Dream Heart(ドリームハート)

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REPORT 最新のオンエアレポート

Dream HEART vol.305 作家 吉本ばななさん

2019年02月02日

今週ゲストにお迎えしたのは、角川書店から刊行されている『「違うこと」をしないこと』がベストセラーになっている、作家の吉本ばななさんです。

吉本さんは、1964年、東京都生まれ。
日本大学 芸術学部 文芸学科をご卒業後、
海燕新人文学賞を「キッチン」で受賞し、作家デビュー。
また、「キッチン」は、『うたかた/サンクチュアリ』とともに、
芸術選奨文部大臣賞新人賞を受賞されます。

そのほか、『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞を受賞を、
『TUGUMI』で山本周五郎賞を受賞、『アムリタ』で紫式部文学賞を受賞、
『不倫と南米』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。

諸作品は海外30数ヵ国以上で翻訳出版されており、
国内外問わず多くのファンを魅了していらっしゃいます。

現在は、noteにて配信中のメルマガ、「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた
単行本を発売するなど、ご活躍中でいらっしゃいます。

今週は、角川書店から刊行されています、
『「違うこと」をしないこと』についてお話を伺いました。




──やるべき事は本当は一つしかない

茂木:この本の帯には『「違うこと」とは、“その人の生き方の中で、今ここでするべきではない”こと。」と書いてあって。深いですよね。

吉本:そうですね。私の思っている意味は全然ほんわかした意味じゃないんですけどね。

茂木:極めてはっきりしてるんですよね。

吉本:武道みたいな、そんなイメージです。「違うこと」をしたらバサッと斬り殺されちゃったり、投げ飛ばされちゃったり…。

茂木:そういうイメージの言葉なんですね。

吉本:どちらかというとそちら寄りの気持ちでこの言葉を使っています。

茂木:そして、表紙がいろんなお饅頭が描いてあって、本を開くとあんこの色になっているという。

吉本:そうなんです。だから、“読み終わったら大福食べたくなったよ〜。”っていう感想が結構多くて(笑)。
実はこの表紙のイラスト、ハンコでできてるんですよね。ハンコ作家の人の作品なんです。この人のハンコで作る食べ物が本当に美味しそうで!

茂木:本当に美味しそう!

吉本:絶対に頼みたいと思って、最終的にはすごく強く推させてもらって実現したので嬉しかったです。

茂木:改めて、『「違うこと」をしないこと』とは、どういうことなのか、お聞きしてもよろしいですか?

吉本:その人が、その時・その場所ですべき事って一個しかないと思うんですよ。
それは自然にそこに行くものだと思うんですね。いろんなものが集約されて、その人がその日・その時・その瞬間にすることは本当は一個しかないんだけど、
人間だから腹が減ったとか、眠いとか、忙しいとか、落ち込んでいるとか…。
ちょっとずつ「違うこと」を積み重ねちゃうとだんだん大きくなって、病気とか悩み事とか事件とかが生じちゃうんじゃないかなと思って、
「違うこと」をなるべくしないで生きていくっていうのが人間のとるべき道なんじゃないかなと思ったっていうのがきっかけです。そういう小説を書いたんですよ。
『花のベッドでひるねして』っていう小説なんですけど、そこでこの言葉が出てきて。
この言葉に担当の岸本さんとライターの滝さんが強く反応して。そのことで本を作れないかというご相談があったんです。

茂木:『「違うこと」をしないこと』を読むと、どうしたら自分のやるべき事・いるべき場所が見つかるのか、っていうヒントが詰まっていますよね。ばななさんは人生の中でそういうことが最初からできたんですか?

吉本:いや、やっぱり試行錯誤ですよ。裸足で吉兆に行ったこともありますし。

茂木:裸足で吉兆に行かれたんですか!

吉本:バブルの時代だったから、こういうラジオの収録とかあった後に、今から吉兆に行こうっていうことが起こりうる時代だったんですよ。

茂木:はいはい。

吉本:どうしようもないじゃないですか。今、自分は裸足だし、靴下買ってもサンダル履いてるから靴下履けないし…。足袋?とか色々考えたんだけど、結局そのまま入って。
大変に失礼な人としてその日1日を過ごしたりとかしました(笑)。そうすると、やっぱりこういう時のためにあれを持ってた方がいいんだなという感じで学んでいったんだと思います。

茂木:なんとなく、今の職場とか人間関係に違和感を感じていても我慢してる人も多いと思うんですけど、そういう人はどうすればいいんですか?

