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20.10.22
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悲願の本格操業再開へ~福島・相馬の漁師の思いを聞く


全国各地の災害被災地の「今」と、その土地に暮らす人たちの取り組みや、地域の魅力をお伝えしていくプログラム、「Hand in Hand」。今回のテーマは、

「悲願の本格操業再開へ~福島・相馬の漁師の思いを聞く」。

ダイジェスト動画はこちら

福島沖は、暖流の黒潮と寒流の親潮がぶつかる“潮目”と呼ばれるプランクトンの豊富な海域で、獲れる魚種は200種以上と非常に多く、しかもこの海域で揚がる魚は、肉厚で身の質もいいということで、“常磐もの”と呼ばれ、高値で取引されてきました。

ただ、2011年に東日本大震災、そして東京電力福島第1原発事故が起こり、あれから9年半余りたった今でも、福島県では、魚を獲る日数や規模を限定、漁業を試験的に行う、「試験操業」という独自の漁業体制を続けています。福島県の漁連は、国の基準値を超える魚介類が市場に出回らないよう<1キロ当たりの放射性セシウムが50ベクレル以下>という、国の基準100ベクレル以下よりも更に厳しい自主基準値を設定。魚介類はもちろん、海水に含まれる放射性物質の状況なども含め調査を重ねてきました。震災翌年の対象魚種は、モニタリング検査で安全の確認されたミズダコなど、わずか3種類のみでしたが、安全性が確認されるたびに徐々に出荷制限を解除、水揚げ対象魚種の拡大を図ってきた結果、今年2月にはすべての制限が解除されました。そして先月29日、福島県漁連はついに、2021年4月の本操業再開を目指すことを発表しました。

復興へ向けて着実に歩みを進める福島の海。そんな“豊饒の海”を漁場にする相馬漁師の4代目、相馬双葉漁協の主力である「沖合底引き網漁」の菊地基文さんにお話を伺いました。聞き手は福島県出身の社会学者で、福島大学「うつくしまふくしま未来支援センター」特任研究員も務める開沼博さんです。

◆◆

開沼 菊地さんはずっと福島の漁業に携わられてきて、その中で今、試験操業が結構始まってから時間が経っています。現状なかなか伝わっていない部分もあると思いますので、どういう状況か教えていただければと思います。

菊地 まあ、震災原発事故があって操業自粛が続いて、1年3ヶ月後にサンプリングで魚をとって、安全性が確認された魚種に限って市場と消費者の動向を調べるという目的で試験操業というのが始まったんですけど、それがどんどんモニタリングを重ねて安全性が確認された魚を随時出荷規制から外して、で地道に魚種が増えて操業海域も増えて今に至るという感じですね。だから今はほとんどの魚は出荷ができるようになって。ただ漁場はもうちょっと制限されているんですけど、まあほぼ魚種に関しては出荷できるようになりました。ただ操業時間がまだ短いので、水揚げ量的にはまだ震災前の実績の2割とかそれくらいではあります。

開沼 まあ、だいぶ元通りになってきた部分もあるということだと思いますけれども、ただ元通りになっていない部分まだここから大変だなというところが色々とあると思います。

菊地 やっぱり水揚げ量的にも、まあ自分は沖合底引き網漁と言って泊まりがけで漁をしてくる操業内容だったんですけれども、今は試験操業で日帰りで戻ってくるので行ける漁場も限られているので、そういう水揚げ量的なところとか、あとは魚価ですね。まあじわじわ震災前の魚価に戻りつつはあるんですけど、それでもまだ当時よりは安値で取引されているという現状もあるので、その魚価の回復というところですかね。

開沼 そういう所ってやっぱり漁師の方たちにとっては、例えば若い人がじゃあ自分は漁業をこれからやっていくぞという気持ちとかモチベーションを下げてしまう部分もどうしても出てくるのかなという風に想像しますが、そこら辺はいかがでしょうか。菊地さん自体は若くずっとやっていらっしゃいますけれども、いかがですか。

菊地 まあ、若くもないですけどね。もう44歳ですからね。まあでも自分は別に震災があっても、原発事故があってもなくても漁業を取り巻く環境ってどんどん厳しくなってきてたから、逆に個人的な考えですけど、あれがあったから逆にその魚の価値ってどうやったらあげられるんだろうとか考えられたし、実際そういうことに取り組む時間もできたし、まるっきりマイナスじゃなくて、楽しいことばかり考えて、どうやっておもしろい取り組みにできるかとか、そういうことばかり考えてやっているんで、別に苦労したとか全然思っていなくて、そういう風に捉えれば全然下を向くこともなくなると思うし。後継者は毎年増えているんですよ。やっぱり漁業の魅力って、本来は獲ったら獲ったぶんお金になるという仕事だから、漁師の醍醐味というところ、まあ他の浜よりは水揚げも下げずにやっていた浜だったから、後継者はもともと多かったですね。ただ震災後も世襲なんですよ。結局個人の家庭で船を経営しているから、だからお父さんがかっこいいからとか、お父さんが海で稼いでくるからその仕事に憧れて、自分の息子とかが後を継ぐというのがずっと続いているんですよね。




