
楢葉町の美味しい“季節の実り”を体感!
全国各地の災害被災地の「今」と、その土地に暮らす人たちの取り組みや、地域の魅力をお伝えしていくプログラム、「Hand in Hand」。今回のテーマは、
「楢葉町の美味しい“季節の実り”を体感!」。
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福島県楢葉町は、浜通り地方の南寄り、太平洋に面した町で、木戸川を遡上するサケや、ユズの栽培が有名、国内最高水準のサッカートレーニング施設、「Jヴィレッジ」のある町としても知られています。2011年の東日本大震災では震度6強の揺れに見舞われ、沿岸部には推定10.5mの津波が押し寄せ、甚大な被害を受けました。そして東京電力福島第一原子力発電所での事故が発生し、発電所から概ね20km前後の距離にある楢葉町も大半が警戒区域に指定されました。その後、2015年9月に避難指示が解除。今年の7月には、居住人口が4000人を超え、町に活気が戻ってきています。
10月下旬、サツマイモの収穫、そしてユズの収穫が最盛期を迎えていた楢葉町を訪ね、町を代表するこの2つの名物の生産を通じ、町のにぎわい再生に取り組む方たちにお話を伺いました。
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楢葉町では、耕作放棄地の活用と原発事故により避難した住民の帰還を促すため、大阪に本社がある「白ハト食品工業」と共同し、2017年に、サツマイモの試験栽培を開始しました。2019年には福島県産農産物の風評払拭と、ITを駆使した未来型大型農業の実現を目的に、「白ハト食品工業」のグループ会社となる「福島しろはとファーム」が設立されました。1.3haから始まったサツマイモ生産は、今ではその約30倍の約40haとなっています。町内の海に面した場所には、一面にサツマイモ畑が広がっていますが、そこに建つのが、楢葉町施設「楢葉おいも熟成蔵」。今年9月に出来たばかりで、国内最大級のさつまいも貯蔵庫です。
サツマイモは収穫したては糖度が低いので、キュアリングといって、収穫時についた傷を癒しつつ、熟成させ、甘さをひきだしてから出荷します。生産からキュアリング、出荷までを一貫して手掛けるための拠点施設として誕生したのが、この「楢葉おいも熟成蔵」です。
この貯蔵庫の運営を担う現地法人、「福島しろはとファーム」で、生産ほ場を統括する瀧澤芽衣さんにお話を伺いました。
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高橋 あまりに規模が大きくてコストコに来たのかなと思うくらいすごく大きくて綺麗で、本当にしっかり徹底的に管理されているなという感じがしました。
瀧澤 この貯蔵庫全体でキュアリング室が4部屋、定温貯蔵庫が4つあります。キュアリング室が一部屋48tなので192tのキュアリングが一気にできるような設備になっています。貯蔵庫の方は一部屋315tなので、4部屋満タンに入りますと1260tのお芋がここで貯蔵できるような規模になっています。私達が栽培している面積が40haありまして、800~1000tくらい今やっている面積だけでも採れるようになります。貯蔵庫の中にはだいたい1500~1600tのお芋が貯蔵できるので、もっと広い面積を作っても大丈夫だよというような貯蔵庫の仕組みになっています。
高橋 楢葉をさつまいも産地化するという取り組みはいつから始まってたんですか。
瀧澤 最初にお話を頂いたのが四年前、2015年に茨城県で私たちが農業体験型のテーマパークを立ち上げまして、そのお話を繋いでくださった方がいるんですが、農業をただ農業としてやるだけではなくて、消費者の方に安心安全を自分で体感していただくということを具現化しているところに非常に興味を持たれて、是非同じような形で福島楢葉でできないかということでこの話をいただきました。
高橋 さつまいもを育てる上で気候的なことも適している部分が楢葉にはあるんですか。
瀧澤 そうですね。さつまいもというと鹿児島とか九州のイメージが強いと思うんですけれども、今地球温暖化も進んでいていろんな農作物への影響が出ていると思うんです。お芋ももしかしたら30年前はちょっと福島では無理だったかもしれないなとは思うんですけれども、今はお芋も十分に育つような条件が揃っているというのが実証実験でわかりまして、これはもう間違いなく作れるなというのを確認してからここに参入させてもらいました。
高橋 今日私たちが取材に来る前に地元の子供達もいたとおっしゃっていましたが、地元の中学生との交流もあるそうですね。
瀧澤 楢葉中学校さんとずっと関わりがありまして、一緒に商品開発をして、東京で販売するイベントをやったりというような取り組みをさせて頂いています。
高橋 子供達も自分たちが生まれ育った場所のさつまいもだったり、そういうことについて触れる事ってすごくいいことですもんね。