吉本:やっぱり、そういう人はメリハリですかね。我慢してる時はうんと我慢して、夜弾けるみたいな。

茂木:我慢は悪いことではないんですね。

吉本:うん。身の振り方ですよね。





──人生は修行

茂木:この本の中で書かれている、ジョブズとウォズニアックだったら、ウォズニアックが良いという話が斬新でしたね!

吉本:そうですか!私は初めからずっとそう思ってました。AppleのIIとかが出る頃から。

茂木:その頃からですか!Appleの共同創業者スティーブ・ジョブスさんとスティーブ・ウォズニアックさんだったら、ジョブスさんの方が色々と派手だし経営もやっているし注目される人が多いんですけど…。

吉本:ウォズニアックさんはエンジニア!って感じですよね。

茂木:オタクで、自分の好きなことやっていて、そんなにお金も稼がなくてもいいかな、みたいな。ああいう生き方も素敵だなと思います。

吉本:私は(Appleが)倉庫でできた頃からウォズニアックが好きだったから、本が出たときは嬉しくって。

茂木:ウォズニアック的な生き方ってなんなんですかね。

吉本:私から見たら、私の心の中で素直にあの人が素敵だと思うから、曲げられないな、変えられないなっていうのを認めるところから始めたかな。

茂木:変えられない。

吉本:この人がいなきゃ、きっとMacができなかっただろうなって、初めから注目していて。

茂木:そうですよね。ジョブズさんも大事だけどウォズニアックさんがいなかったらできていないですからね。
でも、リスナーの中や、ばななさんの愛読者の中には「自分らしく生きたい」っていう人が多いと思うんです。だけど、ばななさんだから、こういう気づきができるのかな。

吉本:よく言われます。親とか兄弟とかじゃなくて、知らない人に「自分はこれができないけど、あなたはできる」っていう気持ちをぶつけられるって、すごいことだなって思って。
なんか逆に感心しちゃう。凄い事言うねって。

茂木:ポジティブですね!

吉本:ポジティブというか、ニュートラルかな。でも、(そう言って来た相手に)自分の生活の中でも、とっても楽しいこととかあるんじゃないですか?っていう風に聞くと、なんだかんだ言ってあるので。

茂木:そして、本の最後には人生相談みたいなページがあって、すごく素敵だなと思ったのが、
「とりあえず元気を出そうと思ったら何をしますか?」っていう質問に「一人居酒屋」と答えられてるんですよね。一人居酒屋されるんですか?

吉本:はい。一人居酒屋いいですよ〜。

茂木:一人で夕方、居酒屋に入ってビールとつまみをしみじみ楽しむ。ばななさんにもこういう時間があるんですね。

吉本:あります。無理にでも捻出してます(笑)。

茂木:居酒屋ではどんな風に過ごしているんですか?

吉本:ボーッとしているんですけど、メモとかを取ったり、取材も兼ねて周りの人の話を聞いたりしてます。

茂木:それは何年後かに小説になったりするのかなぁ?

吉本:なったことありますね。一人居酒屋、とても大切ですよ。

茂木:今回の本は、ばななさんのファンにとっても本当に素晴らしいですし、僕にとってもドキッとする本でした!
現代人、多くの人が「違うこと」をしちゃっている気がしません?

吉本:でも、肉体がある限りは絶対「違うこと」をすると思います。「違うこと」をしちゃうようにできているというか…。

茂木:これは宿命なんですね。

吉本:そうです。だから、「違うこと」をしないってよりも、「違うこと」をしないようにちょっとずつ近づけていくっていうのが人生かなって思います。

茂木:修行じゃないですか!

吉本:そうです!武道に近い感じです。

茂木:だって、ばななさんの前世はチベットの僧侶で、そのときにすでに修行をしていたんでしょ?
この人生でも修行するんですか?

吉本:まあ、修行が人生じゃないですか。誰にとっても。

茂木:じゃあ、今すぐ完全にできなくてもいいんですね。

吉本:そもそも、体があったらできないと思う。できないことを楽しまないと!

茂木:楽しんじゃえばいいんですね。自分の本性というか、本来の姿があって。
できるだけそこに近づけばいいけど、それとズレちゃうことが人間関係とか仕事とかであったとしても、それはもうしょうがない。

吉本:体の反応だったりするから。

茂木:少しずつ近づけていけば良いと。

吉本:うん。なるべくちょっとずつ近づけていきながら調整していく、その見極めが大切なのかなと思います。

茂木:すごい本ですね!





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