだけ山笠祭りには博多の方や中洲の方のエネルギーが集まってると思うんですけど、あのエネルギーはなんなんでしょうね。

辻:博多祇園山笠っていうのは祭りじゃないと僕は思ってるんです。どんたくはお祭りなんですけど、山笠は神事なんですよね。
日本の太古からある八百万の神じゃないけど、アニミズムの精神というか、そういうのがあって。あの人たちにとっては神様に対するお礼の儀式なんですよ。
中洲や博多が綺麗に治められているのは、この神事を通して人々が一体になってるからなんです。そこにこの小説の中心的な根っこがあるんです。




──子供のまっすぐな視線

茂木:この本は、鈴木成一デザイン室が作ってらっしゃるということで、素晴らしい表紙ですね!

辻:いいですよね!とっても象徴的な目力の強い少年で、まさにこの作中に出てくる主人公の蓮司を連想して作ったものなんです。
装丁を担当してくださった鈴木さんがやっている塾があるらしいんですけども、塾生たちにいろんな絵を書かせてみて、その中から選びたいんだけど…っていうアイディアをいただいたんですよ。そういう手もあるんだなぁと思って何枚か見た時に、この絵がもう素晴らしすぎて!
この絵じゃないですか?って言ったら鈴木さんもこれで行きたいと思ってた、と。

茂木:そういう風に選んだんですか!
小説の中では蓮司の目を「熱帯魚の目」という風に表現をされていますよね。これが大変印象的な表現で。

辻:虐待を受けている子どもたち、自分に降りかかっている現実をどこか俯瞰的に捉えているというか、一枚フィルターを通したまなざしで世界を見ているようなイメージがあって。それが水槽のなかから外の世界を見ている熱帯魚に似ていると思ったんです。本当は幸せになりたい、希望を持ちたいと思っていながらそこに期待を持てずにいる子どもたちの絶望的な視線に、私たち大人は全員気づかなければならないんです。
あらゆるところで虐待は起こっていたりするので、その子たちの視線に気が付かないといけないのは我々で、
そこで生きてる子供たちの切実な視線を受け止めるためにも、この絵は非常に大事な絵として描かれています。なので、本屋さんに行って、『真夜中の子供』の装丁の絵を見てもらえたらな、と思います。
この少年がこの小説に中に生きてるということを知ってもらいたい。そんな子達が日本にはいっぱいいて、親の虐待の中で本当は幸せになりたい、本当は希望を持ちたいと思ってる子達に寄り添えるような作品を描きたいと思って作ったんですね。

茂木:この作品、映画化されることが決まっていますが、蓮司のキャスティングとかってどうされるんですか?

辻:今、オーディションをやっているんですよ。次々にいろんな子達に会って原石を見つけて、その中から蓮司ぴったりの子を、装丁の絵に負けないくらい目力を持った子を見つけて来年撮りたいなと思っています。

茂木:蓮司役をどういうお子さんがやるのかっていうのが気になりますね。
そして、山笠のあのシーンがどうなるのか…。辻さんの小説ってやっぱり映像的な喜びがかなり満ち溢れているなあ、と思います

辻:そうですね。映像は僕の中に最初のイメージとして出てくるので、その映像文字化していくという中で小説が立体化していくので、この立体化した小説を実際にもう1回映像化するっていう作業に戻るんですよ。
その時、どうやったら実写できるんだろうかってことはやっぱりカメラマンとかスタッフと考えて撮影していくという形になっていくでしょうね。

茂木:とても楽しみにしております!


辻仁成 Official Web Site

辻仁成 (@TsujiHitonari) | Twitter

河出書房新社 公式サイト


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来週も引き続き、作家・辻仁成さんをお迎えします。
どうぞお楽しみに。