瀧澤 そうですね。震災で甚大な被害を受けて、戻ってきてこの地で住んでいても、やっぱり悲しいイメージとか暗いイメージというのがどうしてもあります。その中で、自分たちで出来ることは何かということをやったり一生懸命考えている子達がすごくたくさんいるんです。その中で一つの形にして、世の中の大人達や自分達と同世代の子達に発信ができるということに、すごくやりがいとか希望みたいなものを感じてくれる子達がいて、そういう子達と会話をしていると、やっぱりこういう取り組みってすごい大事だなというのを改めて思わされました。
高橋 地元の雇用を生んでいる部分もありますか。
瀧澤 やっぱりお仕事がなかなかないとか、1回なくなってしまったものをもう1回作るというのは非常に大変なイメージを持たれるけれども、そこで一緒に未来を作っていくことを実感したいという方達の雇用というところはすごくあるかなと思っています。今は産地を作るというところで、まずは原料をしっかり作っていくというところに視点を向けて仕事をさせていただいているんですが、私たちの得意とするところは、やっぱり消費者の方々に自分で体感していただくということ。安全はデータで証明ができるんですけど、安心ってやっぱり人間が感じるものなので、自分で体感しないとなかなか作り出せないものだと思っています。それをお母さんやお子さんという単位で体験していただくと、「なんだ、来てみたら全然大したことないじゃない」とか、「こんなに美味しいんだ!」というのを感じてもらうことで、それかだんだん当たり前になっていくので、そういう体験をもっと早く消費者の方に届けたいなと思っているので、そういう展開も今後考えてます。
高橋 その安全の面のデータも何かありますか。
瀧澤 私たちは楢葉町さんと一緒にこの事業をやらせていただいているのですが、もちろん検査をした上で、この土からは放射能や危ないものはないなというのを検査した状態でお芋を作らせて頂いています。やっぱりできたものに対して消費者は一番気になるところだと思うので、これは初年度からずっとJA福島さくらさんにお願いして検査していただいていて、データをしっかり取った上で安全だなというのを証明した上で使わせてもらってます。
福島県楢葉町の新しい名物となりつつあるサツマイモ。その生産にたずさわさる「福島しろはとファーム」の瀧澤芽衣さんのお話しでした。
この日、掘って持ち帰ったサツマイモは現在熟成待ち。そこで熟成済みのサツマイモ、その名も「福島ゴールド」を少し頂いて、万里恵さん、家で焼いて食べてみたところ、鮮やかな黄色とねっとりした口当たり、そして濃い甘みとコクで、小躍りするくらい美味しかったそうです。
「福島しろはとファーム」で収穫されたサツマイモは、おもに大学芋などに加工されて、「白ハト食品工業」の運営する全国の「らぽっぽファーム」の店舗やオンラインショップで販売されています。ぜひ味わってみてください。
「Hand in Hand」、「楢葉町の美味しい“季節の実り”を体感!」、つづいての“季節の実り”は、“ユズ”です。
かつて“ユズ栽培の北限地”とされていた楢葉町。比較的温暖な気候を利用して、じつは30年以上前に、町をあげて栽培が始まったというユズ。「ゆず香る文化の里」をキャッチフレーズに全世帯に苗を配布するなど、町興しにユズを活用。冬になると町じゅういたるところで黄色いゆずが実るのが、町の風景となっていたといいます。地元土産の、お酒やケーキ、アイスクリームなどをはじめ、町のマスコットキャラクターも、顔がユズの「ゆず太郎」というくらいのユズの町、楢葉。そんな名物のユズを手掛ける農家で、「楢葉町ユズ研究会」の会長でもある、松本広行さんの農園を訪ねて、お話を伺いました。
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高橋 楢葉がゆずの産地として有名だって知りませんでした。
松本 さかのぼれば昭和61年、「ゆず香る文化の里」という街を作ろうということで部会を作って、色々検討したんです。それで街全体をゆずにするのであればということで、街全体を黄金のゆず香る町にしようということで各家庭に1本ずつ配って植えてもらったんですね。だいたい2000軒に苗を配って植えてもらいました。昔からゆずの木は庭先に結構あったんです。当時は北限のゆず楢葉ということだったんです。今は岩手の方までだいぶ北上していますが、その当時は北限だと言ってやってましたね。私は2代目なんですが、このゆずの木を植えたのがうちの父親です。当初ここに100本植えて始まったんです。今も100本くらいあります。
高橋 震災の前はどのくらいの規模でゆずを栽培していたんですか。
松本 震災前はだいたい農家が10軒くらいかな。震災で避難して、こっちには来れなくて畑もそのままになっていたり、放射線関係でゆずの木を切らざるを得なかったりとかで、最終的に残ったのが3軒です。
高橋 震災当時、松本さんももちろん避難をされたんですよね。
松本 ゆずの木は年に2回くらい芽が出るんですが、それが5~6年経ったら枝というより木になっちゃうんですね。それをこっちに戻ってきてから剪定して今こんな状態なんですが、今町内のみんなは選定してないからそのまま大きくなっちゃって、採れなくなっています。