漁の時間や漁場が制限される「試験操業」が続く厳しい状況下でも、“後継者が途切れることなく増えている”というのは、地元漁業関係者の希望となっているのではないでしょうか。

また水揚げされた魚介類も当初は県内のみの流通でしたが、安全性を示すデータを積み上げることで出荷先が拡大。流通大手のイオンが「福島鮮魚便」と銘打った販売コーナーを設けるなど、現在は39都道府県に「常磐もの」の県産魚介類が流通しています。

ただ農林水産省が昨年まとめた18年漁業センサス(実態調査)によると、過去1年間に利益などを得るために漁業を行った世帯や事業所を指す「漁業経営体」の数は、福島県では、ようやく半分の水準にたどり着いた段階。まだまだ課題も多い福島県の漁業ですが、“常磐もの”への自信については、菊地さん、胸を張ります。

◆◆

開沼 改めて今どういう魚種を取っているかとかいうのは、なかなか外から見ていると想像もつかないので、例えばこういう魚をとっていますとか、あるいはこういう料理の仕方をすると美味しい、こういうのがありますとか教えてもらえますか。

菊地 ざっくり言うと水産業界ってすごく閉鎖的な業界で、何々漁港ってググっても魚種とかそういう調理方法とかなかなか出にくい産業ではあるんですよね。ただそういうところも震災後に気づかされて、だったら自分たちで発信すればいいやとか、いろんな取り組みを現在も引き続きやっているんですけど、この魚はこうやって食べたら美味しいんだよ、とかというのって、漁師が言ったらまずい訳ないじゃないですか。だからそういうのも活かしながら、漁師目線で発信していけたらと思っていますね。カレイひとつ言っても ここは震災前はカレイの水揚げ日本一の漁港だったんです。カレイはカレイ1魚種しかないと思われがちなんですけど、この浜でも20種類以上のカレイ魚種がかかるんですけど、やっぱり刺身で美味しい魚、煮付けで美味しい魚、焼き物で美味しい魚、揚げ物で美味しい魚とか、色々あるんでここは。今日話し出したら明日までかかりますね。今のこの季節でいったら、やっぱりヒラメですかね。常磐もののヒラメ。ヒラメも震災前は日本一の水揚げがあった場所で、他の漁港と決定的に違うのは自然管理に特化している浜でもあって、50cm以下のヒラメは漁獲しない。50cmですよ!で毎年夏場100万尾放流するんです。その資本というのも自分達の水揚げから払うんです。稚魚種苗栽培というのをずっと震災前から続けていて。なので資源も毎年潤沢にあるし、ここって日本の中でも有数の遠浅の地形なんです。そういうところでカレイ類ヒラメ類のいい棲家になっている。だからクオリティ的にも品質もいいヒラメとかカレイが育つので、胸を張れるような魚だと思います。


(取材の夜に相馬で頂いた常磐もののヒラメの刺し盛。部位ごとに味わいの違いを堪能しました)

以前、富岡町の「長栄丸」に乗ってヒラメ釣りをした時に体験した“50cm以下はリリース”というルール。こうした独自のルールだけじゃなく、漁に携わる人たちが稚魚をまくなど、資源を守っていることが、“常磐もの”の背景にはあります。その美味しさを説明するのに、“明日までかかる”と菊地さんは言っていましたが、菊地さんは震災後、クセのないプリプリの身が美味しい“どんこ”など、各地で“常磐もの”の魚を使ったイベントを開き、その質の高さ、美味しさを伝え続けている人でもあります。

“魚価もかなり回復してきた”というお話しでしたが、これまで対峙してきた“風評被害”への対策については、こんな答えが返ってきました。

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菊地 まあ、これは漁協の意見としてじゃなくて個人的な考え方なんですけど。魚はそこから、地場から発信して魅力的だなと思わせる事っていうのが、ひいては魚価につながってくることだと思うし、まあちょっと細かく言い出したら難しいんですけど、魚って、今まで大規模物流に乗って大消費地に流れていった訳で、物流の中には仲買さんが荷受け業者さんに送る。で、向こうの豊洲なんかの市場価格に左右されてきたんですね。この地方卸売市場というのはそこの中央市場出荷の割合が大体8割9割だったんです。ここの浜はそうじゃなくて、もうちょっとその割合を下げて一般の小売、飲食店だったり。そういうところにお客さんが増えれば、自分の言い値で値段をつけられるんじゃないですか、ここの仲買さんは。だから市場出荷を抑えてお客さんを作る、販路を作るということで結構魚価も上がってくるなとは思うんですよね。プラス今までここの市場で値がつかない魚とかある訳です。そういう魚に値がつけば、それが水揚げの補填にもなるし、それが今までの実績を上回るかもしれないし。そういうものに値がつけば、マグロの大トロだって、あんこうだって昔は“猫またぎ”と言われて誰も目をつけなかった魚だし、それがどんどん高級魚に生まれ変わっていった訳だから、どんな魚でもスターになる可能性はあるから、そういうものを生み出すということもここの浜の魚の価値につながってくることだと思うから。自分たちも EC とかそういうのも使って、直接そういう名前も知らないけど美味しい、というような魚を一消費者に直接届けられるような仕組みも今構築中なので、そういう挙げただけでもいくつかあったけれども、もっともっとやりようはあると思うから、そういうのを一つひとつ楽しいことを、自分たちがやって楽しい取り組みに変えられればいいなと思いながらやっていこうかな、と思います。