高橋 上の方になっちゃったりしますもんね。
松本 そうそう。それにトゲがあるんですよ。
松本さんによると、車のタイヤさえ貫くほどかたいユズのトゲ、触ってびっくり・・・(受けて)
震災から4年後、町の避難指示が解除になると同時に、松本さんは町に戻り、ユズ栽培を再開しました。でも畑のユズの木は大きくなりすぎて手が付けられないような状態。原発事故の影響もあって、10軒ほどあったユズ農家のほとんどが、営農再開をあきらめるような状況の中にあって、迷いはなかったんでしょうか。
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松本 やめようとは思わなかったな。早く震災前のように戻そうと、仲間の新妻さんって会長の奥さんが、戻ったら震災前に作っていたゆず酒をぜひ再開したいんだと。それですぐに再開できるように取り組もうということで、町の復興と言ったら大げさみたいな感じがするんだけど、復興の後押しにもなるのかな。そんな思いで、3年前にゆず酒を再開することができました。
高橋 避難指示が解除されたのは2015年で、そこから先ほどおっしゃっていたゆず酒、「ゆず里愛」というお酒ですけれども、その出荷が始まるまではどのくらいかかりましたか。
松本 2年かな。その間に放射線量の関係で県の方々にもお世話になりながら、とりあえずゆず農家3軒のゆずを採集してもらって、線量を2年間測定しました。20ベクレル以下になったら出荷しようということで、20ベクレル以下になったので、再開するかということになりました。
高橋 それだけ時をかけてできた「ゆず里愛」ですが、一本目ができた時はどう感じられましたか。
松本 感無量というか、これが第一歩だなという感じがしました。よしこれからまだがんばっていこうという。こういった震災を経験して、みんな落ち込むような感じがするんだけど、これがあってまた違うものがいっぱい生まれたような感じもするんだよね。やっぱり人と人とのつながりとか。一人では何もできないし、そういうのを感じたね。
濃厚なユズの香りが広がるリキュール「ゆず里愛」。その名の通り、ユズの里の愛情がいっぱいに詰まったお酒です。ロックやソーダ割がおススメですが、松本さんによると、湯飲みでお湯割りでも美味しいということです。町内の商店を中心に販売されています。
楢葉町は、今日紹介したさつまいも、ゆずに加えて、実は魚の鮭も有名な町です。町を流れる木戸川は、国内有数の鮭の捕獲数を誇る川ですが、昨年の台風19号により、鮭のやな場に被害を受けました。しかし今年も無事に鮭漁を行うことができました。ぜひ楢葉町で、鮭・サツマイモ・ゆずを味わって頂けたらと思います。天神岬には、太平洋が一望できる温泉宿もありますよ♪
さてここでプレゼントのお知らせです。今日はもちろん、松本さんたちが丹精こめて育てたユズを使ったお酒、「ならはのゆず里愛」(500ml)を3名の方にプレゼントします。
ご希望の方は、下記のメールフォームからご応募ください。応募の際、下記のクイズにお答え頂きます。
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■ 福島しろはとファームが楢葉町をさつまいもの産地に選んだのは、「農業を農業としてやるという目的以外に何があるでしょう?(動画の冒頭に答えのヒントがあります。)
① 消費者の方に安全・安心を自分で体感していただくため
② いもを活用して再生可能エネルギーつくり出すため
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ヒントは復興庁のサイト「タブレット先生の『福島の今』」にある「Hand in Handレポート」楢葉町の回の動画をご覧ください。
メールに答えの番号を書き添えたうえ、「ならはのゆず里愛希望」と書いて、ご応募ください。また番組の感想や、本日ご紹介した、楢葉町の皆さんへの応援メッセージもお待ちしています。頂いた応援メッセージの一部は、復興庁の〔Hand in Hand レポート〕でも、個人情報を伏せてご紹介させて頂きます。是非たくさんのエールをお待ちしています。
また、復興庁では、このたび特設サイトで、福島の食材を使った「おいしい福島」動画をYouTubeで公開をするとともに、ハッシュタグで応援しよう!という企画をスタートさせました。動画第1弾では、「バズレシピ」でおなじみの料理研究家の「リュウジ」さんが福島の食材を使った料理を紹介しています。動画でリュウジさんがつくった料理や、福島県産の食材を使った料理をつくってみた写真、動画などを、ハッシュタグ「#おいしい福島」を付けて、TwitterやInstagramで投稿して応援しよう!というものです。みなさんも是非ご参加をお願いします。
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来週の「Hand in Hand」は、シリーズ、「あれから10年、福島の被災地を行く」の双葉町編、「災害と復興の記録と記憶をここに刻む~東日本大震災・原子力災害伝承館」のレポートです。来週もぜひ聴いてください。