開沼 まあ、まだまだ漁師としての人生は長いかと思います。こういうことをやっていきたいなとか、淡々とやっていくところなのかもしれないですけども、何かあれば教えてください。

菊地 目標とかはあまり作っていなくて、なんか自分のやりたいことをやっていければなと思っています。俺は51歳で死ぬと考えながら生きているから。うちのじいちゃんも親父も51歳で死んでるんですよ。じいちゃんの場合、俺小学校くらいの時によく口癖で「ああ早く死にてえな」とか言っていて、なんかその意味が今くらいになってすごくよく分かるようになってきて。もうやりきったからいつ死んでもいいやみたいなことから、そういうことを言っていたのかなとか考えると、何かすごくじいちゃんかっこいいなと思い始めて。だから何か自分もその血を継いでいる訳だから、そうやって死ねればなと思っていて。だから漠然と目標というよりは、自分でやってやると、出来る、必ず出来るみたいな目標をというくらいしか置いていなくて・・・(笑)


「悲願の本操業再開へ~福島・相馬の漁師の思いを聞く」。福島県漁連では、来たる来春の本格操業に先駆けて、新たな漁業復興計画を9月からスタートさせています。相馬双葉漁協の主力である沖合底引き漁船の2024年の水揚げ総量の目標を2888トンと定めるなど、現在は震災前の2割程度にとどまる水揚げ量を、今後5年間で6割程度まで回復させるとしています。

そして菊地さんが拠点とする松川浦でも、地元海産物などを直売する相馬復興市民市場「浜の駅松川浦」が25日にオープン!隣接地には大型遊具を備えた「尾浜こども公園」も開園するなど、にぎわい再開へ向けた明るい話題が続いています。

そんな豊かさを取り戻しつつある福島の海で常磐ものを釣ろう!と、じつはこの取材の翌日、復興庁主催の企画、「『常磐もの』で福島の今を体感 2020~釣れたヒラメでリモートクッキング!~」の一環である、“ヒラメ釣り”に挑戦しました!果たして大物をゲットすることは出来たのかどうか・・・その結果はまた来週お届けします。

では、ここでプレゼントのお知らせです。

今回は、相馬の海の味のお裾分け・・・相馬市「海鮮フーズ」の、「あんこうの肝和え」を、3名様にプレゼントします。相馬の郷土料理を商品化、県知事賞も受賞している一品です。


ご希望の方は、下記のクイズの答えを書いて、メールフォームからご応募ください。

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Q:消費者により安心して食べてもらうため、福島県の漁業組合連合会で設定している放射線量の基準値は、以下のどちらでしょうか。

①国の基準値と同じ100Bq/kg
②国の基準値より厳しい50Bq/kg
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下記マンガの中にヒントがあります。

タブレット先生と宝探し|タブレット先生の「福島の今」
キャイ~ンの福島探訪記 美味しい魚とスーパー科学に出会った

メールに答えの番号とともに「あんこうの肝和え希望」と書いて、今回の感想やご紹介した相馬市の漁師の皆さんへの応援メッセージなどもお書き添えのうえ、プレゼントにご応募ください。頂いた応援メッセージの一部は、復興庁の(Hand in Handレポート)でも、個人情報を伏せてご紹介させて頂きます。是非たくさんのエールをお待ちしています。

今回の取材の様子は、動画でもご覧頂けます。
下記「タブレット先生の『福島の今』」にアクセスいただき是非ご覧ください。
https://www.fukko-pr.reconstruction.go.jp/2018/fukushimanoima/

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「Hand in Hand」、次回のテーマは、「豊饒の海、福島沖で常磐ものを釣って味わう!」。“豊饒の海”の現状を、釣って、食べて、楽しんで、多くの人に知ってもらおうという企画、「『常磐もの』で福島の今を体感2020~釣れたヒラメでリモートクッキング!~」の一環で行われた“ヒラメ釣り”にチャレンジした模様などをお届けします。果たして大物をゲットすることは出来たんでしょうか?次回もどうぞお楽しみに。

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